マル激!メールマガジン 2020年12月23日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1028回)
日本のコロナ対策論議に根本的に欠けているもの
ゲスト:米村滋人氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授・内科医)
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欧米諸国で新型コロナウイルス感染症が猛威を奮うのをよそ目に、日本では中国や韓国などとともに過去半年の間、世界中が羨み不思議がるほどコロナ感染症の流行が抑えられていた。特に日本がこれといった対策を打っているわけではないにもかかわらず、感染者数はアメリカの100分の1、人口あたりで見てもアメリカやフランスの30分の1から50分の1程度しかコロナの感染は広がらなかった。東アジアの諸国でコロナの感染者数が極端に低く抑えられている理由はわからないが、何らかの理由で感染が抑えられているという意味で、科学者たちでさえ「ファクターX」などというミステリアスな表現を使わざるを得なくなっているようだ。
しかし、である。理由は定かでないものの、そのような幸運、いや天運に恵まれながら、その間、日本は一体何をしてきたのだろうかと思わずにはいられない。11月に入り日本でも都市部を中心にコロナの感染者数が増加に転じ始めた。すると、感染者数でも重症者や死者の数でも、半年前のピーク時とさほど変わらないレベルであるにもかかわらず、早くも医療逼迫や医療崩壊の危機が騒がれる事態となっているではないか。欧米の100分の1程度の感染者数で医療が逼迫してしまうほど日本の医療体制が脆弱なのだとすると、もしファクターXの効力が切れ、日本でも今の欧米並の感染爆発が起きたら、日本は一体どうなってしまうのだろうか。
医師でありまた法学者でもある東京大学法科大学院の米村滋人教授は、医療の逼迫を理由に大規模な行動制限措置を導入することには否定的だ。なぜならば、日本の医療逼迫の最大の原因は、日本の医療体制とそれを巡る法制度に問題があるからであり、医療体制が問題を抱えたまま単に行動制限を導入しても、国民に大いなる負担や辛苦を強いる一方で、根本的な問題は何も解決されないからだ。要するに問題の本質に手を付けなければ、単に国民の苦労と時間の浪費が繰り返されることになる可能性が大きいのだ。
実は日本は人口当たりの病床数が群を抜いて世界で一番多い国だ。だから、本来その日本で、この程度の感染者が出ただけで医療が逼迫するなどあり得ないことのはずだ。しかし、病床数は多いが、ICUの数では狭義に定義したICUでは日本はドイツやアメリカの5分の1以下、早晩医療が崩壊してコロナの感染爆発が起きたイタリアよりも少ない。広義に定義したICUを含めても、日本のICUの数は世界の中で決して多い方ではない。
平時には潤沢すぎるほど病床数を抱える日本は、感染症の爆発などが起きた有事には、通常の病床をICUに転換する必要が出てくる。しかし、現在の医療法では都道府県は医療機関に対して病床の転換やICUの設置、感染症患者の受け入れなどをお願いすることしかできないのだと米村氏は指摘する。しかも、日本は欧米と比べると公立の医療機関よりも民間の医療機関が圧倒的に多いため、コロナ患者を受け入れることで従来の患者を失い、結果的に経営が圧迫される可能性がある民間の医療機関は、政府からお願いをされてもコロナ患者を受け入れようとはしないのだと米村氏は言う。
医療機関が政府の介入を嫌う理由はわからなくはない。病床の転換のような、ある程度の専門性を要する判断は専門家に任せて欲しいという主張もあり得るだろう。また日本では日本医師会のような政治力のある団体が政府や自民党と伝統的に強い結びつきを持ち、影響力を行使しているのも恐らく事実だろう。しかし、アメリカの100分の1の感染者数で世界一の病床数を誇る日本の医療が崩壊の淵に瀕しているとすれば、今後アメリカの半分、いや10分の1の感染者が出た時に日本でどんな悲劇が起きるかは、想像に難くないはずだ。
ギリギリまでGOTOなどで国民の人気を取っておいて、最後は自粛要請で国民に負担を押しつけるようなことを繰り返すのではなく、手遅れになる前にそろそろ本気で制度面や法律面での体制作りにとりかかるべきではないだろうか。
今週は現役の医師にして法学者でもある米村氏と、これまでの日本のコロナ論議で抜け落ちている重要なポイントを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・病床数世界一/感染者数も少ないのに医療が逼迫する理由
・日本独自の医療文化と法制度が医療崩壊を招く
・全体状況を把握できていない専門家会議に丸投げの対策
・コロナ禍での学びを先に活かすために
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■病床数世界一/感染者数も少ないのに医療が逼迫する理由
神保: ここにきて日本の基準で見るとコロナの感染者が急増しており、大きな問題になっています。そのなかで、コロナを論じる上で本当はとっくに考えていなければならない、重大な問題がまだ手付かずになっているのではないか、というのが今回のテーマを決める上での問題意識でした。
というのも、仮にコロナが1〜2年で収束しても、新しい感染症が出てくるサイクルはどんどん加速しており、「まったく元の世界に戻れる」というのは明らかに根拠のない楽観論であって。本当は平時に考えておかなければならないことを今回、しっかりやっていきたいと思います。
ゲストは内科医で東京大学大学院法学政治学研究科教授の米村滋人さんです。医学部在学中に司法試験合格、というのは、それだけに集中している人には怒りを買いそうですね(笑)。
米村: よく言われます。
神保: いずれにしても、法学者と医者の二足の草鞋を続けられていて、いまも東京都の健康長寿医療センターというところで、週1回、お医者さんをやっていると。
宮台: 面白いですね。個人的に色々伺いたいことがたくさんあります。
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