破壊衝動はしばしばやっかいなものだと捉えられがちだが、自らの内で沸き起こる衝動にしかと目を向けることは、実は現状を打破する力にもなる。
AV女優としてトップクラスの人気を誇るも、2009年、GEISAIでのリリー・フランキー賞受賞をきっかけに写真家としても注目を集め、2014年には、以降のメイン活動を音楽にシフトすると発表した照沼ファリーザさんも、強い破壊衝動を武器に新たな世界への扉を開き続けている一人だろう。
破壊と創造を繰り返しながら、彼女は何を想い、どのように変化しているのだろう? 興味深い側面に迫った。
――『照沼ファリーザと宗教』(=照沼ファリーザ、大川一人による音楽ユニット)では作詞やボーカルを務めるなど多彩に活動されていますが、もともとAV以外にも、なにかを表現することへの関心が高かったのですか?
音楽活動に関しては、歌詞やうただけでなく、写真や映像などのいろいろな表現を通して複合的に自分のイメージを伝えられることに魅力を感じています。文章を書くことに対して苦手意識があったんですけど、やってみたら意外と作詞って楽しかったんです。
はじめたきっかけは、(大川さんに)「一緒にやらない?」って誘っていただいたことでした。ちょうどAV女優としての活動もやりきったなぁという感じになってきて、写真作品で個展を開催したり写真集を出版したりもしたんですが、写真家になりたかったわけじゃないから、写真での表現にもある程度満足して、次はまた違う新しいことにチャレンジしたいな...って思ってたところだったのでタイミングもよかったんだと思います。
――表現の手法よりも、何を表現するかが大事なんですね。
そうですね。AVでは、自分は雇われたモデルなのでメーカーや監督さんの表現したいイメージを代弁することが使命でもあったんですが、仕事で演じるキャラクターと実際の自分のキャラクターは違うし、「自分だったらこういうテーマでこういうモチーフで撮ってみたいな」っていう想いが膨らんできて、単純に自分のスタイルで表現したくなったんです。
――どんなことを表現してみたいと思ったんですか?
エロスから派生するイメージですね。そういうことに興味があるっていうか、コンプレックスでもあるから気になるって感じ。捉えようのないすごく大きな力、生命力みたいなものが、自分を翻弄しているように感じるんです。そういう感覚って自分で操作できるものじゃないし、日によって感じ方も変化するっていうか。
例えば、エロスを魅力的だと感じて自分らしく演出したくなるときもあれば、そういうことは汚らわしくて気持ちが悪いから、考えたくないし関わりたくないと思うときもありますし。自分はそれが好きだから表現したいのか、嫌いだから客観的に表現できるのかさえ未だに分からないからこそ、興味が尽きないのかなとか。
作品を創るときには、その驚異的なエネルギーと複雑な感情に翻弄されてる自分を客観的に見ながら、表現したいイメージに落とし込んでいくような感覚があります。
――AV作品に出ていた当時は、エロスをどんなものだと捉えていましたか?
デビューする前はAVを観るのが好きだったんですけど、段々「この作品を企画した人はすごいな」とか「ここはこういうふうに演じたらもっとエロいのかな」とか制作側の目線で考えるようになって、あるとき魔がさして(笑)衝動的に女優募集に応募してしまいました。でも、初めての作品を撮影したときは、ただ恥ずかしくて気まずくて、「恥ずかしい」と言うことさえできなかったんです。自分の魅力を活かして、自分が思うエロスを表現したいと思って応募したのに、実際に撮影を体験したら何もできなくて悔しかったんです。だからこそ、悔しい気持ちが原動力となって意欲的に続けられたんだと思ってます。
その過程で分かったことは、「周りを知ること」はエロスを表現するための一つの方法だということ。なんでかっていうと、周りを知ることで、自分のよさや自分にとってのエロスも分かってくるので、それに磨きをかけることができるから。
若いときって自分に自信がなかったり、ありすぎたりして本来の自分が見えにくいし、特定の人や社会に憧れを抱きがちだけど、私の場合は、経験を重ねていくうちに「この人たちってそんなに特別な人じゃないし、人それぞれでいいんだな」ってことが分かってきたんです。なにより、自分がいいと思えるものこそ一番なんだって確認できたっていうか。それが自信につながったから、自分なりのエロスを表現できるようになったと思ってます。自信がなければ自分にエロスを感じることも難しいですし、それを表現することなんてさらに難しいですからね。
100点をとれたことで、次のステップに進むことができた
――AVって、観た人からどんな感想を聞けたらうれしいものなんですか?
作品を世に出せば色んな感想があって当然ですけど、AVの場合、一番分かりやすい評価基準は「良かったか、良くなかったか」じゃなくて「ヌケたか、ヌケないか」。だから、単純に「エロい」とか「ヌケた」とかが一番うれしかったですね。本能に訴える部分って、すごく純粋だし信用できる部分だと思うから。グッときたというのがリアルに伝わる感じがして好きですね。本能的に感じてもらえたんだな、って。
だから撮影で辛いときとか悩んだときとかは、観てる人のそういう気持ちをイメージして、それをモチベーションにしてました。それでも、「今日は調子悪かったなあ」とかあるんですけど、1作品だけ、自分でもすごく満足できたものがあったんです。監督やスタッフ、男優さんたちが一体となって現場をつくってくれて、作品に入り込むことができたって感じで。そのときはすごく達成感があって、デビューした頃に感じたフラストレーションが消えていくのを感じました。満足のいく作品ができたら、その表現方法自体に満足してしまうので、その作品があったから未練なく辞められたのかなという気がします。
現状を変えたいから、うまくいったことにも固執しない
――日常生活でもフラストレーションを感じることはありますか?
何か創りたいとかこうなりたいとか思うってことは、現状に不満があるってことですよね。私の創作はマイナスの気持ちから始まるんですけど、「こうなりたい」が先にあるんじゃなくて、現状のもやもやした気持ちを吐き出すように形にすることで、その感情が昇華される感じがするんです。「作品を創りたい」よりも「この気持ちを何かしらの形にしたい」ということが先っていうことです。
それに、自分自身が1番の作品なので、特定の手法や職業に固執することで、逆に表現の幅を狭めてしまいそうで怖いんです。例えば誰かを好きになったとき、それを表現するために言葉で伝えたり、SEXで伝えたり、手紙を書いたり...それでも伝えきれないと思ったときに、歌を歌ったり絵を描いたりしたくなりますよね。そういう感覚です。それに、上手くいったものはあえて手放して、常に不安な気持ちと向き合うことで精神的に自分を高めていきたいという想いもあります。
――不安になることはないですか?
気に病みがちな性格なので、不安定になりすぎないよう、毎朝欠かさず自宅でヨガを1時間やって精神状態を整えてます。思い詰めて考えすぎてしまうと頭がのぼせてきたり、自分のイメージと現実世界がどんどん離れていったりしちゃうんですけど、それを防ぐためにもヨガは有効なんです。「自分はここにいる」ってことを確認する気持ちで、身体や呼吸に意識を集中させています。
家にいるときは、これから創りたいものや挑戦したいことをイメージすることで活力が出てきます。2015年はライブ活動にも力をいれていきたいし、ブックレットや映像付きの音源も発表したいと思ってるんです。
――創作の源はどんなものでしょう
20歳くらいまでは自分以外の人間の思想や表現にも興味があったんで、映画を観たり本を読んだりもしたんですけど、それ以降は、もっと「純粋なもの」の方に関心が向いていきました。自然とか花とか動物とかそういうものを「感じる」ことで1番心が動きます。自分の身の周りにある、「五感に触れるもの」へのこだわりも強いです。着るものや寝具の色味、素材もそうだし、目に映るデザインや香りなどに対しても神経過敏です。昔からそうなんですけど、年々その傾向が強まってる気がします。いつも気にしてると感覚が鋭くなってくるんですよ。(色味や香りなどの)微妙な違いで、気分が良くなったり悪くなったりしやすいです。もうちょっと五感や神経が鈍感だったら、こんなに楽しめないだろうけどもっと生活が楽なのにな、みたいな(笑)
――独特の感性でこだわりぬいた結果、これからどんな作品が生まれるのか楽しみです。
そうですね。作曲をお任せする分、歌詞や映像作品にも時間をかけていいものを創っていきたいです。メンバーの作曲家さんも感受性の強いタイプで、私の言ってることや魅力を良く理解してくれるから、一緒に作品を創っていきやすいと感じてます。そういう出会いがあるってとてもありがたいことですよね。
【照沼ファリーザProfile】
2009年、日本最大級の芸術祭「GEISAI」にてセルフポートレイト作品がリリー・フランキー賞を受賞。国内外の数々のメディアに取り上げられ、各地で個展を開催。2011年、写真作品集『照沼ファリーザのワンダーランド 食欲と性欲』(イーストプレス)刊行。2014年、大川一人との音楽ユニット「照沼ファリーザと宗教」で活動開始。また、2014年までの7年間、別名義にてAV女優、モデルとして第一線で活躍。