科学者のニュースの読み方

原発にどんなスタンスの人でも読んでほしいリスクマネジメントの基礎 『科学者のニュースの読み方』Vol.52

2015/05/14 22:30 投稿

  • タグ:
  • 政治
  • 原発
  • リスクマネジメント

『科学者のニュースの読み方』 Vol.52
■原発にどんなスタンスの人でも読んでほしいリスクマネジメントの基礎

 事故から4年以上ですか。あれから国政選挙は数回ありどれも自民党の勝ちですので、この結果から考察するに原発に関しては「容認」が多数意見ということで決着しているのですけども、意見の発信は当然各々自由です。
 自由なのですけども、4年も情報収集と考察を続けているにも関わらず、どうしてこうも直観から結論をつくり、結論に都合のよい状況証拠だけを主張する人が絶えないのか。普通は4年も物事を考えれば少しは考え方も主張も変わるでしょうに。


 こう思わせられる発信の多くは、リスクマネジメントの基礎をわかっていない人によるものです。基礎と書いたのはきちんとそういう試行プロセスが学問的に構築されていることを意味しています。日常生活レベルでは無意識に脳内でその処理がなされているのですけども、規模が大きい、すなわちハイリスクハイリターンの件になると冷静にリスクマネジメントの教科書どおりにものを考えないと判断を間違えやすくなります。

 久しぶりの投稿となる本ブロマガのエントリーでは、この基礎に従って原発のあり方について考察すると、実は原発推進・容認・撤廃いずれの主張もまともな主張が少ないことに気づけるということを述べたいと思っています。

 さて、本題へ。まず最初に、リスクマネジメントの基礎をここに書いておかねばなりませんね。

リスク = 損害規模 x 発生確率 (の総和)
損益 = 利便性 - リスク

各項はほぼ文字そのままの意味ですが補足します。

■損害規模
事故発生1回あたりの損害。金額に換算することが一般的。代替しない限り対策により軽減することができない。


■発生確率
事故が発生する頻度、確率。対策により軽減することができる。


■利便性
仕組みが機能しているときに得られる利益。金額に換算することが一般的。

 では具体例に移りましょう。

 通常ビジネスでは効率を追求しますので、損益分岐点でやるかやらないかを決めます。これはビジネスで動かしている資産規模に比べて想定される損害規模が比較的小さく、事故があったら痛手ではあるけども潰れるには至らないというケースが多いからです。失敗すれば会社が間違いなく潰れるというほどのリスクをとった挑戦は、すなわち自分の命を懸けている経営者にしかできません。

 一方ビジネスでない個人や家庭といった規模のときに、仮に損益はプラスであっても損害規模がきわめて大きい場合にはやらないという判断を下すことは多々あります。それはたった一度の事故で挽回不能な損害が発生するケースが多いからです。
 たとえば自動車を運転する人は、ほぼ確実に自動車保険に加入します。意図せずとも人をはねて死なせてしまえば、一生かけても稼げないレベルの金額の賠償が必要になるからです。
 この例の行動原理を前述の基礎で整理しましょう。まず保険に加入しない状態は、損害規模がきわめて大きく、発生確率はきわめて低い。損害規模を下げるために保険屋に払ってもらうという代替手段をとり、別途保険料を支払うというリスクに差し替えます。結果的に損益は保険未加入よりマイナスになりますが、これで満足しているということです。

 以上を踏まえて考えます。原発はどうでしょうか。すぐさま「判断基準は事故があったときに日本が再起不能なレベルまで崩壊するかどうかだ」と発想できれば合格です。

 これは予測が難しいところです。だからこそ容認、撤廃いずれの主張も存在し続けてもいいのですが。しかし世の中の主張者は、はたしてここまで考えていますか。
 もしきちんと考えていれば、「再度事故があっても日本は大丈夫だ」と考える理由、「日本が崩壊するレベルの事故は想定可能である」と考える理由をそれぞれ説明できているはずです。後者の場合、代替手段のリスクも再評価しなければいけません。それが仮に即時稼働停止であるとすると、事故リスクはどの程度低減できたのかという説明と併せて、伴って発生する連続的な貿易赤字というリスク評価の両方を提示して、日本を再起不能なレベルまで崩壊させるかどうかを再度考え直しているでしょうか。

 筆者がインターネット上の多数の発信を読む限り、原発容認の方々はまだ計算して保険を見送りしている人がちらほらいますが、原発撤廃の方々は根拠に乏しく直観で恐れを感じ取り保険に加入しているように思えます。原発撤廃を主張する人がネット上の言論で常に劣勢なのは、このあたりの原因の差で間違いないでしょう。

 いずれにしても、少なからず新しい視点に興味をお持ちになった方くらいしかここまで読破なさらないでしょうから、ぜひ脳内で処理せずノートにリスクを書きだして整理して持論をお持ちになってください。現在ヒートアップ中の大阪都構想についても、この考え方でもって整理するといいと思います。

Y. Izutsu / みもそ


コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事