マル激!メールマガジン 2020年9月16日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第1014回(2020年9月12日)
安倍政権の検証(2) 結局アベノミクスとは何だったのか
ゲスト:Part1 熊野英生氏(第一生命経済研究所首席エコノミスト)
Part2 小幡績氏(慶應義塾大学ビジネススクール准教授)
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7年8ヶ月の長きに渡り政権を担った安倍内閣の政策と、その下で日本がどう変わったのかを検証する安倍政権の検証シリーズ第二弾。今回は第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏と、慶應義塾大学ビジネススクール准教授の小幡績氏の気鋭のゲストを迎え、前半、後半の二部構成でアベノミクスに代表される安倍政権の経済政策に注目した。
次期首相就任が有力視される菅義偉官房長官は、特に経済政策面ではアベノミクスを継承する意思を明確に示している。しかし、そこでいうアベノミクスとは何を指しているのか、その中身については必ずしも明確ではない。
当初、アベノミクスとは①大胆な金融緩和と②思い切った財政出動と③産業構造改革の「3本の矢」を柱とする経済政策だと説明されてきた。特に重要な鍵が3番目の産業構造改革にあり、それを可能にするためにある程度の後遺症は覚悟の上で①と②を大胆に実行していくという話だった。
ところが、そもそも財界や数々の既得権益層に手厚く支えられた自民党の中でも、とりわけ財界との関係が深い安倍政権が、既得権益産業にとって痛みの伴う構造改革を本気でできると考えることには、元々無理があった。 第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、アベノミクスなる政策は政権発足から2~3年の間は存在したが、その後は言葉だけが独り歩きする中、①と②だけがエンドレスで繰り返され、実際は2本の矢だけの片肺飛行になっていたと指摘する。
とはいえ、安倍政権の経済政策を評価する人は多い。実際、戦後最長の景気拡大期などと囃され、株価も日経平均が民主党政権時代の8000円台から2万円を超えるところまで回復。ドル円相場も民主党政権下の79.4円から110円前後まで円高を是正したことで、多くの輸出関連企業が恩恵を受けた。500万の新たな雇用が生まれ、完全失業率も2ポイント下がるなど、安倍政権が少なくとも表面的には「結果」を残してきたことは紛れもない事実だ。
しかし、慶應義塾大学ビジネススクールの小幡績准教授は、安倍政権は経済政策に成功しているかのように見せることには成功したかもしれないが、決してその経済政策の内実は成功とは言えないと、厳しい評価を下す。その理由として小幡氏は、そもそも産業構造改革などをまともに実行できた政権は小泉政権を含め過去に一つもないのだから、それができなかったという理由で安倍政権の経済政策を失敗呼ばわりする必要はないし、財政出動についても、バラマキの規模そのものは当初小幡氏が予想したほどのものではなかったと指摘した上で、第1の矢が最大の問題だったと言う。
アベノミクスの名の下で日銀が取り返しがつかないレベルまで金融緩和を行ってしまったことが、安倍政権の経済政策の中でも最大にして最悪の失敗だったと小幡氏は言う。金融緩和による景気浮揚というのは早い話が将来への付け回しに他ならない。しかも、日銀の金融緩和は出口のない袋小路に入り込んでおり、誰が首相になろうが、あるいは誰が日銀総裁になろうが、もはややめたくてもやめることができない状態にあると小幡氏はいう。
つまり現時点でどれだけ雇用が生まれたとか、株価がどれだけ回復したとか言っても、それは「金融バブル」のなせる技に過ぎないため、あまり意味を持たない。バブルはそう遠くない将来、何らその恩恵を受けることのなかった一般の市民を大量に巻き込んで、必ず弾ける宿命にある。その時にアベノミクスや安倍政権の経済政策の真の評価がなされることになるというのが小幡氏の見立てだ。
来週には8年近くも続いた一つの内閣が終わり、新しい内閣が発足する。しかし、その政策論争は今日(9月12日)の日本記者クラブの討論会を見ても、いたって低調といわざるを得ない。後に振り返った時、あの時、日本は多くの問題を抱えていた経済政策を思い切って転換する千載一遇のチャンスをみすみす逃してしまったなどということにならないためにも、この機会に安倍政権の政策の点検はしっかりと行う必要があるだろう。
熊野氏と小幡氏に、7年8ヶ月の安倍政権の経済政策の評価と今後の課題について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。
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今週の論点
・三本目の矢は放たれず、金融緩和が自己目的化したアベノミクス
・ビジョンのない菅政権には期待できず 日本が浮上する可能性は
・三本目の矢は誰も成功したことがなく「言ってみただけ」
・日銀が株を買い続ける異常 「スガノミクス」の行方は
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■三本目の矢は放たれず、金融緩和が自己目的化したアベノミクス
神保: 安倍首相の突然の辞任で、現在は自民党総裁選の真っ只中です。在任期間としては7年8ヶ月と、なんと言っても最長ですから、きちんと検証しなければなりません。今回はアベノミクスをテーマに議論しますが、安倍政権の前半ではそれなりに取り上げていたものの、後半のほうではどこかにいってしまったようなところがありましたね。
宮台: 安倍がどこかに飛ばしてしまったんです。基本的にカンフル剤としての金融政策、そして財政政策、要するに金融緩和財政出動であり、その後、これをベースにした産業構造改革など、僕らはできるわけがないと思っていました。東日本大震災後の電力の系統性に関する自由化さえめちゃくちゃ遅れていましたから。マル激でもずっと話してきたように、日本の生産性が低いのは残業などの問題より、基本的に天下り問題に象徴されるような構造にあり、日本全国どこを切っても金太郎飴の電通の顔、あるいは安倍の顔で、これでは残念ですが生産性を上げようがありません。
神保: 非効率の産業がそのまま生き延びているということですね。もうさまざまな指標で、OECDのなかでは下を見てもメキシコしかいないような状況です。
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