マル激!メールマガジン 2017年12月20日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第871回(2017年12月16日)
東京五輪を持続可能な大会にするために
ゲスト:花岡和佳男氏(シーフードレガシー代表)
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オリンピック・パラリンピックが単なるスポーツの祭典だと思っていたら大間違いだ。
確かに、世界最高のアスリートたちが競い合うオリンピックやパラリンピック(以下東京2020)は、スポーツイベントとしても世界中の人々を魅了するに十分なものがある。しかし、オリンピック憲章はその第1章で、「スポーツ」、「文化」と並び「環境」を「オリンピック・ムーブメント」の3つの柱の一つに据えている。
東京2020が世界から成功した大会として認められるためには、ロンドン大会以来守られてきた環境基準、とりわけ持続可能な資源調達の基準を守り、より高い水準に高めていくことが不可欠となる。ところが日本では、毎日のように五輪ネタがメディアを賑わせている割には、3本柱の一つである「環境」がとんと話題にのぼらない。
五輪の持続可能性は4つの分野における資源の調達基準という形で評価を受ける。「水産物」と「農産物」、「畜産物」、「木材」の4分野だ。それに加えて紙とパーム油の2分野でも現在調達基準策定のための検討が進んでいるという。具体的には東京2020の組織委員会が各分野で調達の基準を定めた「調達コード」というものを策定し、そのルールに則って大会で使われる資源の調達が行なわれる。その基準を満たしていない事業者や物資は、東京2020で使うことができないことになる。
4分野の一つ「水産物」で積極的な働きかけを行っているシーフードレガシー代表の花岡和佳男氏は、東京2020の大会組織委員会が定めた「持続可能性に配慮した水産物の調達基準」は、FAO(国連食糧農業機関)のガイドラインに準拠しない日本独自の認証方式(エコラベル)が認められたり、トレーサビリティの追求が甘かったりするなど、ロンドンやリオ大会が培ってきた国際基準から大きく後退していると残念がる。
東京2020は日頃、国内の様々な利害関係によってなかなか進展しなかった各分野での持続性や環境基準などを一気に前に進める絶好の機会となるはずだ。残念ながら、こと水産物については、日本が2020年までに国際基準を一気に満たすのは難しそうだが、五輪を機にその方向に向けて大きな一歩を踏み出すことができれば、東京2020は「成功」だったと世界に胸を張って言えるのではないか。
オリンピック・パラリンピックという世界最大のイベントを、様々な障害にぶつかりなかなか自力だけでは進まない改革を前進させる奇貨とするために、今われわれがやらなければならないこと、考えなければならないことは何なのか。花岡氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・五輪開催で突きつけられる、日本のサステナビリティへの取り組みの弱さ
・オリンピックレガシーは、東京で途切れてしまうのか
・日本人が持続可能性についてインセンティブを持てない理由
・「損得」の枠組みで、インフルエンサーにより呼びかけを
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■五輪開催で突きつけられる、日本のサステナビリティへの取り組みの弱さ
神保: 今回はオリンピックとサステナビリティの問題を取り上げます。商業主義の話とか、ドーピングの話とか、何度か取り上げましたが、今日のテーマはもしかしたら一番大事かもしれないのに、資料を探すのがけっこう大変だったんです。要するに、NPOやNGOを訪ねれば多くの資料があるのに、主要なメディアがほとんど扱っていない。事前に宮台さんにはお話ししましたが、最初に聞いたとき、どう思いましたか?
宮台: 僕は当初から「東京クソリンピック」って言っていました。都市開発の基本理念を示すチャンスであることは事実なのだけれど、「スモールサイズでグリーンなものに」という議論は途中からまったく消えて、あっと言う間にどでかい新国立競技場など、土木利権のような話にシフトしてしまいました。
神保: 予算もどんどん膨らんでいる。
宮台: だからこんなオリンピックには興味がないどころか、多くの人は巻き込まれない方がいいというふうにずっと言ってきています。
神保: エコノミストのアンドリュー・ジンバリストが書いた『オリンピック経済幻想論』という本があるのですが、この手のものをAmazonで探しても極端に少ない。ましてや環境の話というのは、少なくとも日本ではほとんど本になっていません。この本では要するに、オリンピックにはさまざまなメリットがあると、ある種、神話化していますが、学術的にはほとんど根拠のないものばかりで、ろくなことがないということを言っている。そんななかで、僕らは前に「確かにろくなことがないが、バリアフリー化に進むチャンスだ」という議論をしました(2016年10月8日・第809回「2020年は東京が世界一のバリアフリー都市になるチャンスだ」)。このサステナビリティ問題も同様に、“クソリンピック”のなかで残せるかもしれない、いいもののひとつであり、世界最大のイベントで世界に対して規範を示せるものです。それなのに、報道がない。メディアからすれば、いまさら細かいことで批判してオリンピックコミュニティを敵に回したくないんです。いい時間に放映したいし、選手にも出演してほしい。そして、何よりもみんなでお祭り騒ぎをしているときに水を差すことをしたくないと。そうであるなら、マル激でやらなければいけないと思ったのですが、宮台さん、サステナビリティについて最初に一言あれば。
宮台: 国内外の視線の違いに敏感である必要があります。国内的には損得から考えて黙っておくのがいいとしても、全体として国辱的なイメージを持たれてしまうようなことになると、元も子もない。公共的な関心という観点から言えば、物を言わなければダメです。どういうオリンピックにしなければいけない、という規範を示さないと。
神保: 最初にこれだけ紹介しておきましょう。オリンピックは1990年以降、「オリンピック・ムーブメント」に「スポーツ」と「文化」と同時に、「環境」を三本柱のなかに入れました。
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