アカテからの電話を受けたが、雑談ばかりで、中身のある話はほとんどなかった。
「結局、あんたは今回の件に、どう関わってるんだい?」
とオレは尋ねた。
ホールと名乗るスイマの部屋にはメモがあった。タイムカプセルと、英雄の証に関するメモ。
その字には見覚えがあった。アカテのものだ。
「雄吾。取り返しのつかない失敗をしたら、どうする?」
とアカテは言う。
「取り返しのつかない失敗ってのが、上手く想像できないね」
とオレは答える。
アカテは笑った。
「その通りだよ。どんな失敗であったとしても、なんとかして取り返そうとするしかない。つまり、それがオレの状況だ」
「詳しい話は聞かせてくれないのかい?」
「ああ。そろそろ切るぞ」
「友達なのに、つれないねぇ」
「友達にだって話せないことはあるさ」
「あんたのせいで、オレはミュージックプレイヤーを失くした」
「そりゃ逆恨みだ」
君はあのミュージックプレイヤーを手放したかったんだろう? と言って、アカテは電話を切った。
※
アカテは、聖夜協会には所属していない。そのはずだ。
でも親父――先代のドイルとは仲がよかったはずだから、なにかしらのコネクションがあっても不思議ではない。ホールに情報を回せるようなコネクションだ。
でも、ホールが「英雄の証」を手に入れるのを手伝って、あいつになんの得があるというんだ。
――今回の件は、複雑だ。
大きく分けても、みっつの立場があるように思う。
ひとつ目はもちろん、聖夜協会。その中でも色々なごたごたがあるようだが、とりあえずひとつまとまる。他人事のようだが、オレもこのカテゴリに入る。
ふたつ目はわけもわからないまま、その聖夜協会のごたごたに巻き込まれている者たち。たとえば久瀬太一。たとえば悪魔――佐倉みさき。彼らは本来なら圧倒的に弱いはずだ。でも色々なことが、彼らを中心に動いている。久瀬太一が「友達」と表現する人物が気になる。おそらくその「友達」によって、久瀬太一は聖夜協会と対立できる場所まで押し上げられている。
だがアカテは、そのどちらにも含まれない。もっと別の――より真相に近く、なにもかもを俯瞰し、聖夜協会と久瀬太一の対立をセッティングしている集団。そんな影が、以前からちらつく。これをゲームだとするなら、そのルールとなるような者たち。物語だとするなら、筆者にあたるような者たち。
――制作者、か。
そう名乗った人物がなにものなのか、オレは知らない。そちらの陣営にいると断言できるのは、あの雪という女性。そしておそらくアカテ。
――加えて、センセイ。
根拠はない。でもキーになりそうな人間を無理やりに振り分けるなら、そうなる。センセイが消えなければ現状の何もかもが発生していない。
――なんにせよ、メリーだ。
わけのわからない聖夜協会の全貌を知っているのは、おそらく彼女だろう。センセイがいなくなったあとの協会を作ったのは彼女だ。ある少年を英雄にして、プレゼントに群がる人々を従えている。でも一方で、彼女は聖夜協会を統率してはいない。彼女自身は望みを口にせず、協会内でどんな対立があろうが、それを自らは収めない。ただ「次にプレゼントを贈られる相手」を指名する立場にある女性。メリー。
――彼女のカテゴリは、聖夜協会でいいのか?
メリーはまるで、ルールの一部のようだ。
これがゲームだとするのなら、このゲームは誰が、なんのために用意したんだろう? これが物語だとするのなら、この物語は誰が、誰ののために用意したんだろう?
考えれば考えるほどわからなくなる。外側の、大きな構造がみえない。
オレが求めているのは、ささやかなプレゼントひとつだけだ。
でもそれを手に入れるためには、意外なほどに大きな構造を理解する必要があるのかもしれない。
※
オレはホテルのベッドに寝転がって、目を閉じる。
――君はあのミュージックプレイヤーを手放したかったんだろう?
とアカテは言った。
その声が耳の奥で反響する。
あの古臭いミュージックプレイヤーを亡くしたのは、先月の終わりのことだ。
inamura @onthedish 2014-08-17 21:08:04
取り返しのつかない失敗っていうのが赤い手のことなのかな。3つめのカテゴリの人たちはそれを取り戻そうとしている?
タケヲ @tkyk_enisi 2014-08-17 21:08:44
@sol_3d ミュージックプレイヤー詳細くるといいな、、、
なかめ @huyusirone 2014-08-17 21:12:09
悪魔は英雄に血を流させたとかなかったですっけ?
ラピス @rapiss 2014-08-17 21:14:32
真相に近づいてるようで近づいてない、肝心なとこが見えない感じですげえもやもやする
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