毎年書いてるけれど。
 
 ヒデちゃん、ありがとう。
 
 本当にありがとう。
 
 数え切れないほど、たくさんの人たちが
 
 ヒデちゃんの作品と人生に夢と幸せをもらってね
 
 もちろん悲しい思いもしたりするけれど…。
  
 でもね、ありがとう、っていう気持ちが
 
 凄いんだよ みんな
 
 だからね。
 
 
 ねぇ、ヒデちゃん
 
 いったいヒデちゃんは、その細い体でね、
 
 何人の心を救ったと思う?
 
 何人の人生を変えたと思う?
 
 何人の夢を導いたと思う?
 
 それも、まだまだ続くんだよ。
 
 これはね、とんでもなくありがとう、なんだ。
 
 だって…。
 
 ヒデちゃんは、いつも寂しかったじゃんか。
 
 ヒデちゃんは、いつも悔しかったじゃんか。
 
 ヒデちゃんは、いつも夢みてたじゃんか。
 
 だから、凄いんだ。
 
 作品を生んでね、表現をしてね
 
 そして何より、ガラスのようにギリギリで生きてね。
 
 
 ありがとう。
 
 ありがとう。だから
 
 ありがとうしか言えないよ。
 
 
 
 じゃあさ、今日は僕、ちょっと回想するからね
 
 微笑んで聞いててね。
 
 おかしかったら笑ってもいいからね。

 
 
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 あの頃、ヒデと僕が言葉のいらない関係だった理由はいまだに分からない。
 
 ただ、その感覚を2人で共有していたのは間違いない。
 
 例えばファンを気づかって、プロジェクト上のある部分をヒデが気にしていて。
 
 僕はそれを知らなくて、ふらっとヒデに話しかける。
 
 (どう?その後…)
 
 (うん。何かさ、イベントのことさぁ…。
 ファンの気持ちんなってみるとさ、やっぱりもう少し考えなきゃ、って)
 
 ああ。
 なるほど…。
 
 この時点で、僕にはヒデが気にしているポイントと、それをもう一度プロジェクトとして考え直すために、バンドサイド、そしてソニーミュージックのスタッフサイド、それぞれどういう風に話を進めて行けば良いのか、考え始めている。
 
 でも、そのことを口には出さない。
 
 
 (ヨシキのイメージ、ちゃんとスタッフに伝わってないのかなぁ・・・)
 
 と僕が言うと、ヒデは少しうつむいて、

 (ヨシキはさ、全体をちゃんと考えてるから・・・)
 
 とつぶやくと、深い表情で考え込んでいる。
 
 それを見て、僕はヒデの考えているポイントが分って納得する。
 
 ヒデはヨシキのことをとことん理解しているから。
 
 そして一方、ヒデはメンバーの中で、ずば抜けてファンの気持ちを理解しているから…。
 
 考えをまとめて、僕はひとことだけ

 (今はヒデちゃんの考えが大事だと思う
・・・)

 新たな案をヒデが考えて、そのために予算を少し調整してもらうべきかも知れない…。
 
 そう僕は判断して、
 
 (宣伝のことだからさ、まだ分からないけど、ちょっと話してみるね)

 (うん・・・)
 
 この会話で必要なことは共有してしまうのだ。
 
 本当であれば
 
  ・ ヒデの気にしている内容をよく聞き
 
  ・ それに対する僕の意見を返して、何が一番良いのかを共に考え
 
  ・ その結果をバンドメンバー、特にリーダーのヨシキ、そしてソニーミュージックのスタッフにどう提案し
 
  ・ そのために何が必要なのかをお互い確認する…
 
 といったやり取りがあるべきなのだけれど。
 
 ヒデとだと、それが全くいらない。

 
 
 こんな場合もある。
 
 レコーディングに向けて、リハーサルスタジオを押さえてある。
 
 大きいスタジオはバンド全体、そして小さいスタジオはヨシキと僕がART OF LIFEのデモテープを録るため。
 
 ヒデが僕に聞く。
 
 (ヨシキの方、どうなりそう?)
 
 (ああ。えっとね、来週から始める。たぶん火曜日から。2週間位は籠もるかも)
 
 それには何も答えず、ヒデは考えている。
 
 (どうする?)
 
 と僕が聞くと

 (曲はあるからさ)とヒデが答える。
 
 (稲ちゃん…かな? パタ? 先に・・・)
 と、僕。
 
 (うん…)とヒデ、少し考えて、
 
 (じゃあ、ヨシキと津田さんやってる間さ、稲ちゃんと始めてるから)
 
 (分かった。できたの、メジャーの方?マイナーの方?) 
 
 (マイナーの方)
 
 (そっか、分かった。
 そうだ、ヒデちゃん、今度歌詞見せて。途中でいいから)
 
 (うん)
 
 こんな会話だ。
 
 で、その後、僕はすぐにサブマネージャーへ連絡をして打ち合わせをする。
 
 デモテープ制作の段取りと、稲ちゃん、パタのスケジュール、タイジ、トシの大まかな動きを把握して調整するためだ。
 
 さらに、その流れでデモテープ制作を行う場合、ギターのメンテやアンプの音創りなどをどう進めて行けば良いのか、テクニシャンに相談すべくマネージャーに指示を出す。
 
 これでヒデの要望通りの準備が整った。
 
 そのために必要な会話は、本当にちょっとだけ。
 
 
 
 更にもっと抽象的な会話もある。
 
 ヒデ
 何かさぁ、もっと赤黒い感じがね、いいと思うから。
 
 僕
 ああ…。分かる。分かる!
 なるほどねー。
 
 ヒデ
 赤、っつてもさ、普通の赤じゃあ…
 
 僕
 そりゃそうだ。あのさぁ、妖しい暗めの赤ってあるじゃん。
 
 ヒデ
 うん…。 
 何かもうさぁ、うね、ってしてて、ヤバい感じ、っつうか…
 
 僕
 あ!
 ああああ、ああ…。
 凄い分かる!
 
 そっかー、うね、ってしててね…。
 凄い。ねぇ、それやって。
 
 ヒデ
  合うかな。
 
 僕
 合う、合う。逆にすごく意味あると思う。
 あの…ほら、「ROSE&BLOOD TOUR」のパンフの写真と同じ意味だよね。
 あのうなじの美!!
 あれね、もう性別関係ないから。
 男女超えてるよ。美し過ぎて、俺、感じちゃうんだよね。
 
 ヒデ
 はははは、何なの、この人、変なの、ははは。
 
 僕
 俺はね、そのセンスがヤバいと思うの。カルチャーだから。いや、芸術かな。
 数え切れない位の子たちにね、影響与えるから。絶対。
 
 ヒデ
 うん、そうかなぁ。
 
 僕
 マジで。まあ、でもとにかく暗い赤はいいねぇ。
 
 ヒデ
 でも、音とのシンクロ大事でしょ。
 
 僕
 ああ、まぁ、でも赤じゃないとね。
 
 ヒデ
 …。
 
 うねるのが…。
 
 僕
 あっ!大事かも!!
 分かった!
 ヒデちゃん、うねるのが大事だよ!
 もうねぇ、最近の音はうねってないの多いから。
 
 ヒデ
 Xはさぁ。
 
 僕
 そう、大事にしながらね。
 
 ヒデ
 ふふ。
 
 僕
 うねって、赤黒くて、最高じゃんか!
 

 
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 言葉がどんどん省略されていく会話
 
 
 それがいつも心地よかった。

 黙ったまま、それぞれイメージを膨らませて
 
 話をする時は、たいてい横に並んで
 
 僕にとって、それがヒデの一番自然な場所だった。

 そうして時々 横を向いて 思い切り

 ヒデの顔を見つめることがあった。
 
 それはヒデが声を上げて笑う時だった。

 その笑顔が大好きだった。
 
 それは驚くほど

 無垢な笑顔だった。

 

          2015年5月2日 津田直士