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【東方二次創作SS】さとこい、愛のサイコロトーク

2015/02/05 18:20 投稿

コメント:2

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 私、古明地さとりは自室の机に向かって日記をしたためている。
 書いている内容は実に他愛ない。おくうの羽が焦げたので綺麗にしてやったとか、お燐の拾ってきた猫が子供を生んだとか、地震で剥がれた外壁を鬼に直してもらったとか……そういったことを万年筆でカリカリと書いていくのだ。

 私には記憶を整理する必要がある。なまじ心が読めてしまうと、自分の記憶と他人の記憶が混濁してしまうのだ。酷いときにはお腹が鳴るほど空腹なのに、自分は食事を済ませたような気分になっていたりする。
 そんなことを誰かに話すと大抵笑われる。私は地霊殿の主として素知らぬ顔をしているが、実際のところは内心でかなり恥ずかしがっている。顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのをグッと堪えて我慢しているわけだ。

 私はあらかた書き終えて、革張りの日記帳から顔を上げる。
 壁掛け時計を確認すると時刻は午後十時を回っていた。
 机の真正面は窓になっていて、外が薄暗いから鏡のようになっている。

 窓には私の冴えない顔が映っていた。
 色白というか、顔色が悪いというか、自分でも陰気だと分かる。薄紫色の頭髪はくしゃくしゃで、年老いた毬藻を見ているかのようだ。昔は長く伸ばしていたこともあったが、それはそれで手入れが面倒なので止めてしまった。紫色の瞳はいかにも怪しげで、目つきは眠そうというか、睨み付けているというか……。
 まあ、地霊殿で暮らしているのは私の身内だけで、訪れてくるのも大抵は変わり者ばかりだから、わざわざ愛想を良くする必要もない。私が陰気な顔をしていても、それを気にする人なんていやしないのだ。

「…………」

 鏡になった窓を見ながら、私は左右の頬に両手を当てる。
 頬の肉は鋼鉄のように固く、指先は氷のように冷え切っていた。

 窓にはがらんとした自室の様子も映っている。
 部屋はあまり広くない。端から端まで小股で十歩くらいだ。
 窓は南向き(地下なので南も何もあったものじゃないが)で、窓際の机を挟むようにして本棚が並んでいる。本棚には今まで書き連ねてきた分厚い日記帳がたまっていた。他には灼熱地獄跡地を管理することや、動物を飼育することについての書籍もある。
 出入り口のドアは北東側の隅、北西側の隅には天蓋付きのベッドと衣装箪笥がある。他にはパッと目につくものはない。一見すると小綺麗に感じるのだが、それは余計な私物が置かれていないからだ。

 壁掛け時計で時刻を確認する。
 午後の十時を過ぎた辺りだ。
 やることもないから、早いけれども眠ってしまおうかしら……。
 私がそんなことを考えていると――

「どりゃあっ! お姉ちゃん、いるう? サイコロトークの時間だよっ!」

 我が妹である『古明地こいし』が部屋のドアを蹴り開けてきた。
 私はびっくりして椅子から腰が浮き上がる。
 乱暴に蹴られたせいで、ドアの蝶番がぐらついていた。

「こ、こいし!? 部屋に入るときはノックするようにと――」
「お姉ちゃん、サイコロトークの時間だよっ!」

 ふわふわとした銀色の髪、パッチリとした目にエメラルド色の瞳。特徴的なのが貼り付いたような笑顔である。どういうわけなのか、こいしは常に満面の笑みを浮かべているのだ。それが我が妹ながら、若干得体の知れなさを感じさせられる。

 こいしは何故だか一抱えもある大きなサイコロを抱いていた。
 サイコロの表面には目ではなくて細々と文字が書かれている。

 な、なにをするつもりなんだろう……。
 私は椅子に座ったまま身構える。
 こいしがサイコロを天井にぶつかりそうなほど高く放り投げた。

「何が出るかな♪ 何が出るかな♪ 何が↑でるかな↓ぺろぺろ♪」

 彼女の手拍子が終わった頃、サイコロがぴたりと動きを止める。
 こいしはサイコロを拾い上げると、それの上になった面を見せてきた。
 私は目を細めて覗き込む。

「お姉ちゃんのほっぺを抓る話……略して『おねほぺ』!」
「な、なんですか、それは!?」
「問答無用!」

 こいしがサイコロを投げ捨てて、猛然と私に襲いかかってくる。
 私は逃げることもできず、そのまま左右の方を思い切り抓られてしまった。
 サイコロトークって言ったよね!?
 でも、これって完全に単なる暴力だよね!?

「いたっ! いたたたっ!」
「むむむ、想像以上に固い。紙粘土か!」
「ひ、ひりませんよぉ……」
「触診完了。常日頃から揉んでおくように!」

 医者のようなことを言って、こいしがコホンと咳払いする。
 彼女はそれから再びサイコロを拾い上げた。

 これは……こいしが飽きるまで付き合うしかないのか?
 抓られた頬が痛み、ジンジンと熱を持っている。
 あの子、どんだけ思い切り抓ったんだ……。

「こ、こいし……どうして、こんなことをするんですか?」
「どうして?」

 こいしがあごに指を添えて、尤もらしく小首をかしげて考える。

「どうしてなのか……それは私にも分からない。無意識のなせるわざ。生命の神秘」
「いやいや、そのサイコロは明らかに手作りでしょ!? 人為的なものでしょ!?」
「お姉ちゃん、細かいことを気にしてるとモジャるよ?」
「モジャるってなにっ!?」

 ハゲるみたいに言うな!
 髪の毛のこと、気にしてるんだから!

「何が出るかな♪ 何が出るかな♪ 何が↑でるかな↓ぺろぺろ♪」

 こいしがサイコロを放り投げ、歌い、またサイコロを拾い上げる。
 それから、再び上になった面を見せてきた。

「お姉ちゃんのワキをくすぐる話……略して『おねワキ』!」
「く、くすぐり!?」

 私は反射的に椅子の上で体を丸める。
 ワキをくすぐられるのはまずい! 私はくすぐられるのがとにかく苦手で、くすぐったいというレベルを超えて、物事がよく考えられなくなってしまうのだ。恥ずかしくてもポーカーフェイスは貫き通せるが、くすぐられるのだけはヤバい! 地霊殿の主として……何よりもこいしの姉として、妹の前では醜態をさらして――

「ワキ! ……と見せかけて、足の裏!」
「う、うひゃひゃひゃっ!」

 それは反則! それは反則でしょ!
 私は右の靴を脱がされ、足裏をくすぐられて、そのまま椅子から転げ落ちる。
 こうなってしまうと、あとはこいしの独壇場だ。足の裏を守ろうとしたら、今度は脇腹ががら空きになる。こいしはそこを狙って、ほっそりとした指先で何度もソフトタッチを繰り返してきた。こ、呼吸が! 笑いすぎて呼吸がっ!

「お姉ちゃん、深呼吸! ひっひっふーっ! ひっひっふーっ!」
「ひっ、はひっ、はっ、ひっ……」
「この程度で呼吸が乱れるとは……運動不足の証拠だね。毎日ランニングをすること」

 ひとしきりくすぐって、こいしがスクッと立ち上がる。
 私は絨毯にうつぶせの状態でダウンしていた。
 全身ガクガクの状態で力が入らない。
 呼吸も乱れっぱなしのせいで、頭がボーッとしていた。

「……うわっ! お姉ちゃんのよだれが服に付いてる! ばっちい!」

 こいしが服のシミを指で摘み上げている。
 私はどうにかこうにか、椅子を支えにして立ち上がった。

「わ、わらひだって、好きでよだれを垂らしてるんじゃないんですよ……」
「えっ……そうなの!? お姉ちゃん、居眠りしてるときはいつもよだれが――」
「そのときは起こして教えてくださいよ!」

 妹やペットの前で居眠りするだけでも恥ずかしいのに……。
 日常的によだれを垂らしているところを目撃されていたのか!?

「……し、しっかりしろ、私!」

 私は自分の頬を両手でバシバシ叩いた。
 こいしが疑わしそうな目を向けてくる。

「お姉ちゃん、突然どうしたの? ドMなの?」
「自戒の意味を込めた行動です。お気になさらず!」
「ふーん」

 極めて淡泊な反応。
 こいしが何事もなかったかのようにサイコロを拾い上げる。
 ま、まだやるのか……。

「何が出るかな♪ 何が出るかな♪ 何が↑でるかな↓ぺろぺろ♪」

 サイコロを放り投げて、歌って、拾い上げる。
 こいしが三度、上になった面を見せてきた。

「お姉ちゃんに寝技をかける話……略して『おねねわ』!」
「ふぁっ!?」

 私が驚きの声を漏らしたとき、こいしはすでに行動を起こしていた。
 地面を舐めるような低姿勢のタックルである。

 こいしは私の腰に組み付くと、素早く体位を入れ替えて背後を取った。
 途端、腰が引けていたせいか、私の体が簡単に浮き上がってしまう。
 それから、こいしは私の体を裏投げでベッドまで放った。

「ふぎゃっ!?」

 柔らかいベッドの上で跳ねたと思った瞬間、こいしが真上から覆い被さってくる。
 彼女がパッと起きあがって、開放されたと思ったのも束の間――

「あだだだだっ!」

 今度は途端に左足首を痛みが襲った。
 これは……見まごう事なき足四の字固め!
 こんなサブミッションを妹に教え込んだのは誰だ!?

「ふっ、はっ……くっ……」
「ギブ? お姉ちゃん、ギブ?」

 こいしが天使のような笑顔で問いかけてくる。
 天使のような悪魔の笑顔とはよく言ったものだ。

 私はぶんぶんと首を横に振る。
 このままでは地霊殿の主として、姉としてのプライドが崩壊する。
 私にとってプライドはアイデンティティと同じこと!
 それはある意味、命よりも重い! 重いからこそ諦められない!

「せいやっ!」
「きゃっ――」

 柔らかいベッドを利用して、私は弾むように上半身をねじった。
 上半身に続いて下半身、さらには関節技をかけているこいしもひっくり返る。
 必然――

「あびゃーっ!?」

 こいしから実に痛そうな悲鳴が聞こえてきた。
 四の字固めはひっくり返されたら、今度は技をかけていた方がダメージを受ける。
 それは幻想郷の常識!
 こいしがダメージを受けているのは、目に涙を浮かべていることからも明らかだ。

「姉をいじりすぎるから、こうして痛い目を見るのですよ」
「お、お姉ちゃん、ギブ! ギブ!」
「私はもう少し続けても構いませんが?」
「ご、ごめんなしゃい! 割と真剣にごめんなしゃいっ!」
「……ふむ、まあいいでしょう」

 私はこいしを解放してやる。
 彼女はベッドから転がり落ちて、それから絨毯をのそのそと這った。
 笑顔なのは相変わらずだが、それも崩れかけて、額には汗の玉が浮かんでいる。

「ま、まだ、勝負はこれから……」
「……むむむ、懲りないですね」

 私もベッドから下りると、机のところまで移動して椅子に腰掛けた。
 これでも私たちは妖怪である。
 ちょっと痛い目に遭わされたくらいではへこたれない。

 こいしがふらつきながらも立ち上がる。
 彼女は足下のサイコロを拾い上げて、それを高らかに放り投げた。

「何が出るかな♪ 何が出るかな♪ 何が↑でるかな↓ぺろぺろ♪」

 今回はあまり転がらず、サイコロはストンと絨毯に落ちた。
 ふらふらしながら、こいしが出た面を覗き込む。
 瞬間、彼女の表情が太陽のようにパッと明るくなった。

「今日の当たり目!」

 こいしが持ち上げたサイコロには、赤い文字で『当たり』とだけ書かれている。
 彼女は満面の笑みを浮かべているが、今までの出目の結果がアレ過ぎるため、こちらとしては一片たりとも喜べない。今度は凶器でも持ちだしてくるんじゃないかと、思わず武器になりそうなものがないか探してしまった。

「今日の当たり目は……じゃじゃん!」

 こいしが『当たり』の面をビリッと剥がした。
 隠されていたお題が露わになる。

「古明地こいしがストリップをする話……」
「はいっ!?」
「略して『こいスト』!」

 この子、唐突になに言っちゃってんの!?
 でも、こいしは大真面目らしい。
 挑発的な視線を投げかけながら、彼女はするすると上着を脱ぎ始める。

「お姉ちゃん、あなたも好きね♪」
「…………」
「うふふ。ちょっとだけよ♪」
「…………」

 私は苦々しい顔をすることしかできない。
 正直なところ、妹の行動にドン引きである。
 こいしが脱いだ上着を指で摘み、それをぽいっと私の方に投げてきた。

「ふがっ!?」

 顔面に覆い被さった上着を回収する。
 これは……このまま洗濯にでも回しておくか。

「お姉ちゃん、私のことを見て……」

 こいしは悩ましげに体をくねらせている。
 つま先から腰、腰から胸元に……華奢な体をなぞるように指を這わせていた。
 彼女の幼い輪郭が殺風景な自室に浮き上がる。
 こいしは踊っている間、熱っぽい視線を私に注ぎ続けていた。

 な、なんだろ……そんな急に見つめたりして……。
 私は思わず視線を逸らして――

「目を逸らしたら駄目!!」
「えっ……」

 突然、大声で言われてびっくりさせられる。
 私は驚いた拍子にこいしをまじまじと見つめてしまった。

 こいしは一瞬、とても真面目な顔をしていた……ような気がしたが分からない。
 彼女は自らのスカートにそっと両手を差し込む。
 ほっそりとした指先が何に引っかけられているかは明らかだった。
 こいしはゆっくりとそれを引き下ろして――

「だめだめ、だめーっ!!」

 私は無意識のうちにフライングクロスチョップを放っていた。

「うげっ!?」

 クロスした両腕がこいしの喉を穿った……穿っちゃった。
 かえるが潰れたような声を上げて、彼女はベッドまで吹っ飛ばされる。

 私は突っ込んだ勢いのまま、こいしの体にのっかってしまった。
 まるで押し倒したような姿勢だが……まあ、実際に突き飛ばしたのだけど。

 こいしは目を回したのか、仰向けてぐったりとしていた。
 あ、あれ……もしかしてヤバい?

「……こいし、大丈夫ですか?」

 私はあくまで冷静を装って問いかける。
 地霊殿の主として、姉としてのプライドが……。
 四つん這いの姿勢なので、額に滲んだ汗が垂れそうになる。

「お姉ちゃん、どうして笑わないの?」

 こいしが唐突に目を覚ました。
 最初から気を失ってなんかいなかったのかもしれない。
 彼女は普段の笑顔ではなくて、真顔で私のことを見つめている。

 見慣れないこいしの表情からは少し怖さを感じた。
 自分は取り返しのつかないことをしたのではないか?
 彼女の中に眠る何かを目覚めさせてしまったのではないか?
 そんな得体の知れない不安に駆られる。

「笑うことだけじゃないよ。私が余程のことをやらないと、お姉ちゃんはびっくりしたり、驚いたり、怒ったり、悲しんだりしない。心の中ではしているのかもしれないけど、絶対に態度には出さないようにするよね」
「わ、私は……」

 私は横に視線を逸らした。

「……私は生まれつき陰気なのです」
「それは嘘だよ……えいっ!」
「きゃっ!?」

 こいしが急に起きあがって、ぐるりと体位が入れ替わる。
 今度は私の方が押し倒される形になった。
 胸がドキドキして、自分の心臓の音が聞こえてくる。

「自分は暗いやつだって言い張ることで、お姉ちゃんは恥ずかしがり屋を誤魔化してる」
「そ、そんなこと……」

 そんなことないと言い切れなかった。
 これが私の演技の限界なのかも知れない。
 実の妹に内心を見透かされていただなんて……。

 私は顔が真っ赤になるのを感じた。
 全身が沸騰したように熱くなっていて、その中でも顔が断トツに熱くなっている。火が吹き出るどころか、火山が爆発してマグマが漏れ出そうだ。いっそのこと、このまま燃え尽きてなくなってしまいたい。

「私、お姉ちゃんの本当の気持ちを知りたい」
「本当の気持ち?」
「言葉や態度に出さないと、本当の気持ちは相手に伝わらない。相手に伝わってしまうのは、嘘をついているっていう態度だけ……。本人は上手に嘘をついているつもりでも、どこかで絶対にほころびが出る」
「うっ……」
「心の弱さを認めないと、強くなれないんだって」
「ど、どこでそんなことを……」

 こいしは最近、地上で友達や知り合いを増やしている。
 彼女はそうやって交流を重ねているうちに成長したのかもしれない。
 その一方、私は何もせずに閉じこもってばかりいた。
 地霊殿の主であり、姉である……そんな立場に甘えきっていたのだ。

 こいしの手が私の頬に添えられる。
 私の顔が熱くなっているせいで、彼女の手はほどよい冷たさに感じられた。

「お姉ちゃん、認めて? 自分の弱さを……」
「……私の弱さ」
「強がることはないんだよ。私にお姉ちゃんの弱さを見せて」
「わ、わ、私は……」

 地霊殿の主であること、姉であること……そんな余計なプライド。
 私はこれから自分の命だと思っていたものを捨てる。
 それは身を守るためのトゲであって、同時に妹を不用意に傷つけていたのだ。
 陰気であることを装って、実の妹に嘘をついてきた。

 ここで終わりにしないと……。
 私はあらゆる相手の心を読めても、誰とも最後まで解り合うことができない。

「……こいし」
「なぁに?」
「私は……恥ずかしがり屋なんです。あなたの前でも正直になれないほど」
「よく言えました」

 こいしの表情が緩み、笑顔が戻ってくる。
 彼女の笑顔は優しく、柔らかく、いつもよりも何故だか自然に見えた。

「お姉ちゃんの正直な気持ちが聞けて嬉しいよ」

 こいしが起きあがって、ベッドからぴょんと飛び降りる。
 放置されていた上着を拾い上げて、サッと袖を通した。
 着心地を確かめるかのように、その場でくるりとターンする。

「それじゃあ、お姉ちゃん。お休みなさい」
「えっ……」
「私、もうおねむだから」
「あ、うん……お休みなさい」

 こいしは大きなあくびをしながら部屋から出て行った。
 立て付けの悪くなったドアが閉じられる。
 あぁ、せっかく正直になれたのに……。

「もう少し話したかった……」

 私は枕を抱き寄せて、それに力一杯に顔を埋める。
 絹織りの生地はなめらかで、ひんやりとしていて、熱くなった顔には心地よかった。
 過度な熱さが抜けていき、胸の奥に心地よい暖かさが残る。

 明日になったら、こいしにお礼を言わないと……。
 あのサイコロは彼女なりの気遣いと努力の結晶なのかもしれない。

「……ん?」

 そんなことを考えていると、部屋の隅にサイコロが残されていることに気づいた。
 適当に転がしておくのも忍びない。
 私はベッドから下りて、サイコロを拾い上げた。
 そういえば……出ていない残り二面は何が書かれているんだろう?

【お姉ちゃんのうなじをペロペロする話……略して『おねペロ』!】

【お姉ちゃんのうなじをハムハムする話……略して『おねハム』!】

「……これは酷いっ!!」

 完全に私のことをいじりたいだけじゃん!?
 それから、うなじ関連をペロペロとハムハムで水増しするなと!!

「何が出るかな♪ 何が出るかな♪ 何が↑でるかな↓ぺろぺろ♪」

 こいしが突然、ドアを蹴り開けて戻ってくる。
 彼女はサイコロを回収すると、何も言わずに再び部屋から出て行った。
 私は一人で呆然と立ち尽くしている。

「こいし……」

 妹の名前を呼び、ちょっと微笑む。
 あのサイコロが単なるおふざけだとしても、だ。
 私は明日になったら、こいしにきっと「ありがとう」を言うだろう。
 そうしたら、今度は彼女の恥ずかしがる顔が見られるかもしれない。
 お姉ちゃんからの感謝の気持ち、それからささやかな仕返しだ。


(おしまい)

コメント

sinngeki
No.1 (2015/03/01 21:59)
面白かった。他のキャラの小説も書いて欲しい。
ゲスト
No.2 (2017/07/02 07:18)
良いと思う。
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