マル激!メールマガジン 2015年9月30日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第755回(2015年9月26日)
これが今の自民党の本当の姿なのか
ゲスト:中北浩爾氏(一橋大学大学院社会学研究科教授)
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主要野党を力でねじ伏せ、違憲の疑いが濃い安保関連法案を強行に採決。そして翌週には、立候補の意思を明確に表明した同僚議員の支持者を切り崩して、総裁選も無投票再選。総裁再任の記者会見では、記者クラブ側にあらかじめ質問を提出させた上での完全な出来レースの茶番劇を堂々と演じる等々、安倍政権の暴走ぶりがまさに半端ない状態だ。
そして、そうした安倍政権の政権運営に対して、党内からは異論や批判の類が一向に聞こえてこない。マスコミもことさらに問題視する報道はしていないので、一見平穏に政治が行われているように見えるかもしれないが、それは容赦のない高圧的な政権運営のなせる業でもある。一体、自民党はどうなってしまったのか。これが新しい自民党の姿なのか。
一橋大学大学院教授で日本の政治史が専門の中北浩爾氏は、自民党の変質は長い時間をかけて進んだ現象だが、その背景には安倍晋三という政治家個人のキャラクターと民主党の台頭の2つの要素があったと解説する。
安倍首相は自民党が小沢一郎氏や武村正義氏らの離党によって野党に転落した1993年に初当選している。政治家としての原点が野党だったことに加え、それ以降、自民党の党勢は党員数という面からも、資金力という点からも確実に衰えるなかで、常に党の再生を考えなければならなかった。2012年に総裁に返り咲いた時も、政権は民主党の手中にあった。
そうした背景から、中北氏は安倍首相の政治家としての思考は、いかに民主党に太刀打ちするかが常に最大の課題となっていると指摘する。リベラル路線をとる民主党に対抗するために何が必要かを考えた時、理に適った選択が、現在のタカ派・右寄り路線だった。民主党こそが現在の安倍政権を生んだ張本人と言っても過言ではないと中北氏は言う。
自民党がこのまま右寄り路線を突っ走ることになるか、交互のリベラル色の強い政権が誕生するかどうかは、民主党が再生できるかどうかにかかっていると中北氏は言う。民主党が党勢を挽回できなければ、自民党は無理に右に寄る必要はなくなるため、かつてのようなリベラル穏健派の政権が誕生することもあるかもしれない。しかし、もしまた民主党やリベラル路線の野党勢力が台頭してきた場合、自民党が右に寄るのは必然の帰結となる。
安倍首相の下での自民党の変質について、自民党政治の歴史を参照しながらゲストの中北浩爾氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・「合意すること」を軽んじる安倍政権
・没落傾向にある自民党と、安倍政権が生まれた偶然性
・「安倍政権後」の自民党はどうなるか
・民主党に飛ぶブーメラン、共産党が直面する高いハードル
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■「合意すること」を軽んじる安倍政権
神保: 今日は、安保法案の採決後、初めての収録です。先週土曜日の未明に採決が行われて、この法案が可決しました。安保法案に関しては散々取り上げてきましたが、今日はもう少し大きな話で、自民党そのものが一体どうなってしまったのか、というところに焦点を当てたいと思います。
宮台: 私たちは今まで憲法が法律の一番偉いものだと思ってきましたが、やっと憲法が、統治権力を縛るものであることを理解しました。そして今回、安倍さんは“選挙で通ったのだから何でもできる”という姿勢でやってきている。これはまさにルソーが批判した、「選挙だけ参加して、後は奴隷」というやり方です。
また、内閣総理大臣に任免権があるからといって、内閣法制局長官をすげ替えるというやり方をしてきた。これはヒュームが言ったように「どんな明示的なルールも必ず暗黙のルール(コンベンション)の上にある」ということを考えなければならないでしょう。すなわち、コンベンションの前提の上で明示的ルールを決めていたときは、その前提を越える想定がされていない。
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