2015年1月に配信された記事を基に編集しております。



 『世界の音楽の中心で』

 
 レコーディングスタジオというのは不思議な空間だ。
 
 『良い演奏を良い音で録る』という目的のためにあらゆる工夫がなされ、優れた機材が集められ、常にスペシャリストによる試行錯誤が続けられる。
 
 スタジオの使用料が高いのは、そのためだ。
 
 そしてスタジオ使用料が高いことも含め、そこが特別な空間で神聖な場所であるがために、演奏する際には独特の緊張感が生まれる。
 
 レコーディング本番の時、録られた音を確認している時、何らかのジャッジをする時・・・演奏者、エンジニア、そしてプロデューサーの集中力は限りなく高くなる。
 
 そして良い作品を創り上げるために、重要な会話が交わされる。
 
 また、ある時はその研ぎすまされた緊張感を、その場にいる人間全員の大爆笑が一気に消し去る。
 
 この「笑い」も実は大切だ。どんなに真剣に創られていても、一方で音楽はエンターテインメントだからだ。
 
 さらに、スピーカーから音が鳴っている時も、音が止まり静かになっている時も、重要な会話がなされている時も、爆笑の渦で部屋が満たされている間も、そのスタジオにいる誰かが、イマジネーションを膨らませている可能性が高い。
 
 最大の目的は作品を創ることにあるのだから、決してそのイマジネーションの邪魔をしてはいけない。
 
 そして誰かの心に生まれたイマジネーションを、ちょっとしたやり取りで最大限膨らませていくことも、大事なことだ。

 僕がレコーディングスタジオの空間が好きなのは、こういった特別な雰囲気や暗黙のルール、そして作業の結果生じるさまざまな出来事がすべて『良い演奏と良い音』を生み、それがそのまま『素晴らしい作品』につながるからだ。
 
 こういったレコーディングスタジオの意味と特性を考えれば、YOSHIKIが巨額を投じてそれを購入し、時間をかけて自らのイメージ通りのスタジオに創り上げていったのは、当然のことだと思う。

 『すべては音楽のために』だ。


*************
*****

 
 1992年 8月。
 
 「ART OF LIFE」のレコーディングに再び参加することとなった僕は、YOSHIKIから現況の説明と今後のレコーディングの方針を聞かされた後、早速、現在大まかに組まれているスケジュールを、
僕の経験に基づいてさらに緻密なレコーディングスケジュールに整えていく作業にとりかかることにした。

 スタジオのコントロールルームで打ち合わせが終わり、
僕はこれから再開する「ART OF LIFE」のレコーディングへ向けて、急速に気持ちが高まって行くのを感じていた。