吉弘憲介氏、三木義一氏:なぜ「ふるさと納税」が国家の根幹に関わる大問題なのか
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マル激!メールマガジン 2022年12月7日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド(第1130回)
なぜ「ふるさと納税」が国家の根幹に関わる大問題なのか
ゲスト:吉弘憲介氏(桃山学院大学経済学部教授)
三木義一氏(青山学院大学名誉教授)
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年末商戦たけなわの師走。テレビではふるさと納税に関連したサービスのCMが盛んに流れている。
ふるさと納税は「ふるさと」の名を冠しているが、要するに自分が住む自治体とは別の自治体を好きに選び、そこに「納税」すると、ほぼそれと同額の住民税が免除されるというもの。しかも、多くの自治体が少しでも多くのふるさと納税を集めたいがために、返礼品と称する魅力的な商品のお返しをしてくれる。
利用者にしてみれば、自分が住む場所以外の自治体に「納税」すると、全体としての納税額は変わらないのに、肉だと魚だのといった各地の豪華な名産品が事実上ただで手に入る制度なので、これを利用しない手はない。
案の定、利用者は2008年の制度開始から年々増加の一途を辿り、その金額も2021年は8,302億円にのぼる。12月末が今年分のふるさと納税の締め切りとなるが、今年は総額が1兆円を越える勢いだそうだ。日本の年間防衛費が5兆円あまりであることを考えると、この金額がいかに莫大なものかがわかるだろう。
そのような制度が正式な国の制度として存在する以上、これを利用することには何の問題もない。また、そこから派生する様々なサービスが登場するのも当然のことだろう。さらに、自分が生まれ育った「ふるさと」や旅で訪れてファンになった地域などに、住民税の一部を回したいとの思いを持つのも自然な感情だ。しかし、その制度があまりにも堕落していて、しかも国家の根幹を揺るがしかねない重大な問題を孕んでいるとすれば、これを放置することはできない。
ふるさと納税が国の根幹を揺るがす大問題を孕んでいると指摘するのは、桃山学院大学経済学部の吉弘憲介教授だ。吉弘氏は、ふるさと納税が未来のために使うはずだった税金が返礼品に消えている制度であることを理解する必要があると語る。
当初は金額の制限がなかったふるさと納税の返礼品は、行き過ぎた返礼品競争に歯止めをかけるべく2019年から納税額の3割という上限が設けられ、一応は地域に縁の深い商品に限定されるというルールも設けられているが、とはいえ住民税の納税額が多い人ほど多くの返礼品を受け取る権利を有していることに変わりはない。
つまり、高額納税者=高所得者ほどこの制度のメリットを享受できる「垂直的不公平」という問題が内在しているのだ。本来、所得再分配の手段であるべき税が、この制度によって高所得者をより優遇する逆進性を伴っているということだ。
計算式はやや複雑になるが、ふるさと納税は概ね住民税額の約2割までの範囲で自由に金額を決められる。その範囲であれば、ふるさと納税を行う対象自治体の数にも制限はない。
これまで縁もゆかりもなかった自治体に納税しても、まったく問題はない。利用者はカタログショッピングやオンラインショッピングさながらに、いろいろな業者が発行している返礼品カタログを見ながら、欲しい商品を提供している自治体に上限額まで「納税」していけば、肉だの魚だのといった各地の名産品が次々と届けられる。返礼品には食べ物のほか、旅行券や食事券、宿泊券、宝飾品、家具、スポーツ用品などを提供している自治体もある。
しかも、ふるさと納税された「税金」は3割が返礼品に使われるほか、カラフルな返礼品カタログの作成やウエブサイトの運営などにも使われるため、実際は納められた税金の半分程度しか対象自治体の手元には残らない。
税制の権威で元政府税調の専門委員でもある三木義一・青山学院大学名誉教授は、税とは無償で出すことを通じて社会をよりよく運営していくために使われるもので、拠出することに具体的な見返りを期待する性質のものではないことが理解される必要があるという。総務省は、ふるさと納税の意義として「税に対する意識が高まり、自分ごととしてとらえる機会になる」ことを挙げているが、大半の人が見返りを目当てに利用しているふるさと納税は、むしろ税の基本的な考え方を歪めてしまっている。
そもそも「ふるさと納税」は、「税」の名が付いているが税金ではない。自分が住んでいるわけではない地域に住民税を納めさせることは、応益負担の原則に反するため法的に正当化することが困難だった。そのためふるさと納税は法律上は「寄付金」という位置づけになっている。自分が好きな自治体に寄付を行うと、それとほぼ同額の住民税が控除、つまり割り引かれるという建て付けになっているのだ。しかし、見返りを前提とする寄付は「寄付」の概念にも反する。
要するにふるさと納税というのは、呼称は「税」、法的には「寄付」扱いとなっているが、その実態は税でも寄付でもない、人口の多い都市部から人口の少ない地方の自治体への歳入移転の手段に他ならない。ただし、それを実現するために税の基本原則を歪めた上に、寄付額の約半分が返礼品と運営費に消えるという対価を伴う。
今やこの制度は740万人もの国民が利用しており、利用者数も年々増えている。それだけの人が既にそのメリットを享受しているため、これを批判したり問題点を指摘すると不人気となることが必至だ。これでは政治家もこの制度を廃止しろとは言いにくい。また、ふるさと納税を仲介したり、豪華返礼品を紹介するなどさまざまな派生サービスも立ち上がっており、テレビCMも盛んに流れているため、メディアが積極的にこの制度の問題点を指摘する動機は起きにくい。
そのため結果的に国が実施している公的な制度としては税の基本原則に反し、著しく運営効率も悪い邪悪な制度が、そのまま生き残るばかりか、その規模は年々膨らむ一方だ。
この制度の問題点を解消するためには、何をおいてもまず、返礼品制度を廃止するしかない。返礼品制度を廃止し、豪華返礼品目当てではなく、本当にふるさとを支援したいと考える人が、住民税の一部をそちらに回すことで、その分税金の控除を受けられる制度にすればいいだけのことだ。元々それが制度本来の趣旨でもあった。
しかし、ここまで制度が膨らんでしまった今となっては、言い出しっぺであり問題のある制度の導入を自らの政治力で強行した菅前首相自身がその口火を切るか、もしくはこのまま制度が膨脹を続け、国家の根幹を揺るがすほどの大問題にならない限り、この制度をあらためるのは困難かもしれない。しかし、できればそうなる前に何とかしたいではないか。
そもそもふるさと納税とはどんな制度でどんな問題を孕んでいるのか、またそれが現実にはどのように運営されているのかなどを、ふるさと納税の問題点を積極的に発信している数少ない財政と税の専門家である桃山学院大学経済学部教授の吉弘憲介氏と、暴漢に襲われ現在入院中の宮台真司のピンチヒッター役を務める税の権威で青山学院大学名誉教授で弁護士の三木義一氏、ジャーナリストの神保哲生が議論した。
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今週の論点
・ふるさと納税の現実
・豪華な返礼品を負担しているのは誰なのか
・間違いだらけのふるさと納税から抜け出すには
・納めることに皆が同意できるような税のシステムを作るために
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■ ふるさと納税の現実
神保: こんにちは。今日は2022年12月1日木曜日です。マル激のスタートとしてはちょっと寂しい感じですが、私のワンショットから番組が始まります。マル激の視聴者の方は皆さんもうご存知かと思いますが、二日前、11月29日に私と一緒に21年間司会を務めてきている宮台真司さんが大学で暴漢に遭って切りつけられるという考えられないような事件がありまして、事件の詳細については私もTwitterで発信していますが、そのせいで今度の土曜日のマル激の公開収録が延期になりました。それについてはビデオでみなさまに謝罪及びご報告を昨日したところです。
とはいえ、世の中もどんどん進んでいて、悪いことが色々起きている最中に宮台さんにはとにかく早く治ってもらうしかありませんが、さすがの宮台真司もあれだけ全身を傷つけられたら、少なくとも一、二週間くらいは大人しくしていた方がいいだろうということで、ただ昨日のビデオでも言いましたが、いっぱい切られて痛いはまだ痛いんじゃないかと思いますが、本当に致命傷ではなかった。
まず命に別状がない、そればかりか神経や太い血管、内臓など、後遺症が残るような傷口が、あれだけ深く切られた割には不思議と一つもなくて、私が病院に駆けつけてお医者さんの説明を聞いた時に、そういうのが奇跡的に全くなかったのは本当に良かったと言っていました。
ですから意外と早く戻ってくるんじゃないかと思います。じっとしていられる男でもないのですが、少なくとも今週来週ぐらいは宮台さんのいないシフトで、しかし番組の方はしっかりと行ってきたいと思います。宮台節は出ないかもしれませんが、今日は別の形で十分に価値のある番組をお届けしたいと思います。
今日のテーマは、もともと宮台さんとやろうと思っていたのですが、「ふるさと納税」です。ふるさと納税は、真面目に考えないと日本を滅ぼしかねない重大な問題をはらんでいるということをきちんとやりたくて、12月末が今年の締め切りだということもあり、はやめにやろうということで番組を企画しました。もうふるさと納税をやってしまったという人はしょうがないですし、やることを止めはしませんが、やるからには、どういうことになっているのかを一応分かった上での方がいいのではないかなと思います。
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