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山田玲司のヤングサンデー 第181号 2018/4/9

泣きながらプライドを捨てた日

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どんなにご機嫌に振る舞ってる人でも「悔しいこと」は必ずある。


僕が「絶望に効くクスリ」で対談させてもらった「成功者」と呼ばれる人も、みんなそうだった。

端から見れば「なんとなく上手くやってるように見える人」も「いつ会っても明るい人」も、その裏では数多くの「悔しくて眠れない夜」なんかを抱えて生きてる。



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今回のガンダム特集で、作者の富野由悠季さんと向き合って、いくつかの資料とインタビュー映像を観た。


僕が直接会って話した時の富野さんもそうだったけど、その話の多くは「悔しかった思い出」だった。

高い理想と敗北感の中で「妥協させられた仕事」で評価を受ける、という地獄。

このあたり漫画家である僕にも共感できる。


漫画家もまた「妥協の連続」を強いられる。


絵にこだわるタイプの漫画家が、締め切り時間ギリギリまで原稿を手放さず、編集者が無理やり原稿を奪って印刷所に走る、みたいな話も本当だ。



「連載」という「限られた時間で漫画を完成させ続けるというマラソン」を延々と続けるのが漫画家の仕事なわけで、自分の望むレベルの漫画にならなくても世の中に出され、冷徹な「評価」に晒される。


特に「高い理想」と「プライド」を抱えている人には、不本意な作品で自分が評価されるのは苦しい。



僕にとっては絵の問題より「売れるための設定」に変更されてしまう事が苦しい。


いくら自分が「こんな設定ではありきたりすぎるからもっと斬新なアイデアはないか?」と思って、さんざん悩んで見つけたアイデアも、編集サイドの「普通やらない」とか「売れてる作品にそういうのはない」という単純な判断で潰される事も多い。


そこで「やってらんねえよ!」と言ってしまうと、そこで道は1つ失われてしまう。


そんなわけで「泣く泣く妥協する」というのが、仕事の1部になるのだ。


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ガンダム制作の話はまさに「そんな地獄」の連続だ。

スポンサーとテレビ局の考える「普通」と富野さんの「理想」がぶつかりあって、壮絶な「心の血」が流れている。


富野さんはそこでプライドを傷つけられ、その時の妥協が彼を長く苦しめたと思う。

これは手塚治虫先生も同じで、妥協しなければ「国産初のテレビアニメ」の制作は実現しなかった。


富野さんも手塚先生も、観ていたのはディズニーのクラッシック「バンビ」とか「ピノキオ」とかの、予算も時間も死ぬほどかけた「バケモノ」みたいな、世界最高クオリティのアニメ映画だった。


そこを目指しながら、制作の条件はその数10分の1に満たないのだ。

それでも「ムリです」と言ったらそこで終わり。

なので自分の「心」を犠牲にして妥協案を練り、実行してきたのが手塚治虫であり、富野由悠季なのだ。




僕の話をすると、時々「こんな仕事は自分にはふさわしくない」とか「こんな業界に関わっていてはダメだ」とか言いたくなる自分がいる。

あげくに「もう東京なんかいい」となり「もう日本なんか」となり「もう現世なんか」となる。