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山田玲司のヤングサンデー 第287号 2020/4/27

八雲神社

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風が窓を叩く音で目が覚めた。

なんだか妙な夢を見ていた気がするが、もう思い出せない。

ついさっきまでその中にいたというのに思い出せないくらい過去の出来事のように夢は遠ざかっていくあの速度は時速何キロだろう。


半醒半睡のまま窓を開けると4月の、まだ少し冷たい風。

陽は高々と上がっていて眩しい。

目が痛くて身震いしてトイレに行って台所で水を飲み湯を沸かす。

寝室に戻ってヒビの入ったiPhoneを取る。

誰からも連絡はない。

こないだスーパーに行った時に落として割れた画面に顔が映る。

寝起きのスカーフェイス。

おあつらえの俺、おはよう。


珈琲を淹れる。

今日は知人にもらったインドのやつ。

少々酸っぱいが朝にはちょうどいいとしておこう。

TVをつけコーンフレークに牛乳をかけ、食べ終わったら消す。

2分ほど。

コーンフレークの栄養素の五角形は信じられないくらい大きいが(牛乳の栄養分込みなのは承知の上で)、この時期のワイドショーは体に毒だ。

ワイドショーにも牛乳かければいけるかな。

いやむりか。

しかしスパイスとしてはいい。

TVをつければ朝に音が広がり、消せばすぐに静かになる。

その落差が好き。


窓を開け、煙草に火をつける。

雲間に覗く青空に向かって煙を吐く。

コーンフレークに残った牛乳を珈琲に入れてひと口すする。

遠くで電車の音が聞こえる。

Twitterを開く。

みんな生きてるみたいでよかった。


シャワーを浴びて歯を磨いて裸のままベランダに出て体操をする。

寒いのですぐ部屋に戻って服を着る。

TVをつけて録画していた十津川警部を見る。

2時間半もあるのか。

そんなにお腹が空いてないけど2日前に大量に作って半分くらいまだ残っている豚汁を火にかけて食べながらまったり見る。

冒頭から札幌の街が映る。

結婚20年目のアニバーサリーで北海道旅行に来ていた十津川夫妻だったが、寝台特急カシオペア号で妻が誘拐された。

刑事の妻が誘拐されるとか、たいがいやな。

十津川警部シリーズはたまにわけのわからん展開をするのがおもしろい。

十津川警部本人も誘拐されたことあるし。

結局カシオペアは東京に着いて妻も解放されたんだけど、なぜか別室で派手目の女が殺されて、事件は思わぬ展開に。

この辺であれ?これ前に見たやつかと思い出して消そうか迷ったけどつい最後まで見てしまった自分の甘さが嫌なんだけど好き。


オチを知ってるから特に面白くもなかった十津川警部が終わるともう昼過ぎになっていた。

このまま部屋にいたら再放送の科捜研の女と相棒が始まるから出かけないと終わる。

海でも行くか天気もいいし。

煙草と小銭を持って外に出てセブンに寄って「まるごとイチゴ」を買う。

海で食べるんだぁ。

「まるごとイチゴ」とは「まるごとバナナ」のイチゴバージョンで、イチゴと生クリームをスポンジで包んだ、ほぼショートケーキな春にしか出ないヤマザキの逸品。

そのセブンから少し行くと踏切があって、ちょうど遮断機が降りていて、電車が轟音を立てて通過した。

小田原方面の東海道線は乗ってる人が1人もいなかったように見えた。

あの電車の運転士は空気を運んでるのか。

なんかロックンロールみたいで好き。


踏切を渡り通りを下ると途中に八雲神社がある。

八雲神社といえば森高千里を思い出す。

ここは茅ヶ崎だけど、森高千里のあの歌と江口洋介のセンター分けを浮かべながら住宅街の参道を行く。

願い事、ひとつ叶うなら〜♫

なんて少し口ずさんだらせつなくなった。

ついお賽銭をケチってしまうけれど、神社仏閣にお参りするのは好きだ。

別に何をお願いするわけでもない。

手を合わせ、祈る時間にしか感じられない心の静けさが好き。

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