音楽プロデューサー 津田直士の 「人生は映画 主人公はあなた」

『Innocent Eyes』 特別寄稿 「ENDLESS RAIN」

2018/03/30 18:30 投稿

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「ENDLESS RAIN」という曲は、X JAPANというバンドの持つ本質をわかりやすく表している。

それは特にまだXだった頃、例えば「BLUE BLOOD」がリリースされた頃などに顕著だった。

ジャンルにとらわれない圧倒的なオリジナリティ

バンドに対する一般的なイメージからは想像できないほどの美しさ

美しさの中にある痛みと、そこに寄り添う旋律

時代や流行に流されない普遍性

一度聴いたら瞬時に心に届き、離れなくなる音楽の力



そんな不思議な力を持つ「ENDLESS RAIN」は、誕生して30年の月日を経て、いま世界中のライブ会場でファンの合唱に包まれている。30年前にレコーディングされた音と共に。



名曲「ENDLESS RAIN」が誕生したのは、1988年の夏だ。

その年の2月、インディーズ盤である1stアルバム「Vanishing Vision」の音源を聴かせてもらってから半年間、僕はまだ契約前だったメンバーと行動を共にして、メンバーを知り、絆を深め、「未来のX」についてビジョンを分かち合った。

いずれ、Xが日本一のバンドになり、アルバムセールス100万枚と東京ドーム公演を実現する。

そんな未来を実現させるために必要なことは一体何なのか・・・。

進化に必要なことを見つけ、それを確実なものにするために、僕はメンバーと半年間熱い日々を過ごした。

ツアーに同行し、ライブを撮影し、打ち上げで熱く語り合い、メンバーと個々に話し合った。

そしていよいよ契約が成立すると、僕たちはすぐに音楽合宿を開始した。

ツアーで得た進化の手応えをもとに、それらを全て音楽作品に結実すべく。




音楽合宿を開始すると、YOSHIKIは何よりも作曲に集中したい、と一人部屋に閉じこもった。

食事の時以外は、誰とも交わることなく、ひたすら部屋で作曲と向かい合っていた。

僕にとって、それはそれで良い状態だった。

なぜなら音楽合宿までの半年の間で、僕がYOSHIKIと語り合うべきことは、もうきちんと済んでいたからだ。今度は他のメンバーとの時間をゆっくり持てる。

半年前、「Vanishing Vision」の音源を聴いて僕が瞬時に気づいたのは、YOSHIKIにはバッハやベートーベン、チャイコフスキーと同じように、『名曲を生む』才能がある、という確信だった。

それに気づいたことで、「未来のX」はスケールが桁外れに大きくなった。

もはや単なるハードロック・ヘヴィーメタルに収まるバンドではないからだ。

日本一になれる。世界にも行ける。

それは、Xというバンドが世界中の人たちを魅了する、普遍的な音楽作品を生み出すことができるからこそ、実現できる。

だから僕は、未来のXに向かう進化の最も大事な核として、YOSHIKIが普遍的な名曲を生むことに期待したのだ。

名曲マニアだった僕は、様々な名曲をYOSHIKIと共有しながら、名曲の素晴らしさを語り合い、そのような名曲をYOSHIKIは生むことができるのだ、と励まし、そして才能と情熱の塊だった若きYOSHIKIに、ひとつだけリクエストをした。

それは「メジャーキーのバラードを生んで欲しい」というものだった。




そんなわけで、音楽合宿でYOSHIKIと話す必要のなかった僕は、HIDEやTAIJI、PATAやTOSHIと語り合い、音楽について理解を深める時間を過ごしていた。

ある夜のことだった。

くつろいでいた僕を、YOSHIKIが「津田さん、いい曲ができたから、すぐ部屋に来て!」と呼んだ。

僕は特別なことが起きそうな予感を意識しながら、すぐに廊下の奥にあるYOSHIKIの部屋へ急いだ。

ドアを開けるとYOSHIKIは、できたのがバラードだということと、まだサビだけだ、ということを僕に伝えると、真剣な表情でピアノを弾き始めた。

僕の耳に、ゆっくり降りていく和音に、今まで聴いたことのない、それでいて聴いた瞬間心を動かされる、とてつもなく美しいメロディーが飛び込んできた。

ちょうど僕の音楽人生を決定した、小4の頃にバッハのフーガを聴いた瞬間と同じように、心が一瞬にして跳ね上がった。

YOSHIKIが弾き終わると、僕は自分が勝手に望み、生まれることを夢見た美しい名曲が、いま現実として目の前にあることに驚きながら、YOSHIKIにつぶやいた。

「凄いよ、ヨシキ。完璧だよ。あり得ない・・・!」



これが、僕が体験した「ENDLESS RAIN」誕生の瞬間だ。

曲の原型が誕生してから半年後に、レコーディングを経て、「ENDLESS RAIN」は1989年4月21日リリースのアルバム「BLUE BLOOD」に収録され、世の中へ伝わり始めた。

やがて全国ツアーではライブの最後を飾る曲として定着し、ファンの大合唱も聞かれるようになっていった。

Xのライブは、次のような本質を持っていた。

『自分を自由にして、見えない壁と闘い、闘い抜いた結果が本当の自分であることを、誇りに想う』

そんな闘いを終えた、メンバーとファンの心がひとつになる瞬間が、「ENDLESS RAIN」の大合唱だった。



あれから30年経った今。

「ENDLESS RAIN」は世界中のファンの心の中にある。

そして世界中の色々な場所でライブがあるたびに、合唱が響き渡る。

「ENDLESS RAIN」がファンの気持ちをひとつにするのなら

「ENDLESS RAIN」は今、世界中をひとつにし始めているのかも知れない。


               2018年3月30日 津田直士

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