マル激!メールマガジン 2026年9月2日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マル激トーク・オン・ディマンド (第1325回)
9月1日問題、子どもたちのSOSを大人はどう受け止めるのか
ゲスト:内田良氏(名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 夏休みが終わり、新学期が始まる9月1日を挟んで、子どもの自殺が突出して増える。いわゆる「9月1日問題」だ。
 「夏休み明けが危ない」ということは、以前から現場では指摘されてきた。しかし、それはあくまで実感の域を出るものではなかった。それが誰の目にも明らかな事実として可視化されたのが2015年だった。過去約40年分の18歳以下の自殺を日別に集計したデータが公表され、9月1日に突出した山ができていることが白日の下に晒されたのだ。
しかも山は9月1日だけではなかった。ゴールデンウィーク明けにも春休み明けにも、休みが明けるたびに数字は跳ね上がっていた。学校に行くことがそれほどまでに子どもたちにとって過酷なものになっていることを、この統計は残酷なまでにはっきりと示していた。
 日本の自殺者数そのものは、2006年の自殺対策基本法の制定以降、相談窓口の整備やゲートキーパーの養成、生活困窮者支援や就労支援など、政府を挙げた対策が積み重ねられた結果、年間3万人を超えていた時期から減り続け、2025年にはついに統計開始以来初めて2万人を下回った。
ところが大人の自殺が減る一方で、子どもの自殺は増え続けている。小中高生の自殺者数は2024年が529人、2025年が538人と、2年連続で過去最多を更新した。しかも名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授の内田良氏が子どもの数の減少を加味して自殺率として計算し直してみると、実は1990年代からすでに子どもの自殺率の上昇は始まっていたことがわかったという。危機は30年前から始まっていたのだ。
 とりわけ深刻なのが女子の自殺者の増加だ。教育問題は概して男子の件数が多く、自殺もかつては男子が女子を大きく上回っていた。ところが近年、女子が男子を追い越している。2025年は女子280人に対して男子258人で、小中高のいずれでも女子が男子を上回った。しかし、それが何を意味するのかを分析するためのデータは十分に公開されておらず、研究者ですら手を出せない状態にあると内田氏は言う。
 警察庁の統計で自殺の原因を見ると、小中高生では「学校問題」が多くを占めている。ところがその内訳を見ると、われわれの予想を裏切って、いじめはごくわずかしかない。最も多いのは学業不振や進路の悩みだ。そして全体で圧倒的に多いのは「原因不詳」だった。にもかかわらず、メディアで語られる子どもの自殺はほとんどが「いじめ」と結びつけられている。
内田氏は、いじめも不登校も、まずは「わからない」ということから始めなければならないと語る。当の子ども自身が自分に何が起きているのかをわかっていないことが多いのに、大人の側が先回りして答えを決めてしまう。それこそが最大の問題なのだという。
 大人の側の見え方の歪みを浮き彫りにしたのが、不登校のきっかけについて、子ども本人と保護者と教員の三者にまったく同じ質問をぶつけた調査だった。当事者である子どもが平均7〜8個の項目にチェックを入れるのに対し、教員は2〜3個しか選ばない。そして最も差が大きかったのが「教員との関係」と「いじめ」で、教員はほとんどこれを選んでいなかった。
一方、学業不振については三者の回答はほぼ一致していた。つまり、自分に責任が及ばない原因だけが、大人にはよく見えているということだ。「何かあったらいつでも相談に来なさい」と言う大人のもとに、子どもがなかなか行けないのも当然だろう。
 不登校もコロナ以降増え続け、いまや35万人を超えた。これは小中学生のおよそ26人に1人にあたり、1クラスに1人以上が不登校という計算になる。しかもこれは学校からの報告に基づく数字であり、年間30日以上の欠席という「不登校」の定義からこぼれ落ちる子どもや、しんどさを抱えたまま登校を続ける「隠れ不登校」まで含めれば、実態はさらに大きいと見られる。
 そして、しばしば見落とされるのが家庭の問題だ。「学校がつらいなら家にいればいい」と言われるが、家が安全な場所だという前提そのものを疑う必要があると内田氏は言う。中学生に「自分が最も落ち着ける場所」、その保護者に「自分の子どもが最も落ち着ける場所」を尋ねた内田氏の調査では、保護者の93%が「家」と答えたのに対し、子どもでは74%にとどまり、「SNS」を挙げる子どももいた。しかも不登校になれば親子関係が悪化し、子どもは家にも居場所がなくなっていく。
さらに、子どもが学校に行かなくなった後に家庭が直面する困難、たとえば母親が仕事を辞めざるを得なくなるといった負担については、教育行政の調査対象にすらなっておらず、20年前から指摘され続けながら、いまだにブラックボックスのままだ。
 スマホとSNSの普及の時期が子どもの自殺率の上昇と重なっている点も気になる。大人にとってのSNSが会社の外に広がる「解放」として機能するのに対し、子どものSNSは学校の人間関係の中に閉じており、むしろ「閉鎖」として働く。SNSのせいで、物理的に学校から離れているはずの夏休みでさえ、24時間学校の中にいるような感覚から逃れられなくなる。
 アメリカではメタやTikTok、YouTubeなどを相手取り、無限スクロールやアルゴリズムによるフィードが青少年に依存的な行動を促す設計になっているとして訴訟が相次いでいる。今週も、メタが全米の州司法長官との間で今後10年で最大180億ドル、日本円にして約2兆9000億円を支払うことで合意したことが明らかになったばかりだ。自分で選んで見ているつもりの行動が、実はアーキテクチャによってあらかじめ方向づけられている。しかし日本では、この問題はほぼ野放しのままだ。
 日本の学校制度の構造も再検証する必要がある。そこでは固定されたクラスで、気が合うかどうかにかかわらず同じ顔ぶれと朝から晩まで席を並べて過ごすほかなく、そこから離脱する方法がない。保護者も教員も学校的な価値を内面化し、部活動の指導から生徒指導まで、あらゆるものを学校と教員が丸抱えする。その結果、教員の長時間労働は限界に達し、ついに教壇に立つ教員がいないという教師不足まで現実になっている。部活動の地域移行に反発が起きるのも、結局は部活でいい思いをしてきた大人が多数派だからだ。
 自殺対策は、どうしても「死ぬ理由」を取り除くことに向かう。しかし、かつてライフリンクの清水康之氏が本番組で語ったように、本当に必要なのは「生きる理由」を作ることだ。不安を取り除くだけでは人は生きられない。そして希望は、自分がワクワクした経験を持たない者には語れない。
 9月1日を前に、大人は子どもたちのSOSをどう受け止めるべきなのか。内田氏は、大人が自分一人で何とかしようと思わないことが大切だと語った。自分には受け止めきれないこともあることを認めた上で、世の中にはほかにもさまざまな人がいて、電話でもLINEでもさまざまな相談の方法があるということを子どもに示していく。教員も保護者も、しんどいことはしんどいと口に出し、大人と子どもという役割の仮面を外して同じ目線に降りていく。それこそが、今われわれが取るべき方向ではないかというのだ。
 データから見えてくる子どもの自殺と不登校の実像と、それを取り巻く学校と家庭の構造的な問題について、ゲストの内田良氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
※本番組はWHOの「自殺報道ガイドライン」を踏まえて制作しています。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
今週の論点
・子どもの自殺の多くは原因が分からない
・辛い時の逃げ道をいくつも子どもに伝えておくことが重要だ
・子どもの生きづらさとSNSの関係
・誰もが当事者になりうる不登校の問題
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

■ 子どもの自殺の多くは原因が分からない
神保: 今日は2026年8月28日の金曜日、第1325回のマル激です。夏休みが終わる最後の週末ということもあり、それに関連したテーマを選びました。今回は9月1日問題を真剣に考えたいと思っています。ゲストは名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授の内田良さんです。夏休みが終わり、学校が始まるのは9月1日前後に小中高校生の自殺者が顕著に増えます。それが9月1日問題と言われています。

内田: 自殺問題のご遺族とも接点がありますが、いろいろなところで夏休み明けは危ないという感覚はありました。しかし統計がありませんでした。ただ2015年に自殺対策白書で発表されたときは、9月1日の自殺者数は突出して増えていました。それまでは年間の数字しかなかったのですが、日別で発表されました。ゴールデンウィーク明けや春休み明けなど、休みが明けた時に増えるということがあり、学校に行くことの辛さは相当大きいだろうということが見えてきました。
感覚が数字になることで、これは緊急の課題だということが見えてきた統計です。本当は自殺の統計はいろいろな出しようがあるので、多くの分析が可能だと思います。

神保: これすらもつい最近までは分かっていなかったということですよね。おそらく現象自体は前から起きていたのでしょうが、これ自体が分かったのも最近だということです。今までも自殺者数が2万人を大きく超えるという問題があり、さまざまな施策が功を奏して自殺者数自体は減りました。1995年くらいには3万を超える時もありましたが、いろいろな対策をしてきたので40年ぶりに2万人くらいに減りました。それでも決して少ないとは思いませんが、その一方で子どもの自殺が増えてしまっているという問題があります。

内田: 子どもの自殺者数の推移は1980年からずっと出ています。2020年頃にそれまでの最高を超えたということで報道が始まりました。その後は過去最多水準を更新していて、子どもの自殺件数が増えているということは非常に重要なポイントです。

 2020年頃にそれまでの過去最多になりましたが、これは子どもの自殺者数なので率ではありません。子どもの数は減っているので、自殺率で出してみると、実は90年代頃からずっと上がっています。90年頃には率での過去最多を超えてしまっていて、それがずっと上がっています。コロナの時期に自殺者数が増えたことは間違いありませんが、それだけで説明することは難しく、90年代から率が増えているという意味では、30年近くの大きな課題だと思います。