カーラジオから、ニュース番組が流れていた。
大手企業のメール文が流出。ある電子機器に発火の恐れ。――間違いなくニュースなのだろうが、どれも、これまでにも何度も聞いたような話ばかりだ。
次のニュースです、とカーラジオが言った。
本日の25時10分ごろ、フクダ電子アリーナ前の交差点で大型トラックが電柱に激突する事故が発生。原因は運転手の居眠りとみられています。幸いなことに死傷者はありませんでした。
――マジかよ。
きっと、そうなのだろうと思っていた。
でも事実をみせつけられると、衝撃をうける。
あのメールがなかったら、バスから見た事故が現実になっていたのだろう、きっと。
「ミステリーね」
と宮野さんが言った。
「たかだかトラックが電柱にぶつかった程度の事故が、どうしてニュースで流れるのよ?」
思わず反論しそうになったが、確かに宮野さんの指摘は正しい。わざわざ電波に乗せるほどのニュースだとは思えなかった。
「もしかしたら、謎の組織の暗号とかかもね。秘密の情報をつまらないニュースに偽装して誰かに伝えるのよ。前にそんな記事を書いたことがあるわ」
「信じてるんですか?」
「まったく。思い出したから言ってみただけ」
今夜はよっぽどニュースになるようなことがなかったんでしょ、と宮野さんは言った。
それでは次のニュースです、とカーラジオが告げて、些細なミステリーは過去へと流されていった。
そんなことに構ってはいられない。オレにはもっと大きなミステリーがある。
「フクダ電子アリーナって、さっきまでこの車が向かっていた方ですよ」
「へえ。危機一髪って感じね」
「オレが夢でみた、事故の現場でもあります」
「仕事中に寝るんじゃないわよ」
「あれは本当に夢だったんでしょうかね」
「なに? キミって予知夢とか信じるタイプなの? 非科学的ね」
オカルト雑誌の編集者の言葉ではない。
「科学的に解明できないことをすべて拒絶する姿勢もまた非科学的だって聞いたことありますよ」
「非科学的でも、それが現実的な考え方なのよ」
「そんなもんですか」
「そんなもんですよ」
とはいえ、だ。いくら非現実的だったとしても、だ。
オレはあの夢を信じる気になっていた。信じなければ――そして、あの「ソル」からのメールがなければ、今ごろ宮野さんは血を流していた。
――ソル。
何者なんだ、一体。
一方的に連絡を寄こしてきて、一方的に問題を解決していった。まるでヒーローだ。まったく現実味がない。
――問題は、夢の続きだ。
崩れた廃墟ビル。――どこだ? あのビルは。
そして血を流す少女。彼女の姿は、奇妙に鮮明に覚えている。あの子を傷つけてはいけないのだ、と強く思った。オレはきっと、彼女を知っている。
あのバスからみえた光景に、なにか手がかりがあるのだろうか?
それから、ふと思い出す。
「そういえば、開いたんですか? アタッシェケース」
「アタッシェケース?」
「レストランで受け取ったやつですよ」
suimaと書かれたネームプレートがついているアタッシェケースだ。スイマ。また、きぐるみの言葉を思い出す。――スイマに気をつけろ。
確か未来のオレは、あのアタッシェケースを開いていた。
「ああ、忘れてたわ」
「あれ、借りて帰ってもいいですか?」
スイマ。ただの偶然だとは思えない。あのアタッシェケースに手がかりがあるのだ。今はとりあえず、そう信じることしかできない。
「どうするのよ、あんなもん」
あんなもんって。
「開けてみますよ。持ち主がわかったら、オレから返しておきます」
「いいけど。なんか面白いものが入ってたら教えてね」
オレは少し迷ってから、「わかりました」と答えた。自分のための嘘はつかないことに決めている。でも、オレが巻き込まれている何かに、宮野さんまで巻き込むべきではないだろう。
もちろん彼女が血を流す姿だって、まだ鮮明に覚えている。
――To be continued
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