今の家に越してくる前、自分は東京の渋谷区民だった。
「どこに住んでるんですか」と聞かれたら、一番手っ取り早い言い方として
「原宿の近くですよ」と答えていた。間違っちゃいない。
実際、原宿駅から歩いて10分程度だし、何かにつけて原宿の駅を
利用することは多かったわけなので。

しかし、住所的には「千駄ヶ谷」という町だったから
もし東京に詳しい人に聞かれたのなら「千駄ヶ谷です」と答えた。
そのほうが「とっぽくない」から。
ヘタに「原宿です」と答えると、さも田舎から出てきた
「知ってる地名は渋谷・原宿・新宿…」みたいな人間が
何かのあこがれを胸に住む場所を決めただけだろ、と思われるのが
いやだったから。(でも正直「原宿に住んでる」というのはなんだか
一つのオリジナリティな気がしてちょっと嬉しかったのはあるw)

ただし、1Rの、本当に狭い部屋だった。

実はその家に住むと決めた時、その建物はまだ存在していなかった。
その頃、色々なイベントを打ち出し始めていた自分が
何かにつけてお世話になった制作会社が近くにあり、その場所に
毎週のように訪れる度に「この辺に住んでいたらなんと楽な
ことだろう」と思い始めていて。
その会社から駅に向かう途中に、まだ土台を作っただけの
マンションの工事現場があったので、工事現場の人に
「これは、住宅ですか?」と聞いたところ、そうだと。
そのまま管理会社を聞いて「あそこに立てているあの建物に
僕は住みます」と言ったのだ。
当時から、後先考えずに直感で動いてしまう性格は変わらない。
建物の完成を見ずに、部屋を決めてしまったのだ。
しかも、1Fの一番狭い部屋。その部屋が一番安かったからだ。
管理会社の人も「訳がわからない」という顔をしつつ言った。
「普通は、最後に1Fが残るんですがねぇ…」

かくして、初めて「東京都民」になった私は、その生活を楽しもうと
努力をした。努力という言葉が一番ぴったりあっていた。