3D小説「bell」本編

■佐倉みさき/7月27日/12時15分

2014/07/27 12:15 投稿

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  • bell本文07月27日
佐倉視点
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 車は何度か信号で停まったようだった。そのたびに、私はケーブルを引こうと考えたけれど、躊躇っているあいだにまた走り出してしまった。どうして。やるしかないのに。緊張して、身体がすんなりと動いてくれない。

 そうしているうちに、ずいぶん時間が経ったように思う。
 私は車が、今までとは違う動きをしたのを感じた。僅かに左に寄って、エンジンを切ったのだ。
 ――目的地についた?
 ぞくりとした。ためらいすぎた。
 だが、ドアを開く音がしない。眼鏡は車から降りない。
 今しかないと思った。これ以上、一秒だってここにはいたくなかった。
 私はあらかじめ位置を探っておいたケーブルを掴んで、引っ張る。
 しかし、すぐにおかしいと気づいた。
 開かない。
 引っ張りきれていないのだろうか? 力が足りないのだろうか?
 急速に、手に汗が滲みはじめる。焦っているのが自分でもわかる。身体が上手く動かない。
 運転席から、眼鏡の声が聞こえる。
 ――なにをしている? どうしてこなかった? 
 電話を掛けているのだとわかった。不機嫌そうな声。
 ――携帯はいつも持ち歩けと言っているだろう。すぐに連絡をよこせ。
 留守番電話、だろうか? 今しかない。今しかないのに、どうして。トランクは開かない。緊張のあまり、耳の奥が熱く感じた。
 眼鏡の声が、ドイル、と言った。それが眼鏡を苛立たせている人物の名だろう。ドイルさん。誰かは知らないけれど、頼むから今すぐ電話に出て、と願う。少しでも私のチャンスを伸ばして、と祈る。
 だが、眼鏡が「くそ」と毒つく声がきこえて、再び車のエンジンがかかった。
 絶望的な気分だった。
 ――もしも。
 もしもドイルという人が、眼鏡に電話をかけてくれれば、再び私にチャンスが生まれるかもしれない。
 今はそんな、ささやかな可能性にすがることしかできなかった。
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