自民党が民主党に圧勝し、政権に復帰した先の衆議院議員選挙。その最大の原因はなにか。昨年12月27日、niconicoが選挙後に「ネット世論調査」でユーザーに聞いたところ、「民主党政権があまりにもひどすぎた」が、もっとも多い63.2%という結果になりました。

 ・ネット世論調査(2012年12月結果)
http://www.nicovideo.jp/enquete/political/nm19686813/detail
 
 夏の参議院選挙ではネット選挙が解禁される見通しとなり、「ネットと政治」を考える上で、今年は一つの分岐点になると言われています。ネット世論調査の結果を踏まえて、背景にある政治不信や拡大する無党派層の存在、データ・ジャーナリズムの可能性などについて、津田大介さんに語ってもらいました。(企画・制作:ドワンゴ)

――「ネット世論調査」の「自公政権が復帰した最大の理由は?」という質問では、どの支持層をみても「民主党政権があまりにひどすぎた」という回答が圧倒的でした。

津田大介さん(以下、津田):完全に負の選択というか、どこかの政党に任せたいというわけじゃなくて、民主党から変えたいというのが現れているということでしょう。これはネットの世論調査だからというわけじゃなくて、ある程度情報リテラシーの高い人若年層にとって、結構リアルの世論調査に近いと思いますよ。

――民主党に対する懲罰的な反応という見方もあります。

津田:2009年の総選挙で自民党が敗けた時も、「お灸をすえる」という意見が多かったわけですよ。おそらく、ニコニコ動画を使っているような人たちは、一般的にみても情報リテラシーは高いでしょうから、メディア全般に対してアクティブな人というのは、どうしても現職の政治家に対するネガティブな情報に触れる機会が多い。常にこういう現象は起こると思いますね。

――政党や政治家に対する根強い不信があるということでしょうか?

津田:そうですね。政治家を信用していないんだと思いますよ。識字率が高くて、メディアも発達している日本では、政治家があまり権威化していない。これには良し悪しがありますが、政治家と聞いた時に、あまりクリーンな印象ってないですよね。何か悪いことをしているんじゃないかみたいなね。立派な政治家もいることはいるんだけれども、政治家になること自体が、この国では非常にリスクが高いんです。

 もう一つ、情報リテラシーが高い知識層になればなるほど、政治家を信用しないようなことがあるのかもしれませんね。それは、やはりテレビ・新聞などマスメディアが非常に強いからということがあります。発行部数が、1千万部とか800万部という新聞がある国は、日本以外ないわけです人口3億人のアメリカですら、一番売れている『ウォールストリート・ジャーナル』が約200万部、『ニューヨーク・タイムズ』でも紙とデジタル合わせて150万部ほどという世界です。

 そういうことを考えると、一部ネット上で言われるような「マスメディアが中国・韓国と結託して、電通と陰謀して……」みたいなバカバカしいことはないけれども、民主党にせよ、自民党にせよ、政権に対する否定的な報道が中心になっているわけですからね。メディアの影響力が強すぎるがゆえの"政治不信"はあると思います。

――「投票率が低かったのはなぜだと思うか?」という質問の結果はどうでしょうか?

津田:これはキレイに分かれていますね。僕はこれが正しい姿だと思っています。議席予測報道を見て、勝ち馬に乗りたい人も多いだろうし、自民以外の人はいかなくなっちゃうということもあるだろうし。自民・民主以外の第三極に投票しようという時に、結局、原発政策の違いもよくわからないし、どうすりゃいいんだということもあった。第三極の軸がぶれてしまったというのもあるでしょう。あと、わかりづらい政策が多かったというのもあった。勝ち馬に乗りたい人以外が棄権したということと、積極的にどこかの党を選びたい時に、ありすぎてどれも選べないということも。

 もう一つ結果を左右したのは、年の瀬の12月16日が投票日だったということ。実は、これがすごく大きいと思いますよ。年末の土日はめちゃくちゃ忙しいですから、投票に行けない人も多かったはずです。今回まだ世代別の投票率がわかっていないんですけど、多分、80歳より上の投票率がどうなったのかきになってるんですよね。12月は寒すぎるから行けない人もいたんじゃないかと。そういった複数の要素の複合だと思います。

 また、今回の総選挙では、自民党の得票率が前回よりも下がっています。それに白票率も高かった。それだけ、「民主党ではない、でも自民党には戻したくない。そして第三極には良い政党がない」という考えがあったということ。あと、単純に政党が多すぎてわからないということもあった。

 やはり、3.11以降の政治不信というのが究極的になった結果ということでもあるでしょうし、やっぱり、日本の政治制度自体がどんどんパラダイム・シフトを起こしているんだろうなと思いますよ。今までは企業・団体献金があった。でも例えば、自民党を支えていた地方の農村・農協票は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を推進しようとする今の自民党とは、利害対立が起きる。だから、業界団体、圧力団体、ロビイストによる政治から変わっていく。無党派層はそのときどきによって、右にも振れるし、左にも振れるので、ネットが拡大していけば、そこは変わっていくと思います。

――今夏の参議院選挙で「ネット選挙が解禁の見通し」という報道もありました。

津田:ネット選挙の解禁では、無党派層の心をいかに掴むかがポイントになってくると思います。自民党は野党になってから、ネットには力を入れましたよね。政権公約のやり方とか、それこそニコニコ動画のログイン画面に広告を出すとか、すごく効果的だったと思います。そういう意味で、無党派層からどう支持を得ていくのかというのが、すごく重要になってくる。

――そんな民意を調べるために、津田さんは昨年12月、ネット投票サイト「ゼゼヒヒ」をスタートしました。今のところ反響はどうですか?

津田:ぼちぼちですね。もっとちゃんと質問を投げないといけない。あと、一日に6つくらい質問を供給できる体制を作らないといけない。質問の仕方も工夫する必要があるでしょうし、意見のグラデーションみたいなものを、タグクラウド(情報の表示方法)みたいなもので見せていこうと思います。

――「ゼゼヒヒ」のほかにも、niconicoの「ネット世論調査」や、ヤフーの「クリックリサーチ」などがあります。もちろん、新聞の世論調査もありますが、今のところ一番民意を反映している方法はどれだと思いますか?

津田:うーん。多分、一つの方法でというのが無理な時代になってきたんだと思います。だから実際のところ、選挙結果に影響を与えるのは高齢者なので、従来の電話調査も必要でしょう。でも、それだけでは細かい世論が吸い上げられないから、niconicoのアンケートのようなネット調査もあるでしょう。

 あとは、ソーシャルメディアの分析ですよ。ソーシャルメディアに出てくるハッシュタグの分析や、ポジティブ・ネガティブチェックなど、そういうものの複合ですよね。それらの中間点くらいに、本当の民意の平均点が見えてくると思います。

――日本ではまだ、そのような、いわゆる"データ・ジャーナリズム"の手法が確立していない気がします。今後、"データ・ジャーナリズム"は重きを増してくるんでしょうか?

津田:そうなってほしいですね。でも、なかなかそればっかりやれる人も少ないですよ。僕が「ゼゼヒヒ」を始めたのも、データをとってきて分析がやりたいわけです。でもそれをやるには、統計学の修士号・博士号を持っている人が必要になってくる。今、東工大で授業を受け持っているので、そこで良い学生を捕まえられればいいなって思っています。

――最後に、ウェブで政治は動かすことはできると思いますか?

津田:ある一面では既に動かし始めていると思いますよ。自民党が勝ったのはネットのおかげとは思わないですけど、安倍さんが「テレビは信用できないからネットで党首討論やろう」と言って、実際にniconicoでやったわけですから、それは大きいです。

 もう一つ転機になるのは、企業・団体献金を禁止できるかどうかでしょうね。個人献金が中心になっていくということになったら、ソーシャルメディアのプレゼンスを高めるということが政治家にとってより重要になってくる。それが大きな節目になるでしょう。

 まぁ、安倍さんのフェイスブックの集まりは、バーチャル講演会みたいなものですよね。それほど、たいしたことも書いていない時でも、数万「いいね!」ですから。政治家は、ああいうふうに支持が集まっていることを認識できるので、ネットに対してポジティブになってきていると思います。安倍さんは成人の日にも、首相官邸から「LINE」(無料通話・メールアプリ)で投稿しました。政治と若い人との距離が近くなるという意味で良いですし、ネットはどんどん政治に影響を与えていくと思う。そういうものに触れる政治家じゃないと、今後難しくなっていくという気がします。

(了)