マル激!メールマガジン 2018年6月20日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第897回(2018年6月16日)
朝鮮半島統一の可能性と日本の地政学的課題
ゲスト:木宮正史氏(東京大学大学院教授)
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 米朝首脳による歴史的な会談が実現した。
北朝鮮の核・ミサイル開発をきっかけに、一時は「斬首作戦」だの「鼻血作戦」だのといった物騒な話が飛び交い、一触即発の事態にまでエスカレートしていた両国の関係が、ひとまずこれで沈静化することは間違いなさそうだ。
 首脳会談に続いて両首脳が署名した共同声明については、具体性に欠けた曖昧な表現が多いなどの厳しい評価も聞かれる。また、北朝鮮があれだけ苦労して獲得した核兵器を簡単に手放すはずがないとの指摘も根強い。しかし、その一方で、北朝鮮の一連の外交攻勢は明らかに過去のものとは一線を画しており、金正恩が核の放棄と引き換えに北朝鮮の経済発展を真剣に考えているのではないかと指摘する識者も多い。
 朝鮮半島情勢が専門の木宮正史・東京大学大学院教授は、金正恩は核を持ち続けることで国際社会から経済制裁を受け、このまま極貧な状態を続けるか、核を放棄することで経済発展を実現するかの二者択一の中で、後者を真剣に考えている可能性が高いとの見方を示す。北朝鮮は一貫して朝鮮半島の統一を訴え続けているが、20倍を超える現在の北朝鮮と韓国の経済格差がある限り、仮に統一が実現することになっても、北朝鮮主導の統一など望むべくもないことを、金正恩はよく理解できていると思われるからだ。
 ことごとく国際合意を反故にしてきた北朝鮮のこれまでの実績を見る限り楽観論は禁物だが、もし北朝鮮が本気で核の放棄に乗り出し、その引き換えに経済発展に舵を切った場合、直ちに統一国家の出現にまでは至らないとしても、東アジアの地政学的バランスは大きな影響を受けることになるだろう。
 これまで外交的にはアメリカ一辺倒で来た日本にとっても、人口7600万人(北朝鮮が2500万人、韓国が5100万人)を抱え、インフラを含めあらゆる面で開発が遅れている新たな隣国が出現することの影響は大きい。
 また、会談後の記者会見でトランプ大統領は、コストを理由に米韓軍事演習の中止にまで踏み込んでいる。今後、在韓米軍の縮小や撤退が議論されることになる可能性も出てきたが、そういうことになれば、在日米軍のあり方や日本の安全保障体制への影響も必至だ。
 首脳会談の実現によって、朝鮮戦争以来60年以上続く米朝の敵対関係の解消、ひいては朝鮮半島の統一の可能性は見えてきたのか。それは日本にとってどのような意味を持つのか。米朝首脳会談の和解ムードが東アジアにもたらす長期的な影響について、木宮氏にジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。

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今週の論点
・米朝共同声明を読み解く
・オバマでは実現しなかった米朝首脳会談、吉と出るか凶と出るか
・朝鮮半島の優位は、なぜ北朝鮮から韓国へ移ったか
・日本が朝鮮半島に持つ多くのカードを生かせるか
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■米朝共同声明を読み解く

神保: 先週お休みをいただきまして、ドイツに取材に行ってきました。ベルリンとミュンヘンにいたのですが、ベルリンは思えば冷戦で分断されていた街で、旧東側はいまでも、さまざまな問題を抱えていたりします。そして、最後に残った分断国家が朝鮮半島です。
6月12日、米朝の首脳会談が行われました。トランプと金正恩のワンマンショーのような感じではありましたが、宮台さんはどうご覧になりましたか。メディアも朝からずっと生中継でしたが。

宮台: 日本のメディアは「具体的な成果がなかった」「共同声明は空疎だった」と報じましたが、重要なことは、コミュニケーションは未来を切り開く、あるいは未来に転がすためのきっかけだということです。コミュニケーションが止まらないようにするのがコミュニケーションだ、と考えると、今後にいくつかの選択肢、可能性を開いているという意味で、明らかに意義があります。声明文だけを見てどうこう言っている人たちは、ちょっと困った人たちだな、という気がしました。