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山田玲司のヤングサンデー 第289号 2020/5/11

本気と書いて『おに』と読む

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そんなわけで、相変わらず僕は「新作漫画」と格闘している。


今は商業誌の連載をしてないので、ついに「本当に自分の描きたかった漫画」を描いている。


「いえーい!自由って最高!」という気分もあるのだけど、長年染み付いた「商業誌メソッド」がどうしても邪魔をしてきてとにかく大変。


「こうすればウケるかな」みたいな邪心と格闘する日々です。



【鬼滅の刃解説】


そんな中、ヤンサンでは目下大ヒット中の「鬼滅の刃」の解説をやりました。


1巻だけを読んで、その後のストーリーの予想も交えつつ、この作品が仕掛けた物語の構造や隠されたテーマなどを語る企画です。


ありがたいことに、放送中のコメントでは「なんでここまでわかるの?」とか僕の分析に驚いてくれてる人達が多くてホッとしました。


「なんで?」と言われるけど、商業誌の最前線で30年以上漫画を作ってきた「当事者」なので当然「漫画作りのお約束」と「舞台裏」には詳しいのです。


「鬼滅」が鉄板の「ヴァンパイアもの」と近年ブームの「大正もの」「サバイバルもの」にすることによって連載の枠を勝ち取りやすかったのも透けて見えるわけです。


自分の描きたい漫画を描くには邪魔で仕方ない「これらの分析眼」も、放送では喜んでもらえて良かったと思います。

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【舞台裏が透けて見える理由】


商業誌での漫画の目的は「売れること」が1番です。

なのでテーマや内容がいかに優れていても続ける事はできません。

90年代には漫画が死ぬほど売れていたので、「そんなに売れないけどいい漫画」を発表する事も(少しは)可能だったのですが、売上の低迷期に入るとそれも不可能になっていったのです。


「とにかくいいものを作ろう、売れたらもっといいけど」みたいな感じで編集と漫画を作ってきたのが「何が何でも売れるものを作れ」みたいな感じになり・・・


その結果、各社が「売れた漫画」の研究に熱を入れ出したわけです。

少し前に解説した「彼方のアストラ」は、そんな研究成果の集大成のような漫画でした。


料理人で例えるなら「俺が美味いと思うのはこの料理だ!」という時代が終わり

「みんなが美味しいって言ってくれそうなのはこんな感じの料理だと思うんで作ってみました」みたいな時代になって久しいわけです。


そんなレストランで働いてたら「あれ・・俺の作りたい料理ってどんな味だったっけ?・・」みたいにもなるでしょう。


僕はそんな状態に何度もなり、何度も「本来の自分」を目覚めさせてきたわけです。(今もね)



【新人が見てるもの】


そんな世界で強いのは「新人」です。

「成功体験」がないのは不安だけれど、その分「私はこれが好き」と言えるのです。

・・それしか言えないのですけどね。


新人の多くは「過去の成功例」ではなく「描きたいこと」を優先するのです。


なので概ね「独りよがり」で「バランスを欠いたもの」になりがちなのですが、その作品の基本姿勢は「未来」を向いているわけです。