「夜分遅くに申し訳ありません」
と、スマートフォンからファーブルの声が聞こえて、ソルたちが動いてくれたのだと確信した。
「急な話で申し訳ありませんが、明日、ある人物と簡単なゲームをすることになりました。つきましてはそのゲームの立会人として、貴方にもいらしていただきたいのですが、いかがでしょう?」
なんであれ受けるつもりではいたが、尋ね返す。
「ゲームってのは?」
「相手に謎を出していただいて、私が解答いたします。明日の21時からですので、20時過ぎにお迎えにあがります」
「相手ってのは?」
ファーブルは笑う。
「さあ。ソル、と名乗ってらっしゃいましたが、心当たりはございますか?」
もちろん、ある。
「友達だよ」
とオレは答える。
「では、立会人の件はお受けいただけますね?」
「どうかな」
オレは考える。
「いくつか条件がある」
「貴方たちは条件ばかりだ」
「仕方ないだろう? こっちはあんたに、部屋を荒らされているんだから」
「みなさん誤解なさっているようですが、それは私ではありませんよ」
「少なくともあんたの知り合いだ」
ファーブルはため息のような音で笑ったが、なにも答えなかった。
「条件というのは、なんですか?」
「まず、オレの持ち物には触れない。心配しなくても危険なものは持ち込まない。これ以上、いろいろと持っていかれちまうのはごめんだ」
「もちろんですよ。私はこれまで、人のポケットをあさるようなことはしたことがありません」
「あんただけじゃない。あんたの知り合いもだ」
「わかりました。明日の夜、久瀬さんの荷物には、指一本触れませんよ」
ファーブルは嘘をつかないときいている。
とりあえず、その言葉だけは信頼しようと決めた。
「次に、あんたが持っているはずのスマートフォンは返してもらう」
「ええ。それは、ソルさんともお約束しています」
「いつ返してくれる?」
「明日の夜には」
「会ってすぐに?」
「それはできません。私はこのスマートフォンで、ソルさんの問題にお答えしなければなりません。お互いの都合のよい時にお返しいたしますよ」
ひっかかる言い回しだ。
こいつの喋り方は粘着質で、嫌になる。
「どうしてソルが、あんたとゲームをするんだ?」
「互いに情報を賭けています。私が謎を解いたぶんだけ、ソルさんは私の質問に答える。解けなかったぶんだけ、私はソルさんの質問に答える」
なるほど。
「ソルからなにを聞き出したいんだ?」
「それはお答えできません」
「そういうなよ。予想はついている」
「なんです?」
「英雄の証の在り処」
ファーブルは答えなかった。
その沈黙が、不機嫌そうに聞こえて、たぶん正解だろうと思った。
「わかった。迎えを待ってるよ」
通話を切ろうとしたとき、ファーブルは言う。
「ああ、そうだ。ソルさんから貴方宛てに、ひとつ問題をお預かりしております。この紳士のゲームに立ち会わせるにあたって、久瀬さんにもささやかな謎を出しておきたいそうですよ」
――ソルからオレへの問題?
「なんだ?」
ふ、とファーブルは笑った。
「ゲームは明日です。謎かけは明日、ゲームが始まる時間にいたしましょう」
――こいつ。
きっとそれは、ソルからオレへの暗号のようなものだ。ファーブルはそれを予想しているのだろう。
「言わないと、立会人にはならない」
「そうなれば明日のゲームは流れてしまうかもしれません。貴方にスマートフォンをお返しするのが、少し先になってしまいますが、それでも?」
オレは舌打ちした。
「それでは、明日、お迎えにあがります」
そういってファーブルは、通話を切った。
※
オレは八千代の部屋をノックする。
「合言葉は?」
と声が聞こえてきた。
「決めてないよ、そんなもん」
内側からドアが開く。
オレは部屋の中に入り、八千代に言う。
「ファーブルから連絡があった」
「へぇ。少し意外だ」
優秀な友達が頑張ってくれたんだ、とは言わないでおく。
「明日、なにかゲームをするだとかで、オレを立会人にしたいそうだ」
「ゲーム?」
「ある人物と、情報を賭けているらしい」
「なるほど」
オレはデスクの前のチェアに、八千代はベッドに腰を下ろす。
「意外に急速に、いろいろと動いているみたいだな」
と八千代が言った。
「準備は?」
とオレは尋ねる。
「できているよ。手に入れるのは簡単さ。問題は向こうに、それが知られていないかだ」
ファーブルの手下たちは今も、オレたちの行動を監視しているはずだ。
「うまくやったんだろう?」
「もちろん」
「どうしたんだ?」
「ちょうど知人から電話があった。そいつに頼んで買ってきてもらった」
「受け渡しは?」
「ずいぶん気にするねぇ」
「当たり前だ。命綱だからな」
「万全だよ。ちょうどそいつは、この近くでレストランをやっていてね。オレはそこで、鞄を預けて、食事してきただけだ。帰りには鞄の中の荷物がひとつ増えている。そのあいだオレたちは、一言も会話を交わしていない」
「わかったよ。信用しよう」
店名さえ入っていない、無個性な茶色い紙袋をオレに向かって放り投げながら、八千代は言った。
「荷物検査にひっかからなければいいけどね」
「それは確認した」
オレはファーブルとの会話を再現してみせる。
笑って、彼は頷く。
「ま、及第点だ。強硬派の動きについては?」
「尋ねていないよ。妙に警戒させたくはない」
「ああ。それでいい」
紙袋の中身を確認して、オレは尋ねる。
「オレとあんた、どっちが危ないと思う?」
「さぁね」
八千代は首を傾げる。
「本来ファーブルは、オレの方に興味を持つはずだった」
きっとその結果が、あのバスからみえた光景だろう。
「なにもかもが想定通りにはいかないさ」
「まったくだね」
肩をすくめて、八千代は笑う。
「ま、互いに、安全第一でいこう。無駄に血を流す必要はない」
あんたには言われたくない、と心の中だけでオレは応えた。
――To be continued
ふらんつ≠さんそん @Blase_Flamme 2014-08-13 00:13:49
「貴方たちは条件ばかりだ」
OMG @omg_red 2014-08-13 00:13:30
あー、謎通らなかったか
子泣き少将@優とユウカの背後さん @conaki_pbw 2014-08-13 00:13:57
ちっあんにゃろう
いちこ@ソルティーライチ @ichiko_015 2014-08-13 00:20:11
ファーブルさんやってくれましたなぁ…!!
煙@制作者派 @smoke_pop 2014-08-13 00:18:48
さすがにファーブルも馬鹿じゃないですね。でもまぁスマホ所持者がファーブルなのはこれでやっと確定か。
クー@3D小説wiki管理人 @coo01 2014-08-13 00:16:17
しかしこれは運営の想定を上回った可能性ある。
Sol Cosine charc 3 @char_c3 2014-08-13 00:18:27
やっぱり八千代はなにかされそうだな
雑食人間@3D小説大阪現地愛媛遠征組 @zassyokuman 2014-08-13 00:19:27
さぁて、何を準備したのか。久瀬くんの主人公力が試される。もうねよ、おやすみなさい。
※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント( @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
コメント
コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。