プレゼントはミュージックプレイヤーだった。
だがオレは、そのミュージックプレイヤーを使う気にはなれなかった。
あまり好みのデザインではなかったし、より性能の良いものをすでにひとつ持っていた。
――いや、本当は、そんなことが問題じゃない。
なぜだかオレは、頭からそのミュージックプレイヤーが苦手だった。
みていると妙に不安な気持ちになった。気分が悪く、涙が流れそうだった。ヴァンパイアが十字架を怖れ、犯罪者がサイレンの音を怖れるように、オレはそのミュージックプレイヤーを怖れていた。
とはいえプレゼントを捨ててしまうわけにもいかず、オレはそのミュージックプレイヤーを、長いあいだ引き出しの奥に放り込んでいた。
※
アイの入院は、いつになく長引いた。
春がきて、「夏までには退院したいな」とアイが言った。
夏がきて、「秋までには退院したいな」とアイが言った。
秋がきたころには、もうとっくに、彼女の留年が決まっていた。
オレは彼女の死をリアルに感じ始めていた。なにか詐欺の手口みたいに、アイは会うたびに少しずつ痩せ、少しずつ元気を失っていった。以前の写真をみて、こんなにも元気だった彼女がいたのかと驚いた。
「来年には間に合うかな」
とアイは言った。
「留年ってだけでも気まずいんだから、なんとか始業式から、たくさん友達作りたいな」
そうだな、とオレは答える。
他にはどうしようもなかった。オレになにができるってんだよ、と何度も内心で愚痴を溢した。
冬になるころには、病室を訪ねても、彼女は眠っていることが多くなった。クリスマスの夜には申し訳なさそうに笑って、「ごめんね。プレゼント、用意できてないの」と言った。
オレは大人びたネックレスを選んで買っていた。でも、「オレもだよ」と答えて、それは渡さなかった。
「退院したら、いつでもいい。一緒にクリスマスパーティをしよう」
とアイが言って、オレは頷いた。
※
アイが入院しているあいだも、オレは優等生としての平穏な学校生活を送った。
バスケットボールの大会で賞状を貰い、塾に通って模試を受け、生徒会も円満に引き継いで、推薦でさっさと大学を決めた。
3月になり、オレは高校を卒業した。
※
※
その月の終わりに、また家の電話が鳴った。――アイからだ。
体調がいいから電話してみたんだよ、と彼女は言った。
確かに彼女の声は、最近では珍しく弾んでいた。ようやく体調が回復に向かい始めたのかもしれない。そう思って、オレはつい微笑んだ。
「すごくいいことを思いついたんだよ」
「いいこと?」
「うん。だから、お願い。明日、お見舞いに来てくれるかな?」
オレは少し驚いていた。
アイから、お見舞いにこいといわれたことは、これまで一度もなかった。彼女はいつも無理に笑おうとするけれど、それでも様子を見ていれば、病室にいる自分をみられたくないのだとなんとなくわかった。
「いくよ」
とオレは答えた。
「ありがと。じゃあ」
アイがそう言って、電話が切れた。
悩ましいよしにゃん @gunou4241 2014-08-17 21:48:37
あかん八千代…それ以上は…それ以上は…
だいだい @dais197x 2014-08-17 21:50:20
やばい泣ける展開
しゃる@PSO2 ship3 @shaoshao2805 2014-08-17 21:50:51
やばい、この展開は泣いてしまう…
鯱海星 @syati_hitode 2014-08-17 21:54:27
そしてこれ、ますます現実とずれてる可能性が出てきた気が...
コウリョウ @kouryou0320 2014-08-17 21:53:11
考察とかではないけれど久瀬くんが本気で心配になってきた。昨日ぶっ倒れてそれっきりだし…
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