八千代が追ってくる様子はなかった。
オレは大きな池のある公園のベンチに腰を下ろす。殴られた頭はまたくらくらとしていて、これ以上走る気になれなかった。
時計をみると、もう18時45分だ。
――結局、食事会には参加できなかったな。
あの招待状に書かれていた時刻を過ぎている。
まあ、いい。あちらはソルに任せていいだろう。彼らに会えなかったことだけが残念だ。
ぼんやり水面を眺めていると、スマートフォンが震えた。
――ソルからのメールか?
期待したが、違う。
震えたのはオレのスマートフォンの方だった。
ポケットから取り出して、モニタを確認する。電話だ。相手の番号は、すでに登録していた。八千代だった。
しばらく迷ったが、結局、応答のボタンを押す。
「なんだ?」
自分でも不機嫌だとわかる口調でそう尋ねると、電話の向こうで、彼は笑った。
「よかったよ。もう鍵は口から出したみたいだね」
「すぐにでもまた放り込むさ」
「必要ない。もう待ち合わせの時間を過ぎた」
「じゃあ、なんの用だ?」
そう尋ねると、ふいに、通話が切れた。
「手を組もう」
八千代の声は直接聞こえてきた。
彼はゆっくりと、こちらに歩いてくる。
「驚かせるつもりはなかったんだけどねぇ。ちょっと、電話では話しづらい内容だったんだよ」
八千代は、オレから3メートルほど離れたところで足を止める。
「心配しなくていい。これ以上は近づかない。今はもう、オレはその鍵を狙っちゃいない」
オレは軽く息を吸って、吐き出す。
心を落ち着ける必要があった。
ゆっくりと、オレは尋ねる。
「手を組むってのは、どういうことだ?」
「そのまんまだよ」
「言葉は信用できないんじゃなかったのか?」
「どうかな。言葉を信じられるのが、人類の最大の強みだ」
八千代は肩をすくめてみせる。
「あの時点では、君よりも食事会の方が優先度が高かった。でもオレは、時間までにあの星を取り返せなかったからね。あっちはもう諦めた」
「そんなに簡単に諦められるものなのか?」
「実のところ、食事会にそれほどの興味もなかったんだ。万に一つの発見があるかもしれないから、一応参加しておこうって程度だ。別に、君に文句があるわけじゃない」
「発見?」
八千代は頷く。
「オレも、聖夜協会を調べている」
「調べるって、なにを?」
「いろいろ。ちょっと興味があってね。協会の中に潜入してみたけれど、あいつらはガードが堅い。少し手こずっている」
「それで、食事会に参加しようとしたのか?」
「ああ。一度、メリーの顔をみておきたかった」
「メリー?」
「メリーが何者なのか、オレは知らない。協会内の最高権力者、なんだろうと思うよ。それさえ確証が持てない。でも食事会にはメリーも参加する。――そろそろ、隣に座っても?」
「ダメだ。あんたが聖夜協会を調べている理由を知りたい」
「それは秘密。すべてを話せるわけじゃない」
「なら、ここまでだ。オレはあんたを信用してない」
八千代は深く、長く、息を吐き出す。
それから言った。
「プレゼントが欲しい。これで伝わるかい?」
――なるほど。
と、オレは内心でつぶやく。
たしかにあんな超常現象が手に入るなら、オレだって欲しい。聖夜協会とプレゼントが密接に関わっているのなら、プレゼントを求めてあの集団に加わる人間がいても不思議ではない。
「どうしたらプレゼントが手に入るんだ?」
「まだはっきりとはわからない。調査中だよ」
「あんたの親父に訊けば、協会のことがわかるんじゃないのか?」
「そうもいかない。親父がいたころと、今の協会は別物だ。それに親父とは、あんまり話ができなくてね」
「どうして?」
「ずいぶん痴呆症が悪化してね。今は老人ホームにいる。なにか尋ねても、まともな答えは返ってこない」
そろそろ隣に座っても? と八千代は言った。
オレは頷く。少なくともこいつからは、まだ訊き出せることがありそうだ。
八千代はオレの隣に腰を下ろし、ポケットからなにか取り出す。
「キャンディ、いるかい?」
と彼は言った。
オレは首を振る。
「あいにく、そんな気分じゃない」
「そう」
八千代はキャンディの包装を開き、自身の口に放り込む。
「オレも君も、聖夜協会を追っている」
「ああ」
「でも奴らは謎に包まれていて、なかなかうまく近づけない」
「そうみたいだな」
「そこで本題だ。久瀬くん。オレと、手を組もう」
彼を頭からつま先まで信用できたなら、願ってもない申し出だ。
でも、納得できなかった。
「オレに、あんたの力になれるとは思えないな」
「そうでもない。オレはやっぱり、君が英雄じゃないかと思う」
「英雄?」
「協会には、英雄と呼ばれる少年がいる」
「オレはそんな恥ずかしい呼ばれ方をした記憶はないな」
「その少年は、12年前のパーティを最後に消えた。その時、9歳だったらしい」
確かに、オレと同い年だ。
「でもオレがあのパーティに出ていたのは13年前までだ」
「間違いない? なにも忘れてない?」
記憶力は、いい方ではない。どちらかといえば悪い。古い友人と昔話をしていても、記憶が噛み合わないことがよくある。
でも、これだけは間違いない。
「13年前に、母親が死んだ。特別な年だよ。間違えるわけない」
「へぇ」
八千代は、わずかに眉をひそめる。
「君はちょっと、素直すぎるな」
「ん?」
「君よりはオレの方が、ずっと聖夜協会に詳しい。嘘をついてでも、とりあえず手を組んでおいた方がいい」
「ま、そうかもな」
でも嘘は苦手だ。
昨日、無理をして八千代に嘘をついたけれど、それもすぐにばれた。苦手なことには、できるだけ手を出さない方がいい。
「なんにせよオレは、君に可能性を感じているんだよ」
「可能性?」
「君はただの学生だ。見たところ、特別取り柄もなさそうだ。思い切りが良く、行動力がある。多少は自分で思考する習慣も持っている。すべて大事なことだが、それだけじゃ手に負えない問題は無数にある」
馬鹿にされているように感じたが、真実なので頷いておく。
「なのに君は、ドイルという名前を知っていた。アカテもだ。どうしたのかは知らないけれど、白い星を手に入れた」
それは、すべてソルの力だ。
八千代が可能性を感じたのは、オレではなく、ソルだろう。
――でも、だとすれば。
確かにこの男と手を組むことには、意義があるような気がした。
八千代とソルが手を組めば、みさきの救出だってできるのではないか? オレがあいだに入れば、ソルと八千代を繋げられる。
――とはいえ。
もちろんオレは、八千代を信頼したわけじゃない。
簡単に、「わかった。手を組もう」とは答えられない。
「少し、考えさせてくれ」
とオレは言った。
みさきが血を流す8月24日まで、まだしばらくある。焦り過ぎてはいけないと、ソルにも言われている。
八千代は頷く。
「オーケイ。その気になったら、電話をくれ」
八千代はベンチから立ち上がる。
「強めに殴っちゃったからね。今日はもう休んだ方がいい。明日にでもまた連絡するよ」
と、そう言って、八千代はこちらに背を向けて、手を振った。
しゅんまお@ sol軍事班 @konkon4696
やっぱ久瀬君には会えないのかー
子泣き中将@優とユウカの背後さん @conaki_pbw
八千代と組む事になりそうか
子泣き中将@優とユウカの背後さん @conaki_pbw
っとそろそろニコ生始まるな
やいば @YAIBA9999
ノイマンさんのご尊顔wktk
しながわりんこ @yuzuyuzuyuzuppe
どきどきしてきた・・・もやしさん無事で!
雑食人間@3D小説大阪現地組 @zassyokuman
ニコ生に入場完了。太陽マークが飛び交ってるww
■現地組(食事会)
やよいさん @cruce8413
もやしくんさんが緑ナンバープレートの車に恭しく攫われ、3人のソルがタクシーで追いかけました。私は…どうしよう…wwww
あさって @sakuashita1
うまく追えなかった組はとりあえず太鼓橋に戻ることに
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なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
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