マル激!メールマガジン 2019年6月19日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第949回(2019年6月15日)
人はなぜ虚偽の自白をしてしまうのか
ゲスト:村山満明氏(大阪経済大学人間科学部教授・臨床心理士)
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過去の冤罪事件ではほぼ例外なく、被告人による虚偽の自白がある。客観的な証拠がなかったり、供述に不合理な点が多々あったとしても、被告人が犯行を自白していると大抵の場合、裁判所は被告を有罪にしてしまう。問題は、なぜやってもいない犯罪を自白してしまうような事例が後を絶たないのかということだ。
1995年に大阪市東住吉区で起きた放火殺人事件も、直接証拠がないため被告人の捜査段階の虚偽の自白が決め手となった、典型的な冤罪事件だった。この事件は1995年7月、大阪市東住吉区の住宅で火災が起き、青木めぐみさん(当時11歳)が焼死した原因が、両親による保険金目的の放火にあったとして、実母の青木恵子さんとその内縁の夫・朴龍晧(ぼくたつひろ)さんが放火殺人の容疑で逮捕されたというもの。99年に大阪地裁は検察の求刑通り二人に無期懲役の判決を言い渡し、2006年には最高裁で刑が確定していたが、その後、弁護団による実証実験によって自白通りに放火することが不可能だったことが明らかになり、12年に再審が決定。15年に2人は釈放され16年に無罪が確定した。
結果的に火事で自分の娘を亡くした夫婦がやってもいない殺人の罪に問われ、20年もの間、自由を奪われるという冤罪事件だった。犯行を裏付ける直接証拠がなかったこの事件では、公判で両人ともに無罪を主張したが、実行犯とされた朴さんの捜査段階の自白が最後までついて回り、それが有罪の決め手となった。
法心理学が専門で臨床心理士の資格を持つ大阪経済大学人間科学部の村山満明教授は、この事件の控訴審で被告人だった青木恵子さんの精神鑑定を担当し、なぜ彼女が取り調べ段階で虚偽の自白をしてしまったのかに関する鑑定書を提出している。
村山氏によると、被告人の2人が虚偽の自白をしてしまった背景には、ご多分に漏れず、警察による高圧的で時には暴力的な長時間の取り調べがあったことは間違いないが、同時に、身内や友人の嘘の証言を使って被告人の孤立感を高めたり、被告人の容疑が科学的な実験で裏付けられているかのようなデータを示したり、切り違え尋問を巧みに利用するなど、被告人を心理的に追い詰めて虚偽の自白に追い込むための様々な心理的な圧力が加えられるなど、「違法な取り調べのオンパレード」だったという。
法心理学者の立場から村山氏は、日本の司法は自白に対する基本的なルールを定めた「心理学的準則」を設ける必要があると語る。その内容は、不可解な行動の意味を一方的に犯行に結びつけない、自白が強要されたり、精神的に追い込まれた結果の自白もあり得る以上、自白の内容が具体的で詳細だというだけで信用できると考えるべきではないこと、一度有罪と受け止めてしまうと、それに反する情報をシャットアウトしてしまう「認知バイアス」により自覚的でなければならないなど、とても具体的だ。特に裁判所が「自白によって描かれた事件の全容と、犯行に関する自白内容が矛盾していないから、自白は信用できる」とする、小学生でもわかるようなトートロジーで自白の信用性を認めていることについては、再考の必要があるとしてこれを厳しく批判する。
東住吉放火殺人事件の他、広島港フェリー甲板長事件や尼崎事件などで被告人の精神鑑定を担当した村山氏と、人が虚偽の自白をしてしまう理由と、それ基づく冤罪事件をいかにして防ぐかなどについて、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・東住吉冤罪事件に見る、異常な取り調べの実態
・なぜ虚偽の自白が行なわれたのか
・度重なる違法な取り調べと、裁判官に求められる資質
・われわれに求められる、取り調べや裁判に対するリテラシー
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■東住吉冤罪事件に見る、異常な取り調べの実態
神保: 今回は残念ながら明るい話になるはずのない、「司法」というテーマです。これまでは王道の制度論について議論することが多かったのですが、今回は虚偽自白について、心理学的なアプローチをしたいと思います。
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