マル激!メールマガジン 2026年7月1日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1316回)
意味不明な戦争の帰趨のカギを握るのはやっぱりイスラエル
ゲスト:鶴見太郎氏(東京大学教養学部准教授)
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 当初、3日で決着が付くはずだったアメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、当初の目的だったイランの体制転覆も実現しないまま、イランによるホルムズ海峡の封鎖によって世界経済を巻き込んだ大迷惑な戦争に発展した挙げ句、どうやらイランの全面勝利で終わることになりそうだ。
 もともと攻撃の意図や目的がはっきりしないまま始まった戦争だったが、石油の世界への出入り口となるホルムズ海峡をめぐる情勢に、世界中の株式市場は乱高下を繰り返した。そして開戦から約4カ月が経過した6月17日、アメリカとイランは戦闘終結に向けた14項目の覚書(MOU)に署名した。今回、停戦合意の覚書がアメリカとイランの大統領によって電子署名されたことで、とりあえず戦闘状態が終わり、一時的にはホルムズ海峡が開放されることが期待されている。
 しかし、停戦の覚書が発効した今も、予断を許さない状況が続いている。なぜならば、この戦争の真の主役であるイスラエルが、停戦の覚書に署名していないからだ。それどころか、イスラエル国内では主戦論が圧倒的多数を占め、イスラエルの意向を無視したまま中途半端な停戦に合意したアメリカやトランプ大統領に対しては、容赦のない批判や誹謗中傷がイスラエル国内のメディアから浴びせられている。もともと自身も主戦論者で強硬派のネタニヤフ首相率いる現政権が、このまま黙って引き下がるとはとても思えないのが実情だ。
 現にイスラエルはレバノン南部への駐留を継続する意思を明確にしている。ここでイランが支援する民兵組織のヒズボラとの戦闘が再び激化すれば、イランはアメリカとの停戦違反を理由に再びホルムズ海峡の閉鎖に踏み切る可能性がある。そうなると話はまったく元の木阿弥だ。
 そもそもアメリカがイランとの間で署名した14項目の覚書も、その内容はひどいものだ。アメリカはイスラエルによって必ずしも望んでいなかったイランとの戦争に引きずり込まれ、何とかそこから抜け出そうと今回の覚書を捻り出したわけだが、外交の専門家に言わせれば、これは戦争終結の文書として史上最悪の部類に入るもので、アメリカの完全なスコンク負けだという。
 この覚書でアメリカが得たものは、60日間の核交渉期限とその間の停戦、そして60日間はホルムズ海峡を無料で船を通すという約束だけだ。これに対してイランは、石油輸出の再開や凍結資産の解除、そして3000億ドルの復興資金まで獲得している。満額回答に近い。アメリカのトランプ政権としてはホルムズ海峡の封鎖によってガソリン価格が未曾有の1ガロン4ドル超にまで跳ね上がったまま11月の中間選挙に突入すれば、共和党の敗北は必至な情勢だ。
そうなるとトランプ政権は残る2年の任期を、ほとんどやりたいことが何もできないままレイムダック化してしまう可能性が大きい。トランプとしてはガソリン価格を下げて物価を落ち着かせるためには、どんな譲歩をしてでもホルムズ海峡を開けてもらう必要があったのだ。
 しかし、全面的にイランに有利なこの覚書を、イスラエルがのめるはずがない。これがそのまま実現してしまえば、イランの力が戦争前よりも強大化してしまい、イスラエルにとっては単に脅威が増すことになる。6月のヘブライ大学などの調査では、今回の覚書の内容について、92%が「イランの利益のほうが大きい」、83%が「イスラエルの安全保障が低下した」と答えるなど、イスラエルの市民はまったくこれに納得していない。
実はイスラエルも10月に総選挙を控え、このままでは連立与党は過半数割れに追い込まれネタニヤフ氏は首相の座を追われてしまう可能性が高い。もともと収賄の嫌疑がかかるネタニヤフ氏としては、首相の座を追われれば逮捕される可能性すらある以上、この選挙には負けられない。そんな国内的な事情からも、ネタニヤフ政権としても何があっても弱腰を見せられないのだ。
 今回のイラン攻撃は、世界経済を巻き込んだ割には、誰にとっても得るものがない不毛な戦争だった。唯一得るものがあった国があるとすれば、それはイランだ。今回の合意の結果、イランはより強大化し、ホルムズ海峡の封鎖の旨味も知ってしまった。そこに残るのは、戦争前よりも不安定な中東情勢だ。
 外交の素人が交渉に当たってきたトランプ政権がイスラエルによって無謀な戦争に引きずり込まれ、世界経済を大混乱に陥れた挙げ句、イラン側に全面的に譲歩することによってしかそこから抜け出すことができなくなってしまった。しかも、もはやイスラエルはアメリカの言うことを聞かない。と言うよりも、イスラエル国内の政治情勢がそれを許してくれない。
 この閉塞をどう打ち破ることができるのか。アメリカが調整役としての機能を完全に喪失した今、中東で手を汚していない日本や東アジアの国々にこそ、その役割を果たす余地があると、ユダヤの歴史が専門の鶴見太郎・東京大学教養学部准教授は語る。そして、エネルギー源を中東からの石油に9割以上依存している日本にとっては、中東情勢が安定することは、国家安全保障上の必須条件でもある。
 日本は長期的には中東産石油への依存度を下げ、化石燃料への依存度そのものを下げる努力を急ピッチで行う必要があるが、それが実現するまでの間も、中東の安定化のために自分たちにできることは何があるかを真剣に考えるべきではないか。この3月にイスラエルでの研究生活から帰国した東京大学の鶴見氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・事実上アメリカ全面降伏の停戦合意
・与野党ともに主戦的なイスラエル国会
・米イスラエル関係は悪化しているのか
・日本は中東における紛争の調停役になれるのか
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■ 事実上アメリカ全面降伏の停戦合意
神保: 今日のテーマはイスラエルです。イラン戦争をめぐっては、ホルムズ海峡しだいで株が上がったり下がったりといったことが現在進行形で起こっていますが、その中で不確定要素というには大きすぎる要素として「イスラエル」という変数があります。さらに言えば、あの戦争の本当の主役はイスラエルだったのではないのか。アメリカは外交下手であるがゆえに引っ張り込まれただけで、何とか抜け出すために例の14条の覚書に署名しました。
ただ外交の専門家から見るとこれは歴史上一番出来の悪い戦争終結の覚書ではないかと言われるほどで、アメリカのスコンク負けだという評価もあります。

宮台: 戦争のスタイルも占領統治による支配ではなく意思決定の支配を目指し、ピンポイント暗殺をAIによって行いました。ヨルダン川西岸地区やレバノンではずっとそれをやってきました。

神保: もちろんアメリカには地上軍を送って犠牲を出すような理由もありません。アメリカは11月に選挙があり、それまでに戦争を終結させなければアメリカの経済が戻らないので、タイムリミットだと判断してほぼ無条件降伏という形をとりました。交渉している人物はアメリカ側はウィトコフやクシュナー、イラン側はガリバフやアラグチです。外交のプロが見れば、世界中から叩かれながら何とか生き抜いてきたイラン側の手だれに対し、アメリカ側の不動産屋2人では、話にならないそうです。

 おそらくアメリカ国務省の中にはイランの歴史も分かっている専門家がまだいるはずですが、その人たちが政権の意向に反することを言えば、その瞬間に飛ばされたりクビになったりします。その結果、不動産屋が外交の専門家と交渉して出てきたものが、恥ずべき内容だったということです。

 14項目の覚書で停戦が決まりましたが、不思議なのはイスラエルが交渉当事者ではないということです。アメリカとイランの間だけで決めたので、イスラエルは相変わらずヒズボラへの攻撃を続けている。そのあたりのダイナミズムをもう少ししっかりと見なければなりません。今日はイスラエルの話をメインでしますが、さらにイスラエルとイランの話、イスラエルとアメリカの関係も扱いたいと思います。

 本日のゲストは東京大学教養学部准教授の鶴見太郎さんです。鶴見さんは今年3月までサバティカルで、イスラエルのハイファ大学で研究をされていました。2月28日はイスラエルにいたんですよね。

鶴見: はい。大学の寮にいました。特に最初の3日くらいは、数時間おきに空襲警報が鳴っていました。

神保: イスラエルを中心に中東を見ている鶴見さんからすると、総論として現状をどう理解していますか。一応アメリカとイランの間で覚書が署名されました。電子署名だったということですね。それ自体は有効ですが、隠れた主役であるはずのイスラエルはそこには入っていません。ただ今回の合意内容の中には「レバノンを含む全戦線で戦闘終結」というのも含まれています。レバノンで戦っているのはイスラエルなので、サインをしていないイスラエルも縛るような内容になっています。それも含めて、イスラエル国内は穏やかではないという話も聞きます。

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<フリップ>
アメリカとイランの戦闘終結に向けた覚書