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山田玲司のヤングサンデー 第179号 2018/3/26

「シャア」という薬は何に効くか?

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それにしても自分がネットの番組で「ガンダムの話」をするなんて夢にも思ってもみなかった。

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しかも語って欲しい題材の中心はあの「シャア・アズナブル」ときた。

こんなの音楽の世界で言ったら「ジョン・レノンについて」だし、漫画であれば「ドラえもんについて」みたいな感じだ。


みんなが何十年も語り尽くしている「味がしないガム」みたいな題材だ。


そんなシャアだけど、ガンダムを避けてきた僕には「よく知らないキャラクター」なわけで。

「この国民的コンテンツ1番の人気者には如何なる魅力があるのか?」


そんな事を思いながらガンダムに出てくる「シャア」を見ていると、ある「効果」がある事に気づいた。



【ロシア皇太子でケネディ家の御曹司のシャア】


シャアは「王様の子供」だ。

正確には「独立の最高指導者の子供」ではあるけれど、まあとにかくその地区で「1番偉い人の子供」なので、彼を「王子」と言ってもそれほど間違ってはいない。


そんな王子が父を暗殺され、妹と共に国を追われる。

放送でも話した通り、シャアの家族はロシア皇帝最後の王「ニコライ2世」の家族に通じる部分がある。


ニコライの子供たちは親と一緒に殺されてしまったので、「もしあの子供たちが殺されずに亡命していたら?」と考えるとシャア、セイラ兄妹と重なって興味深い。


ロシア皇帝を消し去った後、ソビエトを作った共産党は独裁の色を強めていく。

そこも何か「ザビ家の暴走」に重なる。


おそらくこれも誰かが言ってるとは思うけれど、シャアの境遇は「ケネディ家」にも重なる部分がある。


いくつかの間違いは犯したものの、ジョン・F・ケネディは冷戦下のギリギリの状況で何とかアメリカを守り、ましな世界に向かって努力していた「アメリカの希望」だった。


そんな彼が暗殺された時、息子のケネディJrは3歳。

写真は有名なケネディの葬儀の時のケネディの家族。苦難の人生を歩む母のジャクリーン・ケネディ。

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姉と共に悲しみに耐えるケネディJrは「シャアのイメージ」に重なる。


おそらくそれらの歴史的事実が富野氏の中で「シャア」を作ったのだろうと想像できるのだけれど、ロシアとアメリカ、それぞれの「悲劇の王子」がモデルになっているとしたら「シャア」ってのは「贅沢なキャラ」だ。



【仮の姿という生き方】


シャアの魅力は「本当は王子(+ニュータイプ)」という部分にあると思う。

そんな王子が自分の身分を隠して「1兵士」として「因縁の相手」である組織に潜んでいるのだ。


これは、そもそも文学青年で「崇高な映像作品」を作りたいと思っていたのに「子供のためのテレビアニメ」なる業界に入ってしまった当時の「富野氏の複雑な気持ち」から生まれたのだと想像できる。


この「本当はすごい私」だが「あえて」ここに潜んでいる、という思考はいい。


思えば僕も中学校の朝礼なんかで寒空の校庭に並ばされて校長のどうでもいい話なんかを聞かされている時に「本当はすごい私だが、今はあえてここにいてやるのだ」と思っていた。


もちろんガンダムのヒットの理由は「ガンプラ」や「ゲーム」や「恋愛要素」「兵器のリアリティ」など数多いのだけど、シャアの「私は本当はすごいヤツなのだよ」の感じに共感し、救われた人は多かったと思う。


何しろシャアは「仮面」か「サングラス」だ。

そんなふうに自分の「素」を隠して世間と闘う方法もあるのだ。



一方でアムロはもっとすごい。

彼は「素のまま」戦うし、シャアより「すごい才能」を持っているのに、「倒したい敵」もいない。

そもそも戦う気がない。


これは「戦争の傷を受け継いだ世代」と「傷のない世代」の対比になっていて、富野氏は「傷のないアムロ」が強い、と伝えているのが面白い。

(正確に言えばアムロはネグレクトなので傷がないわけではないけど)



【毒親とザビ家】


じゃあ今の若い世代に「戦争(過去)の傷」を受け継ぐ事が無いか?と言えば、残念ながらそんな事はない。