賞発表の準備を何人かのスタッフとしていると、その中の一人が僕に話しかけた。
「津田さん、X。あれ、まずいっすよね、危なかったですよね。あんな勝手なバンド、困ったもんですね。俺なんかさぁ、あのダラダラと続けてる煽り、何やってんだよー、と思ってさ、頭来たから止めようとしたんすよー。そしたらさ、何でか分からんけど、止めない指示が出てて驚いちゃった。でも、もう少し続けてたら、俺、PAんとこ行って、勝手に止めてたっすよ」
「ええ!ほんとに〜?」
咄嗟にひとこと、軽く応えながら、僕は自分の心境の変化に驚いていた。
彼の発言を聞きながら、心の中で(こいつ、何もわかってねえな・・・)
と思ったからだ。
そもそも、演奏を止めない指示、というのは僕の判断によるものだ。
オーディションの現場責任者としての判断で、あの煽りを止めなかったのだ。
Xというバンドのわがままではなく、バンドの思想を理解し、応援したいと決意した、オーディション内部サイドの判断なのだ。
そこまで人の心を動かすバンドの魅力・・・そこをわかっていない、ひとりのスタッフの感情など、オーディションという大切な機会に、何の価値があるのか。
そんな思考を一瞬のうちに済ませて、彼の発言がどうでも良い内容だから、ひとことで済ませたのだ。
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