夢をみていた。
幼い女の子が泣いている夢だった。
オレは走っていた。
彼女を笑わせたかった。
それが全部だった。
だから――
そうだ。確か、突拍子のない嘘をついて。どうしようもない夢みたいな話をして、つまらないプレゼントをあげて。
それで、あの子は泣き止んだのだろうか?
記憶の中の女の子に、昨日バスからみた映像が重なる。瓦礫の中に倒れて、血を流しているいる彼女。
――彼女は、みさきだ。
佐倉みさき。
あの子を泣き止ませたくて、オレは嘘をついた。
その嘘を真実にしたいと、心の底から願っていた。
あれはきっと、オレのための嘘だったから。
嘘を嘘のままにしてはいけないんだと、決めたんだ。
※
目を覚ましたときには、ひどく悲しい気分だった。
佐倉みさき。
その名前をもう一度、胸の中で繰り返す。
彼女に最後に会ったのは、まだ小学生のころだ。彼女がどんな風に成長しているのかなんて、オレにはわからない。
それでもなぜか、疑えなかった。
瓦礫の中で血を流していたのは佐倉みさきだ。理由なんてなくても確信していた。
――くそ。一体、何が起こるっていうんだよ。
あのバスには確か、『7月25日行き』と書かれていた。
今日、彼女が血を流すのだろうか? どうして。
硬いフローリングの上で身体を起こす。腕がなにかにぶつかり、がたんと硬い音が聞こえた。すぐ隣にあのアタッシェケースが転がっていた。
――そうだ。
オレは暗証番号を「000」から順番に試していたのだ。夜が明ける頃まではその作業を続けていた記憶がある。でも、どうやら途中で眠ってしまったらしい。
――寝てる場合じゃないだろ。
自分自身にぼやいて、オレはアタッシェケースをつかむ。番号は407に合っていた。そのまま小さなレバーに力を入れる。だが動かない。
くそ。このアタッシェケースがなんだってんだ? ――いますぐ彼女を捜しにいきたかった。でもオレは彼女の居場所を知らない。連絡先もわからない。他にはどうすることもできなくて、オレは動かしづらいダイアルをひとつずらして、またレバーに触れた。
と。
かちん、と小さな音が鳴る。
あっけなくアタッシェケースのロックが外れる。
408?
――オレの誕生日だ。
ふいにそんなことが思い浮かんで、馬鹿馬鹿しくなる。今はささやかな偶然に、のんきに驚いている場合じゃない。
オレはアタッシェケースの蓋を開けた。
※
アタッシェケースには、2つのものが入っていた。
一方は小さな箱だ。奇妙な南京錠のようなものが4つもついている。それはみるからに厳重で、簡単には開きそうにない。
もう一方は、手作りのちゃちな小冊子だった。表紙には味気ないフォントで、『聖夜教典』と書かれていた。
ページをめくってみる。
なにかが、床に舞い落ちた。ぜんぶで6枚。
うち1枚はちっぽけなレシートだ。――いや、違う。これは、書籍検索の結果か? 知っている書店の名前が書かれていた。
残りの5枚は、すべてA4サイズのプリント用紙だった。
うち2枚は見覚えがある。クロスワードパズルの問題用紙と、解答用紙。あとの3枚もすべて、暗号かなにかみたいだった。
オレはとりあえずトランクの中身を、テーブルの上に並べる。
――これが、なんだってんだ?
問題を解けば、みさきの居場所がわかるのか? どうして。
まったくわけがわからなかった。
オレはつい、ソルのスマートフォンを手に取る。
だがそのスマートフォンは、左上の表示が「圏外」になっている。
昨夜――あの事故を回避してから、ソルとの電波は繋がっていない。
アンナ♡ヾノ。ÒㅅÓ)ノシ @anyamix
お。今日の分はじまった?
きのと @kinoto82
#3D小説 に参加するために鍵解除した!! めっちゃ面白そう!
結希@3D小説参加 @yuki_seiyudo
アタッシュケース開いたのか。久瀬くん夜更かししてまでありがとう。
悠(らいゆー/てっしー/月泉)・烟夢 @Yuu_souku
問題がたくさんだw
しゅんまお@くま @konkon4696
全然わからん
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