津田大介さんの新刊『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)が2012年11月12日、発売されました。この日、発売を記念して放送されたニコニコ生放送番組『津田ブロマガ eXtreme(エクストリーム)』の後半部分では、担当編集者の大坂温子(おおさか・あつこ)さんを迎えて、同書の見どころについて語っていただきました。(企画・制作:ドワンゴ)
『ウェブで政治を動かす!』は、タイトルの通り「インターネットと政治」をテーマにした本です。ラジオ番組を聞いて「津田さんはすごく良い声だ」と思った大坂さんが、出版オファーを出したのは、2009年のこと。発売まで3年もかかりましたが、それまで大坂さんは、「缶詰しているのにツイッターしていた」という津田さんを怒ることなく、根気強くサポートされたそうです。
そんな大坂さんと津田さんが苦労を重ねて完成させた『ウェブで政治を動かす!』。大坂さんによると、「この一冊を読むだけで、近年の政治の流れがだいたいわかるようになっています」ということです。また、大坂さんは「あとがきだけでも読んでいただくのが良いかもしれない」と話しました。これを受けて、津田さんも次のように語りました。
「いつも本を書く時は、あとがきにすごく気合を入れて書くんです。あとがきだけを読んでくれたらいいぐらいの気持ちで書いていて、あとがきに対するすごく長い助走を本の中でしている感じなんです。あとがきはちょっと良いエピソードを入れたり、希望を持てる感じにしたいので、人を感動させるような感じにしようと、いつも頑張って書いているんです。今回、感動成分は薄めですけれど、良いあとがきになったなと思っています」
放送ではこのほかにも、なかなか筆が進まなかった津田さんと並走した大坂さんの苦労エピソードが話題となりました。『津田ブロマガeXtreme』では、今後も定期的に生放送をしていく予定です。======================================================================
◆ニコ生「津田ブロマガeXtreme」第4回目書き起こし(後半)
――編集者が選ぶ『ウェブで政治を動かす!』の見どころ
(2012年11月12日 ニコニコ生放送「津田ブロマガ eXtreme」)
出演:高橋杏美(アシスタント)、大坂温子、津田大介
津田大介さん(以下、津田):はい、ということで、ここからはブロマガ会員だけが見ることができるコーナーです。
高橋杏美さん(以下、高橋):それではさっそく、ゲストをお迎えしましょう。津田さんの新刊『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)の編集を担当されました、朝日新聞出版の大坂温子さんです。
大坂温子さん(以下、大坂):緊張する……。
津田:ご無沙汰しております。マイクを付けていただければ。(画面を見ながら)あっ、さっそく1人、ブロマガの会員に入りましたね。
高橋:ご無沙汰なんですか?
津田:ご無沙汰じゃないですけど。
大坂:毎日顔を合わせていたので。
津田:そうですね。
高橋:毎日顔を合わせていて、少し時間が開いて、今に至ったってことですか?
津田:顔は合わせるんですけど、僕は基本的に自分の事務所の部屋に篭って書いているんで、大坂さんは応接室でずっと十何時間待たされて、みたいな日々が2カ月ぐらい続いていたんですね。
高橋:出版社の方って本当に大変ですよね。よく頑張りましたね。
津田:ここからは大坂さんにいろいろとお話を伺いたいと思います。
高橋:今の率直な感想をお聞かせいただいても良いですか?
大坂:本当に「終わったー」って感じです。高円寺にある津田さんの事務所から、原稿をもらえずに帰る朝、太陽を見ながら「ああ、そろそろヤバイな」って思う日々を何日も繰り返しました。
高橋:3年も続くんですもんね。
津田:ここ2カ月はまさにそうだったんですけど、それだけじゃなくて、本当に2、3年、そんな日々でしたからね。
高橋:やっと『ウェブで政治を動かす!』が出版されたわけですけれど、ちなみに、これまではどんな本を手掛けられてきたんですか?
大坂:政治系のノンフィクションを作ることが多くて、政権交代のノンフィクションや、検察問題のノンフィクションなどですね。政治家の方に取材する機会が多かったので、その時に津田さんとお会いして、タイミング的にもテーマ的にも合うんじゃないかなって思ったんです。
津田:前職のKKベストセラーズという会社で、政治系のノンフィクションを立ち上げられていたんですよね。
高橋:そんな大坂さんから見て、今回の『ウェブ動』の見どころはどこですか?
大坂:まずは、「津田さん、どうしちゃったの?」ってくらいの凄まじい文字量です。
津田:僕は遅筆というよりも、無筆って言われているんでね。書かない、筆がない。でも今回は書きましたね。
大坂:あとは幅の広さですね。この一冊を読むだけで、近年の政治の流れがだいたいわかるようになっています。すごくお得な一冊になっていると思います。
高橋:ネットの評判はどうですか?
大坂:「意外と真面目な本だよね」って言われますね。
津田:あんまり浮ついてないですね。
高橋:大坂さんがかなり苦労されたという話を(無料放送では)散々してきましたけれど、一番の苦労は何ですか?
大坂:メモにまとめてきました(笑)。まずメールが届かない。
津田:届いていますよ、見ていないんです(笑)。
大坂:メールを見てもらえない。電話に出てもらえない。ダブルブッキング。待ち合わせの日に来てくれない。書いてくれない。缶詰しているのにツイッターしている。
高橋:ひどい(笑)。コメントでも「ひどいwww」ってありますよ。
津田:大坂さんはもともとツイッターをやっていなかったんですよ。だけど、僕に連絡をするためだけにツイッターのアカウントを持って、僕にDMを送るという。
高橋:ツイッターでの連絡が最終手段ですか?
大坂:最終手段ですね。
津田:(コメントを拾って)「駄目彼氏と彼女の愚痴」とか言われている(笑)。
高橋:本当ですね。
大坂:あとは、本当に「大丈夫です」って顔をするんですけれど、全然大丈夫じゃないから。
津田:缶詰の時、もちろん書いていないわけじゃないんです。書き始めるんですけれど、「うーん」って行き詰まると、そこにはツイッターがあるわけですよね。ツイッターに投稿すると、ツイッターが盛り上がってきちゃって、気が付くと6時間経っていたとか。あとは、ウィキペディアを見始めちゃって、映画監督とか調べ出すと面白くて、気が付くと8時間経っていたということも。次の予定の時間になって、「すいません。お疲れ様です」って帰ろうとすると、「じゃあ、できた分だけ送ってください」って言われて、「まだちょっと渡せるような状態じゃないんで」と答えて、はにかみながら帰る。それを、おそらく20回以上は繰り返したんじゃないかなと思います。
大坂:その後に見る高円寺の朝焼けが本当に辛かった。
高橋:でも、よく諦めなかったですね。
津田:本当ですよ。なんで諦めなかったんですか?
大坂:途中から追い詰めるのが楽しくなってきたんです。
高橋:津田さんを追い詰めることが?
津田:まったく追い詰められていなかった気がしますけど。いや、そんなことないですけれど。
高橋:ちょっとSっ気があるってことですか?
大坂:津田さんって、ちょっとそそられる感じがありますよね。
高橋:津田さんMですもんね。
津田:はい。もう、かなりの。
高橋:そこのマッチングがあったんですね。
大坂:多分そうだと思います。
津田:僕は怒る編集者の人が苦手なんですよね。でも、大坂さんは決して怒ることなかったんです。
高橋:怒られることあるんですか?
津田:そりゃあ、原稿書かなかったら怒られますよ。怒る編集者が来たら、だいたい仕事しないですね。ちゃんと原稿は出しますよ。怒られたら、さすがに僕も出しますよ。でも、「出してやるよ!」みたいになりますよね。
高橋:怒った効果はあるんですね。
津田:もう二度と仕事しないですけどね。
高橋:そうなんだ。
津田:でも、向こうも怒っているから依頼も来ないですしね。
高橋:大坂さんは、そんな津田さんともう一冊、本を作りたいと思いますか?
大坂:いやぁ、次は……(苦笑)。
津田:今のすごくデジャブ感がある。大坂さんは慶應義塾大学の文学部出身なんですが、『Twitter社会論』(新書y)の担当編集者も慶応大学出身の女性だったんです。『Twitter社会論』がそこそこヒットした後に、電子書籍版を作ろうという打ち合わせに行ったら、彼女と一緒に来た上司が「ありがとうございます、電子書籍版作ります」「君、結構売れたんだから、ぜひ次作も」みたいなことを言った。その時に、今の大坂さんとまったく一緒の感じで、彼女は「いやぁ」とだけ言った。それがすごくデジャブだなと。
大坂:次もやりましょう。『ウェブ動』第2弾。
高橋:やさしいですね。大坂さん。
津田:大坂さんは怒らなかったから良かったな。やさしかったなぁ。
高橋:もし第2弾をやるとしたら、どういうテーマでやりたいですか?
津田:というか、そもそもなぜ僕で「インターネットと政治」をテーマとした本が出せると思ったんですか?
大坂:「インターネットと政治」というテーマで本が出すという以前に、ラジオの『Life』(TBSラジオ)を聞いていて、津田さんの声がすごく良い声だなって思ったんです。
津田:ありがとうございます。
高橋:「津田さん、声は良い」って、よく言われますね。
大坂:「この人に会って、何か一緒にお仕事できたらな」っていうのが純粋な気持ちです。
津田:それで、武蔵野美術大学で行われた『Life』のイベントに来たんですね。
高橋:それって恋に似ていますね。恋愛ですね。
大坂:「政治」は後付けというところはありましたね。
津田:そうだったんですね。今明かされる衝撃の事実です。
高橋:ザワザワしちゃうんじゃないですか?
津田:この後、いろいろなことを考えなきゃいけませんね。大坂さんが早稲田大学出身だったらなぁ。
高橋:そこにこだわるんですか?
津田:まあ良いです。結果的にものすごく時間がかかっちゃったんですけれど、2010年に「ガバメント2.0 EXPO」の取材にアメリカに行って、帰って来てからいろいろ原稿も書いた中で、これは本当に面白い分野かもしれないと思いましたね。でも、それからさらに1年半もかかるとは僕も思っていなかったですけど。
高橋:ぜひ第2弾に取りかかってください。
津田:でも、よく諦めずに続けられましたよね。
大坂:私は編集者5年目で、半分以上この企画と一緒に過ごしていることになるので、「これを出さなければ終われない」って思いがありましたね。
津田:呪いのようなものですね。
大坂:執念です。いつも頭のどこかに「どうしようか」っていうのがありました。
高橋:やっと終わって、次のステップにいける感じですよね。
津田:これが売れると良いんですけれどね。
大坂:そうですね。頑張ります。
津田:本を作る方は大坂さんに頑張っていただいたんで、ここから先の売る方は、自分の力を使って、どんどん売っていきたいなと思います。
高橋:最後に、津田さんから見て、大坂さんがどんな印象なのかをお聞きして終わりましょうか。
津田:すごく優秀ですよ。僕もいろいろ編集者とお付き合いしてきましたけれど、「ガバメント2.0 EXPO」という行政イベントに行く時に取材のコーディネーターしてくれたり、この前のアメリカ大統領選の特番の時に出演していただいたニューヨーク在住の佐久間裕美子さんというライターがいて、あの方も大坂さんがツイッターで見つけてきて、それでコンタクトをとってくれたりとか。いろんな取材のコーディネートとかアポ取りをすごく粘り強くやってくれました。
僕はメールを見ないんですけれど、取材には行きましたよね。取材はすっぽかしていないですもんね。
大坂:取材には時間通りです。
高橋:そこはちゃんと守るんですね。
津田:僕のことは気に食わないという人も、まだ『ウェブで政治を動かす!』を買っていないという人も、大坂さんのために、ぜひ買ってみてください。編集者から見て、この本の見どころはどこですか?
大坂:やっぱり、「ガバメント2.0が実現する社会へ」の章が個人的に一番面白くて、おすすめです。取材自体は2年前なんですけれど、いまだに社会で実現されていないことや、実現されつつある過渡期にあることが多いので、未来を予感させるような、一番わくわくする章になっているんじゃないかなと思います。
津田:そのあたりの、「最後はガバメント2.0でまとめれば良いんじゃないか」という構成も大坂さんが考えてくれました。最初からガバメント2.0の話は最後にしようと決めていたんですけれど、結果的に本ができてみると、夢が見られる感じになったのが良かったですね。
大坂:あとは「あとがき」ですね。とりあえず、あとがきだけでも読んでいただくのが良いかもしれないです。
津田:この本は、あとがきが1万字なんです。いつも本を書く時は、あとがきにすごく気合を入れて書くんです。あとがきだけを読んでくれたら良いぐらいの気持ちで書いていて、あとがきに対するすごく長い助走を本の中でしている感じなんです。あとがきはちょっと良いエピソードを入れたり、希望を持てる感じにしたいので、人を感動させるような感じにしようと、いつも頑張って書いているんです。
今回、感動成分は薄めですけれど、良いあとがきになったなと思っています。そう思って書いていたら1万字越えちゃった。大坂さんに送ったら「良いんですけれど、長いです」って言われて、「あとがきじゃなくて『終わりにかえて』にします」って、タイトルを変えられてしまった。なんか座りが良いような悪いような。でも、確かに俺も見た時に「なげぇ」って思う量になっていました。あとがきなのにオキュパイ・ウォールストリートの話が始まったりしているんでね。
大坂:止まらなくなってきていましたね。
高橋:じゃあ私も、あとがきから読もうかな。
津田:それも良いと思います。面白いと思います。いろんな読み方がありますけれどね。大坂さんは、今後どういう本を作っていきたいですか?
高橋:そこを聞きたいですね。
大坂:編集者の中には、社会を変えたいとか、世の中を良くしたいという気持ちで仕事している方が少なくないんですけれど、私はそういう風に思えないことがすごくコンプレックスだったんです。
津田:そうなんだ。
大坂:そうなんです。ただ一冊の本を作ることで、読者一人の行動が変えられたり、目の前にある風景がちょっと違って見えたり、元気になってくれたり。そういう一人ひとりにちゃんと届く本が作れたらという風に思っています。
津田:すばらしい。この本で変わるかな? 変わりますよね。
大坂:読者の気持ちは、ちょっと変わってくれると思います。
津田:政治家の人も、この本を読むことで意識が変わるかも知れないし、この本を読んで逆に政治家を目指す人も出るかもしれない。そのための指南書になったんじゃないかなと思います。自分にとっても、すごく良い仕事ができたなと思いました。
高橋:すばらしい。
津田:もう二度と本は書きたくないですけれどね。(『Twitter社会論』を書き終えた)3年前と同じようなモードになっているんでね。でも、ここから先に、ふっと気が緩んだ時に、誰かが来たら……。そして、今は新会員が何人くらい来たのかな、ちょっと見てみましょう。キター。1000人を超えました。ありがとうございます。
高橋:ありがとうございます。番組の終わりまでに1000人超えて良かったですね。
津田:(コメントで)「誰か退会しろ」って……。ダメですよ。「もう待たせている編集者はいないんですか?」。いましたっけ? いるの? 誰? いっぱいいるのか。でも単行本はないからね。企画はある? まあ良いんですよ。あと、僕はブロマガ読者の方を待たせていますから、その人たちに向けて、ご奉仕していきたいなと思います。
高橋:津田さん、良い営業マンみたいになってきましたね。
津田:この3年間、ずっと心の中に引っかかっていたことは事実で、ようやくそれを一番良い形で解消することができた気がするので、これが10万部を超えると良いなと思います。政治系の本でそんなに売れる本ないですからね。
高橋:最後に2人で握手とかしてもらって良いですか?
(津田さんと大坂さんが握手する)
津田:ありがとうございました。
高橋:感動の瞬間じゃないですか。
津田:本当に出せて良かった。
高橋:どうもありがとうございます。3年かかった上に、今日はわざわざ来ていただいてありがとうございました。ということでお送りしてきました「津田ブロマガ eXtreme」、いかがだったでしょうか?
津田:コメントで「ビンタは?」って、ビンタコールがありますけれど……。
高橋:最後は流血で終わるはずだったんですけれどね。これからも、こんな感じでチャンネル会員向けのコンテンツを充実させていこうと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
津田:月に1回、高橋さんをアシスタントにお迎えして放送していきます。それとは別に、俺と香月のむさい感じで、メルマガが出た後には「ネオローグユニオン」という番組を放送していますので、そちらの方も見ていただければと思います。
高橋:番組へのご意見、ご感想もお待ちしております。ツイッターではハッシュタグ「#tsudamag」を付けて、つぶやいてください。というわけで今月はここまでです。よろしいでしょうか?
津田:あと5人か10人入ったら、最後に僕がビンタされて終わるのでどうですか? でも、これ有料放送だから、もうしょうがないんですよね。ビンタされ損ですね。
高橋:じゃあ次回ですね。
津田:次回ですかね。何のために?
高橋:というわけで、ここまでです。ありがとうございました。
津田:最後に香月からePubの進捗状況を。
香月:一応、あとはパッキングするだけです。
津田:日付は変わってしまいましたけれど、そろそろメルマガが出ると思います。そして、僕も今週頑張ります。頑張ってほかの号も出すぞ。あと2号? 最低でも1号? 無理なら……。いや、出します。
高橋:それと、おいくつになるんですか?
津田:39歳になります。
高橋:おめでとうございます。アラフォーですね。
津田:良い1年になると良いな。30代最後の年を、この『ウェブで政治を動かす!』とともに駆け抜けていきたいと思います。
高橋:かっこ良い。じゃあまた来月お会いしましょう。
津田:『津田ブロマガ eXtreme』は、これにて終了です。どうもありがとうございました。
高橋:さようなら。
(放送終了)