土神ときつね 宮沢賢治 (『注文の多い料理店』より)
土神 川上千尋 素直だけれど、神と言う立場が微妙に大人ぶらせる少年
きつね 遠藤ゆりか 知性を感じる少年
樺の樹 金元寿子 普通の女の子
※3キャラとも、妖精的な扱いで人格化。なので、大人の声ではなく中学生くらいの年齢感で
モノローグ
BGM~
土 神「私は神である。そう、神なのだ……一応。 この一帯を鎮守しているのだが……神なら何でも出来るなんて思わないで欲しい。 豊穣を祈られても困るのだ。不作がわしのせい? そんなわけあるか。 力不足が罪と言うのであれば、それはわしのせいだろうけどな……」
樺の樹「土神様に見初められた。と言えば誉れなのかもしれない。 ただ、それだけなのに特別として見られるのは困ると言うか…… 決して聖木(せいぼく)とかそう言う立派なものじゃないの。 私は普通の樹。 なのに、みんなが遠慮をしてしまう。 私は……もう今まで通りじゃいられないのかしら?」
きつね「とても美しい樺の樹さん。土神さまが見初めるられるのも納得と言う物である。格が違う。 でも、僕は心から樺の樹さんのことを好きになってしまった。 別に土神様に喧嘩を売るつもりはないが、自分の心に嘘をつきたくない。 だから背伸びであっても、僕は相応に男として……頑張る……」
SE 夏の夜
きつねが樺の樹の根元に来て、声を掛ける
きつね「お隣、いいですか?」
樺の樹「どうぞ」
きつね「(無言)」
樺の樹「…………(気になっているので、ちょっと意識している)」
きつね「実に、静かな晩ですねぇ」
樺の樹「えぇ。そうですね」
きつね「アンタレスが実に綺麗に見えますね。 宮沢賢治が大好きなんですよね。この星。 銀河鉄道の夜では『蠍の火』と表現していましたね」
樺の樹「火星ではないのですか?」
きつね「火星とは違うんです。 火星は惑星なので映し出されるだけですが、アンタレスは立派な恒星なんです」
樺の樹「惑星? 恒星? それってどう言う意味ですか?」
きつね「惑星と言うのは、ただの大きな塊です。月もそうですね。 太陽の光によって映し出されて光って見えるだけ。 しかし、恒星って言うのは自分が光っているんです。お天道様なんかはもちろん恒星です。 昼間はあんなに大きく見えるお天道様も、ずっとずぅっと、途方もなく遠くから見たら、 この夜空に散らばる星の一つと同じようにちっちゃく見えるんでしょうね」
樺の樹「まぁ! お天道様も星のうちだったのですわね。 そうして見ると、この空には沢山のお 天道様が……お星様? いえ、やっぱりお天道様?があるんですね」
きつね「ふふふ、まあそうですね」
樺の樹「お星様には、どうして赤いのや黄色いのや青いのがあるんでしょうね?」
きつね「それはですね、この星たちと言うのは、最初はぼんやりとした雲のようなものだったのです。 様々な形に変わったり、虹の様に色に染まったり…… 今の空にもそう言うのが沢山あります。 例えば、アンドロメダにもオリオンにも猟犬座にもあります。 猟犬座は渦を巻いてますし、それから環状星雲(リングネビュラ)と言うのもあります。 魚の口の形なので魚口星雲(フィッシュマウスネビュラ)とも言いますね。 そんなものが今のこの夜空に沢山存在する んです」
樺の樹「まあ、あたしもいつか見たいわ。魚の口の形だなんて、いったいどんな形なのかしら 」
きつね「それは立派な物でしたよ。僕は水沢の天文台で見たんですけどね」
樺の樹「そうなんですね! あたしも見に行きたいけれど…… この場から離れる事は許されませんから……」
きつね「……では、いつか必ず見せて上げましょう。 実はちょうど、ドイツに望遠鏡を注文していたところなんですよ。 それなら天文台に行かなくても見ることが出来ましょうぞ」(嘘なので、最初言い淀む)
樺の樹「うれしい! あなたって、本当にいつでも親切なのね」(好意的に言う)
きつね「あなたのためなら、僕ぁどんなことだって叶えてみせますよ♪ あ、そうだ、この詩集をご覧になりますか? ハイネと言う作家の本ですが、なかなか良い物ですよ」
樺の樹「まぁ、お借りして良いのですか?」
きつね「もちろん。ゆっくりご覧下さい。 では、邪魔してはいけないので、僕はお暇しましょ う。 ……ん? なにか言い忘れているような……」
樺の樹「星の色のことですわ」
きつね「おっと!そうでしたね。 では、その話はまた今度にしましょう。では、失礼します」
樺の樹「では、本をお借りしますね。 またいらして下さい」
きつねは少し歩き、後悔をする。
きつね「あぁ、僕はまたつい偽を言ってしまった……僕は本当に駄目なやつだな…… けれども 決して悪気があって言ったんじゃない! 喜ばせようと思って……そう、喜んで貰いたかったんだ ……」
翌朝、土神が樺の樹の元にやってくる
土 神「やぁやぁ、樺の樹さん、おはよう♪」
樺の樹「おはようございます」(神様が相手なので、基本的にかしこまって)
土 神「私はねぇ、どぉぉぉ考えても解らんことが沢山ある。 いやぁ、解らん事がこの世界にはあふれているもんだ」
樺の樹「まぁ、それはどういったことですの?」
土 神「例えば、草はこんな黒い土から映えてくるのに、なぜか緑色をしているんだろうか。 しかも成長して花を咲かせると白かったり黄色かったりするんだ。 どうにも解らんのだよねぇ 」
樺の樹「それは、草の種が緑だったり白をもっているからじゃないですか?」
土 神「あんなちっこい、黒々とした種に? そうだ、きのこなんて種も無いのに増えて、しかも赤かったりする。もう何が何やら」
樺の樹「う~ん……それなら、きつねさんに訊いてみてはいかがですか?……あ」 (他の男の名前を出す的な気まずさ)
土 神「きつね? はて、なんでここできつねが出てくるんだ? 何か言いおったのか?」(ぷちキレ)
樺の樹「いえ、そうではないのですが…… その、とても色々な難しい事を知っていらっしゃるようなので、 もしかしたらお答え出来るかもしれません」
土 神「ハァ? きつねなんぞに神である私が教えて貰え、と?」(尊厳を傷つけられた気がしてる)
樺の樹「い、いえ……その……申し訳ございません……」
土 神「きつねなんぞこの世の害だ。 口から出まかせ、卑怯な上に臆病者で、しかも妬み深く、陰湿……」
樺の樹「そ、それより、もう土神様のお祭りが近付きましたね♪」(話題を変えた!)
土 神「そうなんだ♪ 来週かぁ……しかし……人間どもも不届きである。 近頃は私の祭りだ と言うのにまとも供物を用意しないし、 そのくせ文句と悩みだけは立派に良いよる」
土 神「……思い出しただけでも腹が立ってきたな…… 今度腹いせに、神社に来た奴の足を滑らせてやろうかな 。 こう偶然の様にバナナの皮でも置いておいて…… つっるーん!って足を滑らせたら面白そうだな♪」(ちょっとおちゃらけて)
樺の樹「ほ、ほどほどにして下さいね」(やや引いてる)
土 神「冗談じゃ、冗談♪じゃあ、またな」
土神は、しばらく歩き離れて、後悔する。
土 神「くそっ、どうして樺の樹に対するとこんなに甘えてしまうんだ。 まったくカッコ悪い……しかも、なんでこんなに苛立つんだ……解らん。 むしゃくしゃする。こんな姿を樺の樹に見せたくないのに……」
とある夏の夜
土 神「あー、今年の夏はダルいわぁ…… ちょっとだけ……ちょっとだけ樺の樹に甘えに行ってもいいよな…… ん? あれは……あれが例のきつね? 何を楽しそうに話をしてるんだ?」
きつね「そう、そうなんですよ! こう、造形が完璧だからって美しいとは限らないんですよ。 むしろそこに理由が無ければならないのです。心の無い美しさは、死んだ『美』なのです」
樺の樹「そうですわ♪ あたしは完璧じゃないし、不細工なのではないかと心配した事もありました……」
きつね「なんてことを! あなたほど美しい物を私は知らない。……けれど、それを他のモノと比べてはならない」
樺の樹「どうしてですか?」
きつね「比べることに意味が無いからです。 美しいかどうか。それは絶対的な物である必要はない。なぜなら、絶対がないからだ。 ……ちょうどこの前届いた本に書いてあったのですが、 この事を読んだ瞬間に、生まれ変われた気がしましたね」
樺の樹「それは大変素敵な言葉ね……比べることに、意味が無い……」
土 神「クソ……クソ……クソッ!! なにがそんなにおまえを切なくするのだ! たかが樺の木 ときつねが野原の中でしてる短い会話じゃないか! そんなものに心を乱されて、それでも お前は神と言えるか? みっともない! 実にみっともない!!」
樺の樹「きつねさんは沢山の本をお持ちなの?」
きつね「どうでしょう? 人よりは多いと思いますが、僕は満足していませんからね」
樺の樹「すばらしいわ」
きつね「本だけじゃなくてあちこちから取り寄せた物で溢れてしまって、恥ずかしい部屋ですよ。 この間、顕微鏡が届いたのに置く所に困ってる始末です」
樺の樹「そういえば、いつかの望遠鏡はまだですの?」
きつね「ぼ、望遠鏡は……そ、そうなんですよ…… 早くあなたに星の姿を見せたくてならないのですが……」(嘘なので、答えにくい)
樺の樹「私がここから動ければ、一緒に天文台に行ったり…… きつねさんのお部屋に行って、お片付けしてあげられますのにね♪」
きつね「そ、そんな」(嬉しさと、嘘をついていることがばれる怖さで微妙な返事になってしまう)
土 神「ハァハァ……クソ!!クソクソクソー!!!」
季節は変わり、秋になった。
土 神「一面に広がる黄金の麦穂……心が洗われるねぇ…… 人間に心底感謝されると言うのが、これほど嬉しいとは。 まったく、実に愚かだと思っていたのに、やはり可愛いもんだ」
土 神「これなら、もう二度とあの不思議にも意地の悪い衝動は沸かないだろう。 樺の木なども狐と話したいなら話すがいい。 両方とも嬉しくて話すのなら、それは本当に良い事なんだろう。 ……今日は、そのことを樺の木に言ってやろう。今度は私が甘えさせるのだ」
樺の樹「ふふふ♪」(きつねと会う約束をしていて、嬉しい)
土 神「樺の木さん。おはよう。実にいい天気だね」
樺の樹「つ、土神様! おはよう、ございます……」(恥ずかしい)
土 神「天道と言うものはありがたいもんだ。 春は赤く、夏は白く、秋は黄色くなる。 秋が黄色になると、葡萄は紫になる。実にありがたいもんだ♪」
樺の樹「そう、ですねぇ」(きつねとの逢瀬の邪魔で気乗りしてない)
土 神「私は実に気分が良い。 夏から心に振り回されたが、今朝になってやっと流れ出していった感じがする。 いまなら、しっかりと神らしくふるまえるぞ」(ややドヤっとしつつ)
樺の樹「そうなのですね」
きつね「やぁ樺の樹さ……ん……こ、これは失礼しました。土神様、ですね」 (虚勢を張っているのが神には見破られるのではないかと、内心恐れている)
土 神「そうだ。私が土神だ。実に良い天気だな」(ウザさわやかに)
きつね「土神様がいらっしゃるのに、お邪魔をしてしまい、大変失礼しました……」 (神であろうと恋敵であるので嫉妬はしているが、強く出る事は出来ない。 なぜなら自分が張りぼてだ から)
樺の樹「あ、あのぉ……」(この異様な状況に困惑している)
きつね「今度、改めますね。もし届いていれば、望遠鏡を持って」
樺の樹「あ! ありがとうございます! 是非隣で一緒に星を見ましょう♪」
きつね「で、では!……さようなら……」 (嬉しくてもその日が来ないのを知ってるので、足早に逃げ出す)
土 神「……きつねの分際で……」(結局嫉妬。神になりきれず!)
樺の樹「土神…様? ……土神様!」
土 神「……何故だ……何故こうも思い通りにならん! なんなんだ! なんなんだこの気持ちは!!」
SE バン!と扉を閉める
きつね「何故だ。何故こうも嘘をついてしまうんだ! なんなんだ! 神の前ですら嘘をついて、 大きく見せて!! みっともない! 実にみっともない!」
SE バンと今度は扉が開く
土 神「きつねぇぇぇぇ!!」
土神様、一気にきつねに掴みかかり、壁に頭を叩きつける。
そのまま流れるように床に投げつけ 、馬乗りになる。
土 神「教えろきつね! なんでこんなにもお前が憎いんだ!!」
きつね「……土神…様……きっと……嫉妬です…… ……僕なんかと……比べなくて……いいんですよ…… ……嘘にまみれた……この僕と…… ……あなたは、心から愛してるんですね……樺の樹さんを……」
土 神「……しっ……と? 神である、この私……が?」
きつね「……ありがと……ございます……これは……うそつきの僕の……罪……」
微笑みながら息絶え、床に崩れる
土 神「なんでなんだーーー!!」 (自分が他よりも劣っていることに嫉妬し、恋愛感情でき つねに嫉妬し、 神であれと言う自分の理想に嫉妬し……自分の本性に気付き、ただただ絶望の涙を流す)
end
土神 川上千尋 素直だけれど、神と言う立場が微妙に大人ぶらせる少年
きつね 遠藤ゆりか 知性を感じる少年
樺の樹 金元寿子 普通の女の子
※3キャラとも、妖精的な扱いで人格化。なので、大人の声ではなく中学生くらいの年齢感で
モノローグ
BGM~
土 神「私は神である。そう、神なのだ……一応。 この一帯を鎮守しているのだが……神なら何でも出来るなんて思わないで欲しい。 豊穣を祈られても困るのだ。不作がわしのせい? そんなわけあるか。 力不足が罪と言うのであれば、それはわしのせいだろうけどな……」
樺の樹「土神様に見初められた。と言えば誉れなのかもしれない。 ただ、それだけなのに特別として見られるのは困ると言うか…… 決して聖木(せいぼく)とかそう言う立派なものじゃないの。 私は普通の樹。 なのに、みんなが遠慮をしてしまう。 私は……もう今まで通りじゃいられないのかしら?」
きつね「とても美しい樺の樹さん。土神さまが見初めるられるのも納得と言う物である。格が違う。 でも、僕は心から樺の樹さんのことを好きになってしまった。 別に土神様に喧嘩を売るつもりはないが、自分の心に嘘をつきたくない。 だから背伸びであっても、僕は相応に男として……頑張る……」
SE 夏の夜
きつねが樺の樹の根元に来て、声を掛ける
きつね「お隣、いいですか?」
樺の樹「どうぞ」
きつね「(無言)」
樺の樹「…………(気になっているので、ちょっと意識している)」
きつね「実に、静かな晩ですねぇ」
樺の樹「えぇ。そうですね」
きつね「アンタレスが実に綺麗に見えますね。 宮沢賢治が大好きなんですよね。この星。 銀河鉄道の夜では『蠍の火』と表現していましたね」
樺の樹「火星ではないのですか?」
きつね「火星とは違うんです。 火星は惑星なので映し出されるだけですが、アンタレスは立派な恒星なんです」
樺の樹「惑星? 恒星? それってどう言う意味ですか?」
きつね「惑星と言うのは、ただの大きな塊です。月もそうですね。 太陽の光によって映し出されて光って見えるだけ。 しかし、恒星って言うのは自分が光っているんです。お天道様なんかはもちろん恒星です。 昼間はあんなに大きく見えるお天道様も、ずっとずぅっと、途方もなく遠くから見たら、 この夜空に散らばる星の一つと同じようにちっちゃく見えるんでしょうね」
樺の樹「まぁ! お天道様も星のうちだったのですわね。 そうして見ると、この空には沢山のお 天道様が……お星様? いえ、やっぱりお天道様?があるんですね」
きつね「ふふふ、まあそうですね」
樺の樹「お星様には、どうして赤いのや黄色いのや青いのがあるんでしょうね?」
きつね「それはですね、この星たちと言うのは、最初はぼんやりとした雲のようなものだったのです。 様々な形に変わったり、虹の様に色に染まったり…… 今の空にもそう言うのが沢山あります。 例えば、アンドロメダにもオリオンにも猟犬座にもあります。 猟犬座は渦を巻いてますし、それから環状星雲(リングネビュラ)と言うのもあります。 魚の口の形なので魚口星雲(フィッシュマウスネビュラ)とも言いますね。 そんなものが今のこの夜空に沢山存在する んです」
樺の樹「まあ、あたしもいつか見たいわ。魚の口の形だなんて、いったいどんな形なのかしら 」
きつね「それは立派な物でしたよ。僕は水沢の天文台で見たんですけどね」
樺の樹「そうなんですね! あたしも見に行きたいけれど…… この場から離れる事は許されませんから……」
きつね「……では、いつか必ず見せて上げましょう。 実はちょうど、ドイツに望遠鏡を注文していたところなんですよ。 それなら天文台に行かなくても見ることが出来ましょうぞ」(嘘なので、最初言い淀む)
樺の樹「うれしい! あなたって、本当にいつでも親切なのね」(好意的に言う)
きつね「あなたのためなら、僕ぁどんなことだって叶えてみせますよ♪ あ、そうだ、この詩集をご覧になりますか? ハイネと言う作家の本ですが、なかなか良い物ですよ」
樺の樹「まぁ、お借りして良いのですか?」
きつね「もちろん。ゆっくりご覧下さい。 では、邪魔してはいけないので、僕はお暇しましょ う。 ……ん? なにか言い忘れているような……」
樺の樹「星の色のことですわ」
きつね「おっと!そうでしたね。 では、その話はまた今度にしましょう。では、失礼します」
樺の樹「では、本をお借りしますね。 またいらして下さい」
きつねは少し歩き、後悔をする。
きつね「あぁ、僕はまたつい偽を言ってしまった……僕は本当に駄目なやつだな…… けれども 決して悪気があって言ったんじゃない! 喜ばせようと思って……そう、喜んで貰いたかったんだ ……」
翌朝、土神が樺の樹の元にやってくる
土 神「やぁやぁ、樺の樹さん、おはよう♪」
樺の樹「おはようございます」(神様が相手なので、基本的にかしこまって)
土 神「私はねぇ、どぉぉぉ考えても解らんことが沢山ある。 いやぁ、解らん事がこの世界にはあふれているもんだ」
樺の樹「まぁ、それはどういったことですの?」
土 神「例えば、草はこんな黒い土から映えてくるのに、なぜか緑色をしているんだろうか。 しかも成長して花を咲かせると白かったり黄色かったりするんだ。 どうにも解らんのだよねぇ 」
樺の樹「それは、草の種が緑だったり白をもっているからじゃないですか?」
土 神「あんなちっこい、黒々とした種に? そうだ、きのこなんて種も無いのに増えて、しかも赤かったりする。もう何が何やら」
樺の樹「う~ん……それなら、きつねさんに訊いてみてはいかがですか?……あ」 (他の男の名前を出す的な気まずさ)
土 神「きつね? はて、なんでここできつねが出てくるんだ? 何か言いおったのか?」(ぷちキレ)
樺の樹「いえ、そうではないのですが…… その、とても色々な難しい事を知っていらっしゃるようなので、 もしかしたらお答え出来るかもしれません」
土 神「ハァ? きつねなんぞに神である私が教えて貰え、と?」(尊厳を傷つけられた気がしてる)
樺の樹「い、いえ……その……申し訳ございません……」
土 神「きつねなんぞこの世の害だ。 口から出まかせ、卑怯な上に臆病者で、しかも妬み深く、陰湿……」
樺の樹「そ、それより、もう土神様のお祭りが近付きましたね♪」(話題を変えた!)
土 神「そうなんだ♪ 来週かぁ……しかし……人間どもも不届きである。 近頃は私の祭りだ と言うのにまとも供物を用意しないし、 そのくせ文句と悩みだけは立派に良いよる」
土 神「……思い出しただけでも腹が立ってきたな…… 今度腹いせに、神社に来た奴の足を滑らせてやろうかな 。 こう偶然の様にバナナの皮でも置いておいて…… つっるーん!って足を滑らせたら面白そうだな♪」(ちょっとおちゃらけて)
樺の樹「ほ、ほどほどにして下さいね」(やや引いてる)
土 神「冗談じゃ、冗談♪じゃあ、またな」
土神は、しばらく歩き離れて、後悔する。
土 神「くそっ、どうして樺の樹に対するとこんなに甘えてしまうんだ。 まったくカッコ悪い……しかも、なんでこんなに苛立つんだ……解らん。 むしゃくしゃする。こんな姿を樺の樹に見せたくないのに……」
とある夏の夜
土 神「あー、今年の夏はダルいわぁ…… ちょっとだけ……ちょっとだけ樺の樹に甘えに行ってもいいよな…… ん? あれは……あれが例のきつね? 何を楽しそうに話をしてるんだ?」
きつね「そう、そうなんですよ! こう、造形が完璧だからって美しいとは限らないんですよ。 むしろそこに理由が無ければならないのです。心の無い美しさは、死んだ『美』なのです」
樺の樹「そうですわ♪ あたしは完璧じゃないし、不細工なのではないかと心配した事もありました……」
きつね「なんてことを! あなたほど美しい物を私は知らない。……けれど、それを他のモノと比べてはならない」
樺の樹「どうしてですか?」
きつね「比べることに意味が無いからです。 美しいかどうか。それは絶対的な物である必要はない。なぜなら、絶対がないからだ。 ……ちょうどこの前届いた本に書いてあったのですが、 この事を読んだ瞬間に、生まれ変われた気がしましたね」
樺の樹「それは大変素敵な言葉ね……比べることに、意味が無い……」
土 神「クソ……クソ……クソッ!! なにがそんなにおまえを切なくするのだ! たかが樺の木 ときつねが野原の中でしてる短い会話じゃないか! そんなものに心を乱されて、それでも お前は神と言えるか? みっともない! 実にみっともない!!」
樺の樹「きつねさんは沢山の本をお持ちなの?」
きつね「どうでしょう? 人よりは多いと思いますが、僕は満足していませんからね」
樺の樹「すばらしいわ」
きつね「本だけじゃなくてあちこちから取り寄せた物で溢れてしまって、恥ずかしい部屋ですよ。 この間、顕微鏡が届いたのに置く所に困ってる始末です」
樺の樹「そういえば、いつかの望遠鏡はまだですの?」
きつね「ぼ、望遠鏡は……そ、そうなんですよ…… 早くあなたに星の姿を見せたくてならないのですが……」(嘘なので、答えにくい)
樺の樹「私がここから動ければ、一緒に天文台に行ったり…… きつねさんのお部屋に行って、お片付けしてあげられますのにね♪」
きつね「そ、そんな」(嬉しさと、嘘をついていることがばれる怖さで微妙な返事になってしまう)
土 神「ハァハァ……クソ!!クソクソクソー!!!」
季節は変わり、秋になった。
土 神「一面に広がる黄金の麦穂……心が洗われるねぇ…… 人間に心底感謝されると言うのが、これほど嬉しいとは。 まったく、実に愚かだと思っていたのに、やはり可愛いもんだ」
土 神「これなら、もう二度とあの不思議にも意地の悪い衝動は沸かないだろう。 樺の木なども狐と話したいなら話すがいい。 両方とも嬉しくて話すのなら、それは本当に良い事なんだろう。 ……今日は、そのことを樺の木に言ってやろう。今度は私が甘えさせるのだ」
樺の樹「ふふふ♪」(きつねと会う約束をしていて、嬉しい)
土 神「樺の木さん。おはよう。実にいい天気だね」
樺の樹「つ、土神様! おはよう、ございます……」(恥ずかしい)
土 神「天道と言うものはありがたいもんだ。 春は赤く、夏は白く、秋は黄色くなる。 秋が黄色になると、葡萄は紫になる。実にありがたいもんだ♪」
樺の樹「そう、ですねぇ」(きつねとの逢瀬の邪魔で気乗りしてない)
土 神「私は実に気分が良い。 夏から心に振り回されたが、今朝になってやっと流れ出していった感じがする。 いまなら、しっかりと神らしくふるまえるぞ」(ややドヤっとしつつ)
樺の樹「そうなのですね」
きつね「やぁ樺の樹さ……ん……こ、これは失礼しました。土神様、ですね」 (虚勢を張っているのが神には見破られるのではないかと、内心恐れている)
土 神「そうだ。私が土神だ。実に良い天気だな」(ウザさわやかに)
きつね「土神様がいらっしゃるのに、お邪魔をしてしまい、大変失礼しました……」 (神であろうと恋敵であるので嫉妬はしているが、強く出る事は出来ない。 なぜなら自分が張りぼてだ から)
樺の樹「あ、あのぉ……」(この異様な状況に困惑している)
きつね「今度、改めますね。もし届いていれば、望遠鏡を持って」
樺の樹「あ! ありがとうございます! 是非隣で一緒に星を見ましょう♪」
きつね「で、では!……さようなら……」 (嬉しくてもその日が来ないのを知ってるので、足早に逃げ出す)
土 神「……きつねの分際で……」(結局嫉妬。神になりきれず!)
樺の樹「土神…様? ……土神様!」
土 神「……何故だ……何故こうも思い通りにならん! なんなんだ! なんなんだこの気持ちは!!」
SE バン!と扉を閉める
きつね「何故だ。何故こうも嘘をついてしまうんだ! なんなんだ! 神の前ですら嘘をついて、 大きく見せて!! みっともない! 実にみっともない!」
SE バンと今度は扉が開く
土 神「きつねぇぇぇぇ!!」
土神様、一気にきつねに掴みかかり、壁に頭を叩きつける。
そのまま流れるように床に投げつけ 、馬乗りになる。
土 神「教えろきつね! なんでこんなにもお前が憎いんだ!!」
きつね「……土神…様……きっと……嫉妬です…… ……僕なんかと……比べなくて……いいんですよ…… ……嘘にまみれた……この僕と…… ……あなたは、心から愛してるんですね……樺の樹さんを……」
土 神「……しっ……と? 神である、この私……が?」
きつね「……ありがと……ございます……これは……うそつきの僕の……罪……」
微笑みながら息絶え、床に崩れる
土 神「なんでなんだーーー!!」 (自分が他よりも劣っていることに嫉妬し、恋愛感情でき つねに嫉妬し、 神であれと言う自分の理想に嫉妬し……自分の本性に気付き、ただただ絶望の涙を流す)
end
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