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楽しいけれど面倒なSNSとのつき合い方:高橋暁子×米田智彦 対談

2015/01/31 21:00 投稿

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taidan0116top.jpgネット依存のもとになると指摘され続けているスマホやソーシャルメディア。しかし使いこなせば人生を豊かにしてくれるのも確かです。

昨年12月に『ソーシャルメディア中毒-つながりに溺れる人たち』(※以下『ソーシャルメディア中毒』)を上辞した元小学校教員のITジャーナリスト高橋暁子さんと、著書『デジタルデトックスのすすめ 「つながり疲れ」を感じたら読む本』(※以下『デジタルデトックス』)が話題の米田智彦さんが、今の時代におけるネットとの付き合い方の極意について語り合いました。

ネット中毒になるのは当たり前

米田:最近、ネット中毒やネット依存という言葉をよく目にするようになってますが、僕は中毒になって当たり前だとも思っているんですよ。だってこんなに面白いものはない(笑) いろんな人と知り合えるし、ゲームもできるし、映像も見られて音楽も聴けたら楽しいに決まっていますよ。

高橋:これだけ色々できるので、外出する時にお財布よりもスマホを忘れた方が心配になるというのはよく分かりますよね。子どもでも小学校3年ぐらいからLINEをやりたいって言い始める子は多いですよ。

米田:人間ってぺちゃくちゃしゃべるのが本能的に楽しいと思うんですよね。

高橋:昔だと友だちと朝まで長電話したとか、それと同じですよね。

米田:それから、よく「今の若い人は物を買わなくなった」と言いますけれど、そういう文化や消費行動の根幹には、ぶっちゃけて言うと、若い人にお金が行っていないからという大前提がある。でもネットなら無料でできる色んな楽しみがあるので、お金がない若い人たちは当然そこに居続けるんだと思います。

でも、調べ物ができたり自分の人生にプラスになることもあるけれど、役にも立たないことも本当に多くて、それに人生を費やすには時間がもったいないと我に返る瞬間があったんです。やっぱり僕は疑似体験よりも実体験をしたいから。

そして経験というのは記憶に残る。なぜならすべて一期一会で、コピペや再生不可能だからですね。なので、単にネットに入り込むためではなく、リアルにつながるためのトリガーとしてスマホを使う、という前提をみんな、もう一度把握しといた方がいいんじゃないかなって思いますね。


250taidan0116takahashi.jpg高橋:本当にそうですね。私がSNSにはまったのは、mixiがリリースされた頃。ちょうどライターとして駆け出しの時期です。マスコミへのツテも無かったけれど「本を出してみたい」と思っていた時に、mixiのオフ会から始まったご縁で著書が出せたのでSNSってすごいなと思いました。

このようなこともできるのがSNSだと思うので、ネットだけの交流で完結するんじゃなくて、実際に人に会って自分の想いを叶えていったり、自分の人生をプラスに変えていってほしいと思いますね。

ネットで掘り起こされる過去と、作られる「事実」

米田:ときどき「Facebookのアカウントを消します」という人が連絡をしてくると、ああ、何かあったんだろうなって思います。ソーシャルメディアに疲れたとか人間関係や恋愛がもつれたのかな? とか。

恋人と別れた後で気持ちを切り替えたくても、ついその相手の行動をネット上で見てしまう。いや、見たくなくても見えてしまう状況さえある。そういう人が何十万人といると思いますよ。

高橋:そういうのはmixiの時代から脈々とある話ですね(笑)

米田:「大学デビュー」ができないという話も聞きますね。たとえば、中高時代にいじめられていた子が大学進学の際に人生を切り替えて新しいことをやろうと思っても、ネット上に過去の自分のアーカイヴがあるから、「お前そんなキャラじゃなかったじゃん?」と突っ込まれてしまう。

あと、合コンで、みんな事前に参加者をSNSで調べてくるから、相手が期待する自分のキャラを破れなくて素の自分を出せずに困るという話を聞いたことがあります。そんなの破ればいいと思うんですけどね(笑)

高橋:色んな場面で煩わしさがあるからネット上にある自分の過去の記録を消したいと思っている人はたくさんいますね。 炎上してまとめページを作られて困っている人がいますが、世界的にもカリフォルニア州でSNSの削除ボタンをつけさせる「消しゴム法」ができたりとか、 Googleの検索結果から過去を消す「忘れられる権利」などの流れがあります。

米田:僕も昔のツイートとか見られたくないもん(笑)。 だって10年前と今じゃ自分のリテラシーや立場、社会的な状況も全然違うじゃないですか。5年前はTwitterなんてよく分からないまま使っていたのを、今になって「ライフハッカーの編集長(※2014年3月就任)が過去にこんなことを言っていた」とか掘り起こされても、それは確かに事実だけど、そんなことをいちいちやられたらたまらない。

それに、たまたま誰かと一緒に写った写真を、「元恋人です。この人に捨てられました」とか言われてネットに上げられる可能性だっていくらでもあるわけじゃないですか。

高橋:ネットでのねつ造は怖いですね。女子高生コンクリート詰め殺人事件の犯人と言われてネットで叩かれ続けたスマイリーキクチさんの話なんかは事件当時にネットが無かったことの影響が大きかったと思います。もしあったら、ほぼ100%真犯人の顔写真やプロフィール、家族の情報までネットで出回っていたはずですから。

事件が残虐なのに犯人が未成年で顔が見えないと「犯人はどんなヤツなんだろう」と想像ばかりがふくらむし、出所した犯人がもしかすると隣にいる人かもしれないという怖さから、どうにか突き止めて「目に見える悪」にしたかったという集団心理が働いたのだと思います。

米田:あの事件は標的ができるとみんなそれに乗ってしまって、日常生活では考えられないような酷い事をネット上だと平気でしちゃうということの証左だとも思います。今Twitterとかで次々と食品への異物混入が指摘されているけれど、あのムーブメントも若干似ているところがあると思いますよ。

そういえば、こういうこともありましたよ。僕が前に小籠包を食べに行った時に歯が入っていて、「これ、歯が入っていますよ!」って怒って、新しい小籠包をもらい直したことがあったんですよ。それで帰って見たら自分の歯が抜けていたんですよ。俺の歯だったと(笑)

多分似たような勘違いだって結構あるんじゃないかと思うんです。企業とか公のものを叩くのってコストゼロの鬱憤晴らしだから、ノリに乗ってムーブメントとしてやっちゃっているじゃないですか。でも、食品産業なんて工場だってたくさんあるんだから、何かが入っている可能性はゼロじゃないわけです。

一方で僕の知人が、ある日レンタカーを運転していたら事故ってしまって修理代に十数万円かかってしまいましたと。「つきましては、皆さん1000円ずつ振り込んでいただけないでしょうか」と、ネットに口座名と本名を書いて寄付を募ったんです。それで、コメントを見たら「今振り込みました」とか書いてある、牧歌的な風景もまだまだネットにはあるわけですね(笑)

高橋:本名と口座名を晒したら意外と集まったっていうのありますよね(笑)

米田:「金くれ」って有名なサイトがあるんですけれど、ネットにはそういうことを面白がる文化も脈々とあるんです。でも、その一方でスマイリーキクチ中傷被害事件みたいなのもあるし。ネットって人間の持つ良い面も悪い面も増幅させてしまう所があるから、光も闇もどちらも両極端にあるんですよね。

言葉で殺したり殺されたりする時代

米田:今、LINEのもつれで、毎日毎分どれくらいもめ事や事件が起きているのかなって思いますね。でもそれはLINEが悪いわけではないんですが。

高橋:最近は事件にちょっとでもLINEが関係すると「LINE殺人」とか言われてしまいますが、昔も今も殺人事件や自殺の原因をたどると、LINEに限らずコミュニケーションの問題がある場合が多いですね。

米田:子どものネットいじめというのは、今どういうところまで行っているんですか?

高橋:コミュニケーションツールのメインが今はLINEなので、LINEいじめはすごく多いですね。LINEのグループからその子だけ外して、その子の悪口を言うとか、その子のトークだけシカトするとか、クラスのグループでその子の恥ずかしい写真を共有しちゃうケースが多いです。

米田:『デジタルデトックスのすすめ』の取材で出会った熊野宏明先生という早稲田大学の先生が「書き言葉がこんなに氾濫しているのは多分人類史上ないことで、それはすごく怖いことだ」と言っていたんです。言葉の持つイメージだけが一人歩きして、ネガティブな過去の「反芻」と将来の「心配」といった負の感情が増幅されると。

今は本当に呪術のように言葉で殺したり殺されたりする時代なのだと思います。口で言うのと書くのって全然違っていて、相手を罵ることを対面でじゃれながら言えても、それを文字として書いて送ったら相手の受けるダメージってすごいじゃないですか。

高橋:攻撃力が一気に増しますね。

米田:そういうことを誰かが子どもに教えないといけないんですよね。

高橋:クラスの中でネットいじめの疑似体験をさせて、「書いたら言うよりもキツいよね」とか「しかも読み返せるよね、嫌だよね」と、その衝撃を味わうことをさせる先生は一部います。

米田:たとえば僕がテレビやトークショーに出たりすると、ドキッとするぐらい酷いことをネットで書かれることがあります。Twitterのタイムラインを見て「えっ?」って一瞬思いながら受け流していますが、似たことを普通の人が普通に経験している時代なんです。

高橋:ネット上だったら、有名人にだったら、何を言っても許されると思っている人はいますね。自分に対する欲求不満や満たされない気持ちをぶつけてスッキリさせる代替行為なんですよね。

米田:メンタルヘルスとSNSは結びつきやすい部分はありますよ。

高橋:そうですよね、SNSで絡めば構ってもらえるので止められなくなるんですよね。

米田:ネット上で饒舌になる人ってリアルであまり話せない人が多いんじゃないかなって、自分も含めてそう思います。でも考えてみりゃ当然ですよね。リアルでのコミュニケーションが充実していたら、ネットでのコミュニケーションをそこまで求めないと思いますから。

高橋さんの本の2章に「止まらない承認欲求の連鎖」とありますが、僕の本でもそこはすごく触れています。SNSを通して自分をブランド化する心理が働いていると思うんですよね。「こんな私を認めて愛して」というのは、ネット上に昔からある欲求の渦で、日々流れてくる事件のニュースを眺めていても、「一億総承認欲求」の時代なんだなあと思います。

高橋:特に今は注目度が数字で見える上に他人と比較できちゃうから、もっと反応が欲しくなっちゃうんですよね。

米田:今となっては懐かしい響きですがBBS、ネット掲示板の時代とは違うんですね。人気のある人とそうでない人との格差が出てしまう。

内省と実体験が情報化社会の次のフェーズを作る

250taidan0116yoneda.jpg米田:僕は自覚があるんですが、スマホを日常的に使うようになってから圧倒的に読書をする時間と気力が無くなりました。分断されていないリニアな時間に耐えられなくて、いつの間にか断片的で短い時間軸でしか情報を摂取したり物を考えたりできなくなっているんですよ。だけど大局的に見て創造的なことって思いつきじゃなくて、もう少し時間をかけて思考の井戸に降りていくような感じにならないとたどり着けないと思います。

高橋:本ってパッケージ化された世界観があって、そこから得られるものがすごく大きいんですよね。

米田:時間の経過を伴わないと理解できないことは確実にあるので、分断的に読んで情報を摂取するのと、長い時間をかけて通しで読んで消化していくのとでは、ぜんぜん得るものが違うと思うんです。でも最近はネットのニュース記事にでさえ、冒頭に「ざっくり言うと」という要約がついていますよね。

高橋:本文を読まなくても、その部分だけ読めばわかる気がする。でも読書体験は通しで最後まで読むことで初めて作者が意図したのと同じ体験にたどり着けるわけです。そのようにそのメディアを正しく受容しなくてはできない体験を捨てているんですよね。

米田:今はちょうど情報化社会の次のフェーズに来ていると感じていますが、僕は一方で安心している部分もあります。というのは、生まれた時からネットやSNSがあるデジタルネイティブ世代が、僕らの世代みたいにハマる人を実はちょっと小馬鹿にしているんじゃないかなと思うことがあるんです。こういうものに夢中になって抜け出せないのはバカな大人だけだと。これは使いこなすものであって、マジになってやるものじゃないぞと。

高橋:高校生の集まる討論の場なんかに行ったりすると「俺はLINEはやりません。LINEってハマると時間の無駄だと思うんで、やらないことにしています。友達からは電話をもらっています」と言う子はいますね。

米田:いますよね、そういうクールな子って。

高橋:それから「オンラインでもオフラインでも自分で責任を取れる行動をとればいいんだ」と、自力でその考えにたどり着けている子もいますね。

編集部:その一方で深刻な依存症になる人もいますよね。その差というのは、どこから生まれるのでしょうか?

高橋:体験からですね。楽しさもめんどくささも、色んなことを一通り体験した上で出した結論なのかなと思いますね。周りで起きていることから自分も学んでもいるので、良さも悪さも含めてネットの本当の姿を分かっているのだと思います。

米田:今やネットにのめり込む人は脇が甘い(笑)。交通ルールがわかってなくて車の運転するようなものです。で、分かっている人や若い子はもう次のフェーズに行っていて「俺、LINEはやらないっすよ」とか言っているんですよ。たとえば、サバゲーをやったりとかカブトムシを捕まえたりとか、リアルで夢中になることをしていると思う。今はそういうクールな小中学生がいっぱいいると僕は思います。

楽しくも面倒なソーシャルメディアと生きるために

高橋:上手に使いこなせる人がいる一方で依存しちゃう人もいるのは確かです。特に子どもには多いので、そこは大人が手助けしたいですね。

米田:簡単にできるアプローチとしては、自分が何時間スマホに時間を使っているのかを書き出してみると、自覚している以上に無駄な時間を費やしていることが客観的に見えてきます。この時間を他のことに費やしたら、何ができるのか考えてみるといいと思います。後は家族や編集部員からは怒られるかもしれないけど、スマホを置いて一日どこかに行ってみるのがいいなって思う。迷ったら聞けばいいだもん、駅員に。

高橋:持っていないといけないという強迫観念みたいなものを捨てて置いていくと意外と大丈夫ですから。

米田:腕時計と財布があれば大丈夫。思い切って離れると少し精神的にリフレッシュできると思います。都市空間にいると離れるのがむずかしいので、休日とかに休肝日ならず休デジタル日みたいな日を作って、自分を取り戻すみたいなことを子どもも大人もした方がいい。特にメールやネットが仕事で欠かせない人ほど、自分でそういう時間を設けた方がいいんじゃないかと。

高橋:大人がネット中毒になっていると、幼児でも親を見てそれを真似するんですよ。それで気がついたら子どもの方が使いこなして勝手にゲーム課金をしちゃうとか。これは実際に国民生活センターに報告されているんですけれど。あと自分が本を読む姿も見せないでソーシャルゲームをやっている親のもとでは子どもも本を読まないんですよ。

なので、自分の姿が子どもや若い人の目にさらされていることを自覚して、それがどんな影響を与えるのかを考えてほしいですね。あと、ネットを切っても人間関係は切れないので大丈夫です。

米田:「ソーシャルメディアは楽しい、そして面倒くさい」これに尽きると思います。スマホってすべてのエンターテイメントが入っているから、だからこそ意識的に距離感をとらないと吸い込まれてしまいますね。デジタルデトックスをして分かったことは、「デジタルデトックスができるということが分かった」ということです(笑)。その自信があれば、いつでも戻ってこれるじゃないですか。


sma002.jpg『ソーシャルメディア中毒-つながりに溺れる人たち』
高橋暁子 著
定価 :778円+税
出版社:幻冬舎
出版日:2014年12月5日
ISBN :978-4-344-97951-2 C0295


digitaldetox.jpg『デジタルデトックスのすすめ 「つながり疲れ」を感じたら読む本』
米田智彦 著
定価 :1300円+税
出版社:PHP研究所
出版日:2014年1月28日
ISBN :978-4-569-81699-9 C0034

 

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