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高野隆氏:人質司法における裁判官の責任を問うことの意味とは
2026/04/29(水) 20:00
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マル激!メールマガジン 2026年4月29日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1307回)
人質司法における裁判官の責任を問うことの意味とは
ゲスト:高野隆氏(弁護士、大川原化工機事件「裁判官の責任を問う訴訟」弁護団長)
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人質司法。被疑者が容疑を否認すれば容易には保釈を認めず、長期間身柄を拘束し続けることで自白や検察の描いたシナリオに沿った供述を引き出していく。世界に恥ずべき日本のこの異常な刑事司法慣行については、ビデオニュースでも繰り返し取り上げてきた。
国連の人権委員会からは「拷問」に当たるとして再三の改善勧告を受けてきたが、日本国内では今もこの慣行が当たり前のように続いている。
その人質司法をめぐって、これまでにない動きがあった。大川原化工機事件で勾留中に死亡した被疑者の遺族が、不当な身体拘束を決定した裁判官37人を実名で挙げて国家賠償を求める訴訟を提起したのだ。
長期勾留された元被疑者や元被告が、警察・検察の捜査が違法だったとして国家賠償を求める訴訟はこれまでも繰り返し提起されてきた。しかし、勾留令状の発付や保釈請求の却下を行った裁判官個人の責任を、判決ではなく身体拘束の判断について、しかも実名で問う国賠訴訟は、おそらく前代未聞である。
訴訟を起こしたのは、大川原化工機の元顧問・相嶋静夫氏の遺族だ。相嶋氏は勾留中に末期がんと診断されながら、なお身体拘束を解かれることなく勾留中の身のまま死亡した。遺族は4月6日、相嶋氏の保釈を認めず、あるいは勾留を継続する判断を下した裁判官37人を名指しで挙げ、国に対し約1億6800万円の損害賠償を求めて提訴した。
事件の発端は、2020年3月、警視庁公安部が大川原化工機の幹部3人を外為法違反の容疑で逮捕したことに遡る。同社が輸出した噴霧乾燥機が、生物兵器の製造に転用可能な軍事関連物資にあたるとして、無許可輸出の疑いがかけられた。
相嶋氏は勾留中に胃がんと診断されたが、保釈請求はことごとく却下された。最終的に勾留執行停止で入院が認められたものの、すでに手遅れだった。同時に逮捕された大川原正明社長と島田順司氏も相嶋氏と同じく容疑を全面的に否認し続けたため、その勾留は332日間に及んだ。
ところが、その後の調査で、この事件は警察が無理筋のストーリーを仕立て上げたものであることが明らかになる。検察は公判前に起訴を取り消すという、極めて異例の対応を取らざるを得なかった。
大川原化工機側が警察・検察の捜査の違法性を問うた国家賠償訴訟では、すでに国の責任が認められ賠償が確定している。しかし、事件のもう一方の当事者であるはずの令状を発付し、保釈請求を繰り返し却下した裁判官たちの責任は、これまで一度も問われてこなかった。
弁護団長の高野隆氏は、末期がんと診断された相嶋氏に対してすら「罪証隠滅のおそれ」を理由に7回も保釈請求を却下した裁判所の判断は、著しく不当だったと語る。
刑事訴訟法89条は、保釈請求があれば原則としてこれを認めなければならないと定めている。例外として保釈を却下できるのは、「罪証隠滅のおそれ」などが認められる場合に限られる。ところが実務では、被疑者が否認しているという一事をもって「罪証隠滅のおそれあり」と判断され、原則と例外が事実上逆転しているのが現実だ。
長期勾留は被疑者・被告人やその家族の生活、職業、社会活動に甚大な打撃を与えると同時に、無理矢理自白を引き出すための、いわば「検察の武器」として機能してきた。
ビデオニュースのインタビューに応じた元ベテラン裁判官の藤井敏明氏は、自身の経験を振り返りながら、裁判官は身体拘束が当事者に及ぼす負担や不利益を十分に認識しないまま「罪証隠滅のおそれ」を広く解釈し、安易に保釈請求を却下していると、自省を込めて語る。また藤井氏は、たとえ最終的に有罪判決が下されたとしても、判決確定前の長期勾留は終わりが見えないという意味で、刑の執行そのものよりも当事者に大きな負担を強いる場合があると指摘する。
今回、裁判官個人を被告とする国賠訴訟が起こされた意義はどこにあるのか。日本の裁判官はなぜこれほどまでに容易に保釈を認めないのか。相嶋静夫氏のような悲劇を繰り返さないために何が必要なのか。そして、裁判官の判断に対する責任追及はなぜこれほどまでに難しいのか。数々の著名な刑事事件を担当し、その多くで無罪判決を獲得してきた歴戦の刑事弁護士で、大川原化工機事件「裁判官の責任を問う訴訟」の弁護団長を務める高野隆氏とともに、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・「裁判官の責任を問う」前代未聞の訴訟が始まった
・日本の裁判官はなぜ容易に保釈を認めないのか
・広すぎる「罪証隠滅のおそれ」の解釈が保釈を阻んでいる
・裁判官が裁判官を裁くことは果たしてできるのか
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■ 「裁判官の責任を問う」前代未聞の訴訟が始まった
神保: これまで人質司法については何度もテーマにしてきましたが、変わりませんね。記者クラブ問題と人質司法問題は表裏一体の関係ですが、これらは本当に変わりません。
宮台: 変わっていないように見えても、それなりの積み上げにはなっているかと。
神保: どこかで堤防は決壊するはずなのですが。さて今回、刑事司法の問題の中で大きな動きがありました。長期勾留の問題で、どうしても怒りの矛先は厳しい取り調べをする警察や検察にいきますが、実は勾留を許しているのは裁判官です。令状がなければ逮捕すらできません。裁判官は吟味しているのか、また法律的にはどういう基準があり、それにきちんと従っているのかということは、これまで必ずしも検証されてきませんでした。今回はこれが大きく動くような裁判が行われました。
日本では、検察が起訴すれば99%以上が有罪になります。裁判官からすると、どうせ有罪になるのであれば、判決前の勾留期間は判決後の刑期に算入されるので、同じだと思ってサインしているという話も聞きました。
宮台: 推定無罪の原則は、「100人の罪人を放免するも1人の無辜の民を刑することなかれ」というものです。なぜそういう非対称的な原則があるのかというと、統治権力は一般市民と比べて圧倒的に多いリソースを持っているので、政治的あるいは何らかの組織内的な目的で一般市民を犠牲にするのは容易だからです。それを放置すると統治権力をいただくような社会秩序は、見かけはともかく、ズタボロに崩れていきます。
神保: 日本の今の色々なシステムがズタボロに崩れている要因の1つに、正義の貫徹ができない司法システムがあります。この社会は「出るところに出ればちゃんと正義が貫徹できる」と思って生きていて良いのかどうか。「社会は綺麗事じゃない」ということになれば、やはり色々な行動原理が変わってくるじゃないですか。そこが重要だと感じているので人質手法の問題をずっとやってきているのですが、この件で少し動くのであれば、僕らもやってきた甲斐があるのかなと思います。
その新しい動きとは何かも含め、見ていきたいと思います。刑事司法の話をするには適任の方をゲストにお呼びしました。弁護士で大川原化工機事件「裁判官の責任を問う訴訟」の弁護団長をつとめる高野隆さんです。
大川原化工機事件という世紀の冤罪事件で、相嶋静夫さんという当時顧問の方が勾留中に亡くなられました。不当な拘束を受けたということで、ご遺族が訴訟を起こしました。検察と警察に対してはすでに国家賠償訴訟をして勝っているのですが、今回は高野さんを弁護団長とした弁護団を組み、裁判官の責任を問うています。裁判官の責任や役割を考える良い機会だと思います。
今回の訴訟は、長く刑事弁護に関わっている高野さんにとってどういう意味を持つのでしょうか。
高野: 裁判で無罪が確定すると、冤罪の犠牲者たちが、捜査をした人たちや訴追した人たちの権力行使が違法だったとして国賠訴訟を起こすことはしばしばあります。しかしよく考えてみると、警察や検察は自分の意思で被疑者を逮捕することはできません。これは憲法にも書いてありますが、彼らは裁判官が令状を発行して初めて被疑者を逮捕し、取り調べることができます。
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