8c10b154dc4c305bf2242d13d8eb722d7963bb7e.jpg
 
デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』の最終回です。今回は「20世紀的な男性的成熟」から解放される回路として「おもちゃ」というフィクショナルな身体の可能性を論じ、“kakkoii”概念をまとめます。
 
 

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 “kakkoii”の誕生(後編)|池田明季哉

ダイアクロンはなにをリブートしたのか

 リブート版のダイアクロンは、最初から15歳以上向けの商品として誕生した。2016年において、高額なハイエンドトイというジャンル自体はすでに確立されたものであった。一方で、そのほとんどはすでにアニメーション作品として人気を確立したキャラクターの商品化であるという側面は否めなかった。ダイアクロンというIP自体は、トランスフォーマーの前身として知る人ぞ知る傑作シリーズではあったものの、すでに展開が終了して久しい「歴史」になってしまったシリーズであり、それそのもののファン層は必ずしも厚かったわけではない。そういったおもちゃメーカーの独自IPがハイエンドな高額おもちゃとして発売されることは例が少なく、当時としてはチャレンジングな試みであった。

 しかし発売以来リブートダイアクロンはじわじわとファンを獲得していき、10周年を迎えた2026年現在では商品点数がゆうに100を超えている。タカラトミーが大人向けホビーブランド「T-SPARK」を立ち上げたのは、ダイアクロンの成功を背景にしていると見てまず間違いないだろう。

 本連載としては、リブートダイアクロンが成功したとするならば、その要因はそこに描かれていた成熟のイメージが、魅力的なものとして広く受け入れられたからだと考える。

ここで注目したいポイントはふたつある。まずひとつは商品としての完成度だ。当然のことを言っているようであるが、ここでいう「完成度」がなにを意味しているのかから考える必要がある。

 たとえば先述のようなアニメーション作品の商品化がどういった価値をもっているのかというと、その多くは劇中の「再現」が可能であるということに集約されるだろう。たとえばこの連載でも扱ってきた勇者シリーズの玩具は、オリジナルにおいては子ども向けに設計されており、強度とギミックに主眼が置かれ、結果としてアニメーション作中における描写は大胆なディフォルメが行われることが通例となっていた。そのためこうした作品におけるおもちゃを大人向けにリメイクされる際は、強度を妥協してより多くのコストをかけ、さらに当時からの技術的向上を反映することによって、合体や変形などのメインギミックを保存したままアニメーション劇中の印象を「再現」するというのがベーシックな価値であった。トランスフォーマーにおいては若干様相が異なり、どちらかといえばオプティマス・プライムやメガトロンといった人物における変形やスタイルの再解釈とアップデートに価値が置かれてきたのだが、いずれにしてもキャラクターの商品化に軸があったということは間違いないだろう。ゆえに商品化も人気キャラクターに偏り「ガオガイガーばかり新作が出る」「オプティマスばかり増えていく」という嘆きはファンのあいだではクリシェとされている。

 ところがダイアクロンは、こうしたキャラクターの再現と所有という回路をコンセプトに持たない。まず依拠するアニメーション作品を持たないし、オリジナル版に存在していたダイアバトルスやビッグパワードといったアイコニックなデザインの再解釈という側面もないわけではないが、リブートオリジナルの機体も多数ラインナップされており、それは本質からやや遠いところに置かれている。リブートダイアクロンは公式のステートメントにおいて「大人の為の<イマジネーション型エンターテインメントTOY>」を標榜しているが、そこには「ロールプレイ=ごっこ遊び」という言葉が登場する。これは先述のようなキャラクターおもちゃとリブートダイアクロンを隔てる本質的な言葉だ。では、リブートダイアクロンはいかなる意味でロールプレイなのだろう? そしてそれは成熟のイメージとSNSにおいてどのような意味を持つのだろう?
eb394c5abceb6b80bdadf7d53948a37ce3f234da.png

▲ダイアクロン公式ウェブサイトに掲載されたステートメント。

https://www.takaratomy.co.jp/products/diaclone/world/