マル激!メールマガジン 2017年6月21日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第845回(2017年6月17日)
何をやっても安倍政権の支持率が下がらない理由
ゲスト:西田亮介氏(東京工業大学准教授)
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 何をやっても安倍政権の支持率が下がらないのはなぜなのだろうか。
 濫用の危険性を孕んだ共謀罪法案を強行採決したかと思えば、「存在が確認できない」として頑なに再調査を拒んでいた「総理のご意向」文書も、一転して「あった」へと素早い変わり身を見せたまま逃げ切りを図ろうとするなど、かなり強引な政権運営が続く安倍政権。ところがこの政権が、既に秘密保護法、安保法制、武器輸出三原則の緩和等々、政権がいくつ飛んでもおかしくないような国民の間に根強い反対がある難しい政策課題を次々とクリアし、その支持率は常に50%前後の高値安定を続けている。
 政治とメディアの関係に詳しい社会学者で東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授の西田亮介氏は、安倍政権の安定した支持率の背景には自民党の企業型広報戦略の成功と日本社会に横たわる世代間の認識ギャップの2つの側面が存在すると指摘する。
 第二次安倍政権がマスメディアに対して度々介入する姿勢を見せてきたことは、この番組でも何度か問題にしてきたが、それは自民党の新しい広報戦略に基づくメディア対策を着実に実行しているに過ぎないと西田氏は語る。
 支持率の長期低落傾向に危機感を抱いた自民党は、1990年代末頃から企業型のマーケッティングやパブリック・リレーションズ(PR)のノウハウを取り入れた企業型広報戦略の導入を進め、2000年代に入ると、その対象をマスメディアやインターネット対策にまで拡大させてきた。特にマスメディア対策は、個々の記者との長期の信頼関係をベースとする従来の「慣れ親しみ」戦略と訣別し、徐々に「対立とコントロール」を基軸とする新たな強面(こわもて)戦略へと移行してきた。その集大成が2012年の第二次安倍政権の発足とともに始まった、対決的なメディアとは対立し、すり寄ってくるメディアにはご褒美を与えるアメとムチのメディア対策だった。
 マスメディアの影響力が相対的に低下する一方で、若年世代はネット、とりわけSNSから情報を得る機会が増えているが、自民党の企業型広報戦略はネット対策も網羅している。西田氏によると、自民党は「T2ルーム」と呼ばれる、ネット対策チームを党内に発足させ、ツイッターの監視や候補者のSNSアカウントの監視、2ちゃんねるの監視などを継続的に行うなどのネット対策も継続的に行っているという。
 また、安倍政権の安定した高支持率を支えるもう一つの要素として、西田氏は世代間の認識ギャップの存在を指摘する。自身が34歳の西田氏は、若者ほど政権政党や保守政治に反発することをディフォルトと考えるのは「昭和的な発想」であり、今の若者はそのような昭和的な価値観に違和感を覚えている人が多いという。マスメディアは新たな戦略を手にした政治に対抗できていないし、若者も経済や雇用政策などへの関心が、かつて重視してきた平和や人権といった理念よりも優先するようになっている。
 そうなれば、確かにやり方には強引なところはあるし、格差の拡大も気にはなるが、それでも明確な経済政策を掲げ、ある程度好景気を維持してくれている安倍政権は概ね支持すべき政権となるのは当然のことかもしれない。少なくとも人権や安全保障政策では強い主張を持ちながら、経済政策に不安を抱える他の勢力よりも安倍政権の方がはるかにましということになるのは自然なことなのかもしれない。
 しかし、これはまた、政治に対する従来のチェック機能が働かなくなっていることも意味している。少なくとも、安倍政権に不満を持つ人の割合がより多い年長世代が、頭ごなしの政権批判を繰り返すだけでは状況は変わりそうにない。
 安倍一強の背景を広報戦略と世代間ギャップの観点から、西田氏とジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・2000年代はメディアと政治の「移行と試行錯誤の時代」だった
・加計学園問題に見る、メディアの凋落
・ネット戦略を司る「自民党本部T2ルーム」の実態とは
・ロジック、実利で動員を図るということ
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