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山田玲司のヤングサンデー 第258号 2019/10/7

黒いマスクの男

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「サイン会とかオフ会とかって、『ヤバいヤツ』来そうで怖くないの?」


そんな事を前に漫画家の友達から言われた事がある。


その人は少し神経質なとこがある人なので、よく知らない人達といきなり接触する、という行為が信じられないというわけだ。


確かにアイドルのサイン会なんかで「いきなりノコギリで切りつけてきたファン」とかいたし、そういう人への対応で握手会なんかの警備は厳重とも聞く。(地下アイドルは別とも聞く)


恋愛というものは人を狂わせるものなので、「疑似恋愛」を売りにしているアイドルのファンが「危ないこと」になるのは予想できる。


でもこっちは「美少女アイドル」ではない。

同級生は会社の部長か教頭先生になっててもおかしくない年齢だ。


毎月オフ会をやってても「ヤバいヤツ」なんかに会った事はない。

「サメ映画に狂っている」みたいな「別の意味でヤバいヤツ」は来るけど、そういう人はむしろ大歓迎なのだ。(基本的にそういう人は礼儀正しい)


当然サイン会でも、来てくれるのは「いい人」ばかりで、さんざん並ばされてるのに文句1つ言わない。差し入れまでくれる「神さま」ばかりだ。



ところがである。



【ヤバいヤツがいる】


そんな僕の前に「見るからにヤバそうな男」が現れた。

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それは今年の「白亜展」の会場での事。

学校だった建物をギャラリーに改装した場所で、僕らは1週間近く展覧会をしていた。

僕は何度も会場に行き、本を買ってくれた人達にサインをしていた。

サインをする場所は決まってなかったので、その日は試し読みコーナーの一角でお客さんにサインをしたり、雑談をしたりしていた。



そんな時、僕の周りをウロウロしながら見ている「若い男」に気がついた。


男は大きな黒いマスクをしたまま、鋭い目でこちらを見ている。

痩せ型で、全身黒っぽい服を着ている。今思えば「香港のデモ隊」の若者みたいなスタイルだ。


彼は黒いマスクをしたまま、小さな声で「山田さんは、XXXXX・・・」と、いきなりマニアックな漫画論をぶつけてきた。

自分が誰かも名乗らず、机に向かっている僕の前に立ち現れて「即議論」という、60年代の学生運動みたいだ。



僕はすぐに察した。

なので、彼の決死の漫画論には乗らずに、彼に聞いた。