今回、TAIJIが作曲、アルバム「Jealousy」に収録された「Voiceless Screaming」を、音楽ユニットI.o.Youとして心を込めてカバーしました。



メンバーの中でも、TAIJIとはとりわけミュージシャン同士としての会話が多かった記憶があります。(僕はソニーミュージックに入る前はプロ・ミュージシャンでした)
僕はバンドメンバーとしてはもちろん、一人のミュージシャンとしてのTAIJIを心からリスペクトしていましたし、「Voiceless Screaming」を東京ドームや各地のホールなどで演奏する際、TAIJIの要望で僕ステージ裏の僕がRhodesピアノを弾いていたのも、そんな関係があったからだと思います。

僕と共にI.o.Youという活動をしていて歌を担当する水晶は、ちょうどXの初東京ドーム公演から数日後に生まれた、まだ若い世代の音楽家です。2020年2月に、ある機会でたまたま「Voiceless Screaming」を聴いた水晶は、作品の持つ美しさと歌に込められた深い感情に圧倒され、その場で泣きながらいつかこの歌をカバーしてみたい、と思いました。

そして今年の7月に「Jealousy」の30周年がスタートすることに気づいた僕たちは、このタイミングで「Voiceless Screaming」のカバー音源を発表することを決め、6月からアレンジとレコーディングを開始しました。

水晶は改めてカバーすることで、自分のような新しい世代や海外の人たちにこの素晴らしい作品を知ってもらえたら・・・という想いを、そして僕は、生きていたら55歳となるTAIJIの誕生日に向けて、音楽家 津田直士として新たにアレンジ・レコーディングした「Voiceless Screaming」をプレゼントしたい・・・という想いを軸にして、この作品がきちんとI.o.Youの大切な作品の一つとなるよう、心を込めてアレンジ・レコーディングしました。

実は、「BLUE BLOOD」や「Jealousy」のレコーディングをTAIJIと共にしていた経験から、僕なりの考えがあってアレンジ、レコーディングしたところがいくつかあります。

まず何よりも、アレンジとレコーディングについては、全てにおいてTAIJIが喜ぶよう、今の僕たちにできる最高のクオリティで行いました。2010年の冬、TAIJIと二人でお互いの作品を聴きながら音楽や音のクオリティについて熱く語り合った時の記憶が鮮明だからです。

次に、キーは水晶の音域に合わせてオリジナルキーよりも半音下げてありますが、演奏のテンポについてはオリジナル音源にぴったりと合わせてあります。これは、TAIJIがこの「Voiceless Screaming」にかけた情熱を、レコーディング当時ずっと見つめていた僕なりのこだわりです。
クリックによる一律のテンポではなく、TAIJIがギターの演奏に込めたグルーヴと感情を再現することで、一緒にセッションするようなイメージでレコーディングすることができました。

また、弦のアレンジは「Jealousy」でのデヴィッド・キャンベルのアレンジを基本にしています。当時のレコーディングでデヴィッドの音楽性にとても感動したこと、TAIJIがそのアレンジをとても気に入っていたこと、そしてデヴィッドにアレンジをお願いする際、もともと僕自身が基本的な弦のラインを用意して打ち合わせを重ねた記憶などを元に、そうしました。

さらに、今回はTAIJIの弾くギターへのリスペクトとTAIJIが僕のピアノプレイを評価していてくれたことなどから、ギターが登場しない、ピアノによる演奏をベースに構築しました。

ピアノの演奏については、TAIJIが目を細めて喜ぶ様子が浮かぶよう、ミュージシャンとして作品へのオマージュに徹底的にこだわりました。
間奏では、生ピアノとRhodesの電気ピアノが絡み合ってセッションしていますが、ここにはTAIJIと僕のセッションというイメージを投影してあります。

水晶の歌については、「Voiceless Screaming」に込められた感情と美しさに感動した水晶のイメージに任せてレコーディングしました。

TAIJIとTOSHIの友情やTAIJIがTOSHIのためを思ってアドバイスした経緯なども僕が話していましたから、結果としてTOSHIの歌うラインを崩すことなく、濁りのないとてもピュアなTOSHIのボーカリストとしての姿勢へのリスペクトもきちんと込めながらも、ロック畑ではない若い女性である水晶なりの、テクニックに頼らない、繊細で深い情感と作品への想いに溢れた歌をレコーディングすることができました。

最終的な仕上がりとトータルな音楽性については、今のI.o.Youらしく、若干クラシカルでとても情熱的な仕上がりになったと思います。



ちょうど30年ほど前、アーティストとプロデューサー、そしてミュージシャン同士として深い信頼で結ばれていたTAIJIへの想いを、当時はスタッフだった僕が、音楽家となった今の僕らしくカバーすることができて、心から嬉しく思います。

この音源は、この作品を生み出したTAIJIへの僕の想いと、僕と水晶二人の、作品へのリスペクトから生まれた大切なものですから、どんな人にも自由に作品に触れて頂けるよう、こちらのYouTube動画の形で配信しています。

あくまで音源だけなので、特に画面は変化しませんが、その分、僕たちI.o.Youなりの解釈による美しい作品「Voiceless Screaming」を聴いて頂けたら幸いです。


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津田直士がXについて書いた本についてはこちらをご覧下さい。

津田直士の本