科学者のニュースの読み方

原子力アレルギーの症状と治療法『科学者のニュースの読み方』vol.38

2013/07/26 07:00 投稿

  • タグ:
  • 政治
  • エネルギー
  • 原発

『科学者のニュースの読み方』vol.38
■原子力アレルギーの症状と治療法 

 日本では2011年3月の大震災以来、あるアレルギー的な反応を示すような病が流行しています。しかし残念なことに症状が異常なものだと自分で気づけず治療に着手しない潜在的な患者が一定数存在し続けています。筆者は原子力アレルギーと呼んでいて、概要としては原子力と関連する話題に無条件でことごとく反応、反発する行動をとる状態を指します。今回の記事ではその症状の確認方法と、治療方法を提案してみます。

 まずは自分がそれに当てはまるかどうか診断しましょう。次の見出しに不快感を覚えたらそれが自覚症状です。アレルギーの可能性があると考えて、続きを読んでください。

[1] 経済的な都合で原発再稼働
[2] 電力は足りない
[3] 廃棄物の処理方法はこれから考える
[4] 稼動していても停止していても同じ危険度

 いかがでしょうか。もちろん数が多いほど重症です。この症状の原因は、おおよそ浅知恵と判断力不足がほとんどです。この2つ両方になっている方もいらっしゃると思います。前者は正しい知識を豊富に収集することで治療できますが、後者はトレーニングが必要で主に中学受験レベルの国語と算数の問題集を解くのがお勧めです。浅知恵が原因の方は、反応してしまった前述の見出しについて、ひとつひとつ背景となる事情を把握して、その上で判断し直してみましょう。


[1] 経済的な都合で原発再稼働
 この見出しに対し、すかさず「金額の問題ではない」と切り返すのは話題逸らしです。費用のスケールを把握しないで無視することは、現実から目を逸らしていることと同義です。すなわちこの症状の原因は浅知恵です。
 仮に日本の原発を現状のままの稼働状態にした場合にどれだけの維持費がかかり、どれだけの火力用燃料負担が増加するかは見積もられていて、これは2013年度の見積もりで3.1兆円/年です。人口で割って1人あたり24,000円/年です。実は貿易収支の差が±数兆円なので、ダイレクトに影響する桁。日本全体が必死に働いて稼いだ利益をがぶりと食いつぶす大きさだということです。
 あなたがいままで給料のうち貯金に回していたぶんがすべて燃料費で消えてしまうのをイメージしてください。ちなみに現状赤字ですから、貯金が削られていくのをイメージしてください。ほぼ永久的にこの状態が続くのをイメージしてください。あなたがこれを許容できたとして、果たして国民のどれだけが同じように許容できるでしょうか。数字のスケールを知っていれば決して許容して当然にはならないし、もし当然だと思うならば実際に統計をとってはどうでしょうか。億とか兆といわれると「大きい」でまとめてしまい、数値であることを忘れてしまう心理がはたらくらしいですが、きちんとスケールを把握しましょう。

[2] 電力は足りない
 これは浅知恵ではなく判断力不足が原因の症状です。例えば電力需給だけを見て、昨年の関西電力の大飯原発の稼動が不要だったのは正しい情報です。ただし、結果論です。電力が足りているというのは、予期しない気候変動や発電・送電トラブルがあっても需要を満足する供給を維持できる準備状態のことをいいます。原子力発電は不足しそうになってから慌てて稼動できるものではなく、ゆっくり始動して腰を据えて一定出力を維持する発電です。急な出力増加はそれこそ核分裂反応の暴走の引き金になるのでできません。必要になる可能性がある時点で運転させておかねばなりません。
 関連する話なので補足しておくと、節電という単語に解釈が2通り、生活に差し支えない程度に消費電力を低くすることを指すケースと、生活レベルを落としてでも極力消費電力を低くすることを指すケースがあるようです。「節電すれば電力は足りる」と言う人はかなり生活レベルを落とす覚悟をお持ちなのでしょうが、果たして国民のどれだけが同じような覚悟をできるでしょうか。震災直後にはやむを得ず関東は計画停電で強制的な節電を実施しましたが、これを経験した人の自主的な賛同を得るのは難しいでしょう。人間の文明の退化に対する拒絶反応は本能的なものです。

[3] 廃棄物の処理方法はこれから考える
 これは判断力不足が原因の症状だと思われます。「廃棄物の処理方法が決まっていないのだからそれを生み出す原発稼動は許さん」という症状をよく見ます。これだけ聞けば言っていることは正しいのですが、果たしてそれは問題を解決することにつながっているでしょうか。仮に原発を停止すると、燃料は減らないままなので残ります。[1]にも関連しますが、維持費と追加の燃料費がかかります。一方で原発を動かして廃棄物処理のために地層調査や技術研究に費用をかける選択肢があります。どちらもほぼ永久にかかる費用ですが、前者はずっと高額である一方、後者は成功しない限り投資のぶん割り増しで高いけども成功すれば格段に安くなります。改善する方向に向かわないのは、それこそ問題を後世に押し付ける無責任な世代のすることです。

[4] 稼動していても停止していても同じ危険度
 浅知恵が原因の症状です。原子力発電の仕組みをかじる程度でいいとはいえ少し勉強しないと予防は難しいのですが、少々調べ物すればいいだけなので容易に治療できます。
 まず核分裂反応の性質として、燃料は発熱させたくてさせているのではないことを知っておかねばなりません。核分裂反応のコントロールは、放っておけば連鎖的に発熱する連鎖的な現象をいかに制限するかです。山火事のように、一度引火の連鎖が始まってしまうと一帯を焼き尽くすまで火の勢いは止まらないのですが、せめてその勢いを弱めるために必死に放水するような状況に似ています。
 事故はこの核分裂反応を抑える手段を失ったときに起きます。実際福島第一原発の事故は冷却機能を失ったことによるものだったし、残っている燃料の保管も水温に異常があるたびに報告されニュースになっています。原子炉を冷却可能かどうかが重要であることが事故からわかった確かな事実なのに、それを無視して稼働するかどうかを話題にする。もし冷却能力を心配していないのならばそれは新たな安全神話、というかまったく新しくもない元来の安全神話です。

 以上です。これだけの情報があって、それなりに自分に限らず他人の生活も察せて、スケールの大小を比較できるだけの最低限の教養さえあれば、このようなアレルギーは予防できるし、治療できます。なんでも能動的に行動することを意識しましょう。

■調子に乗った記事を書いた筆者の原発に対する見解

 筆者はもう、原発は話題にあげる必要がないことを話題にしたいと思っています。

 前の文章に加えてもうひとつ判断材料を述べると、電力を含むエネルギー需要は年々人口減少に伴い減少していきます。実はこれ、中長期なことを考えたときにとても重要で、現存する原発を新設せず稼働40年で廃炉していくことを徹底すると、ほぼぴったり需給バランスをとりながら原発は自然に0になります。
 これでいいではないですか。原発はゼロに「する」のではなく、原発はゼロに「なる」のです。この単純計算ではそこそこ年数はかかりますが、実際は老朽化した火力発電を
コンバインドサイクルのガス火力発電に建て替えることを同時に推し進めることになるので、筆者の直観的には半分の20年くらいで原発の必要性は自然に失われるだろうと読んでいます。

 むしろ課題は、この20年間の間に中古の燃料を買ってくれる相手
を探すことと、使用済み燃料の廃棄技術開発と場所の確保です。買ってくれる相手も捨てさせてくれる場所も日本にはありませんから、外国に金を払ってでもとなります。

 動かさず燃料も閉じ込めたままでは、それはただの要メンテナンスな爆弾オブジェ。
何もしないことが一番いけません。国内の後世に課題を繰り越すことになってしまいます。「トイレなきマンションだから排泄するな」ではいけないのです。すでに食事は済ませてしまったのですから。


コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事