3D小説「bell」本編

■久瀬太一/7月25日/16時

2014/07/25 16:00 投稿

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  • bell本文07月25日
久瀬視点
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 目の前にみえた大きな歩道橋を駆け上がる。人通りが多い。サラリーマンに肩をぶつけて、走りながら頭を下げる。
 そんな馬鹿な、という思いもあった。
 どうして暗号の答えが、オレの記憶と関係しているんだ?
 常識的に考えて、論理的に考えて、あり得ない。
 ――でも。
 今は、ごちゃごちゃと考え事をしている場合じゃない。
 オレは走る。
 頭がまっ白になるまで、全力で。
 ――本気で走れば、女の子のピンチには間に合うはずだろ。
 世界はきっと、そういう風にできているんだ。そうでなければならない。根拠もないが信じている。信じるほかに、どうしろってんだ。
 歩道橋を下り、狭い坂道に入った。そのまま、坂を駆け上がる。この辺りには坂が多い。
 周囲の景色は、ずいぶんと様変わりしていた。オレの記憶もあやふやだった。それでも道の幅やガードレールに、仄かな懐かしさを覚えていた。
 2度、角を曲がる。ひたすら走る。地面のおうとつに足をとられる。オレはそれを知っていた。少しバランスを崩したが、転倒せずに走り続ける。
 ――その地下室で、彼はいくつもの夢に触れた。
 地下に子供教室が入っている建物の前を駆け抜ける。その建物だけは、オレの記憶と、なにも変わっていなかった。
 そのまままっすぐに走り、突き当りを左折した。前方を見上げると、巨大な建物がみえる。
 ――巨大な塔は常に彼を見下ろしていた。
 たしかにそれは、ファンタジーゲームに登場する、背の高い塔のようだった。
 目的地は目の前だったが、線路を超える道がない。忘れていた。この辺りの地形は入り組んでいる。舌打ちして、立体交差の方へと向かう。
 息が上がっていた。立体交差を駆け抜けながら、左手をみると小さな公園がみえた。木陰にささやかなベンチが佇んでいる。
 ――彼はいつも母親を待っていた。そのベンチが、彼に待つことを教えた。
 今は疲れた様子の中年男性が、そこに腰を下ろしている。
 立体交差は下り坂になり、オレはそこを駆け下りる。身体を反転させるような気分で、脇にある小道に入った。
 ――ホテル。
 覚えている。
 その公園に隣接するように、小さなホテルがある。こぢんまりとしたアパートのような、あまりホテルらしくはない建物。
 オレは、その前に立った。
 ――廃ホテル。
 やっぱり。そこにあるのは、もうホテルではなかった。すでに営業を止めて、ずいぶん経っているようだ。看板も撤去されていた。脇にある小さな入り口には黒と黄色のロープが張られ、『立ち入り禁止』と書かれた看板がぶら下がっている。
 息を飲んだ。
 ――ここだ。
 間違いなく、夢でみた建物だ。
 オレは『立ち入り禁止』をまたいで進む。
 ドアには鍵がかかっていなかった。
 それを引き開けると、きぃ、と悲しげな音が聞こえた。
読者の反応

パウダス @paudasu 
進んできた


とうしん @toshin000 
ついに出会うのか!? 


リョウゼン シュウ @shuu_ryouzen 
分かる人が見れば場所を特定できそうな記述がわんさか。


闇の隠居 @yamino_inkyo 
確か昨日見た未来ではつまずいたときはすっかり夜だったから、かなり早く到着できてるってことかな? 


にえ@爆睡 @nie_nonstarter 
さすがに爆弾の解体はできないですよね。無事に佐倉さんを連れ出せるでしょうか…。 


おろないん @kougi1205 
俺が圧迫面接を受けている間にすごい進んでいるではないか。お前らGJ 





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