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障害者にも「当たり前の」性サービスを届けたい【坂爪真吾 INTERVIEW】

2014/12/06 22:00 投稿

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先週からお届けしている松本玲子さんによる短期連載。インタビューを通して、セックスワーカーやカメラマン、福祉関係者などさまざまな立場で性に関わる人々を追っていきます。今週お話を伺ったのは、障害者の性の問題を解決するための非営利組織・ホワイトハンズの代表理事を務める坂爪真吾さんです。

弱者の支援を謳う団体は数あれど、当人たちが真に必要とすることへのサポートが足りているかというとそうとは限らない。こと障害者の支援においては、衣食住に関してはさておき、精神面、特に性的満足を得るための支援は全く足りていないのではないだろうか。

そうした世情を憂い、障害者が抱える性の悩み解消への第一歩として、男性重度身体障害者のための射精介助サービスを始めたばかりか、批判的な声を物ともせず、「望まないヴァージン(童貞・処女)」を減らすための学校「ヴァージン・アカデミア」を立ち上げるなど、他に類を見ないサービスを展開し続けている一般社団法人ホワイトハンズ。

学生時代から性風俗産業の研究を始めたという代表理事の坂爪真吾氏は、性サービスが提供される現場でどんな現実に出合い、どんなことを思ってきたのだろう。

現在の風俗産業は関わる人すべてが不幸になる

――射精介助サービスを思いついたきっかけを教えてください。

大学在学中に、歌舞伎町の性風俗産業についての研究を行っていたのですが、その過程で、現在の性風俗産業は、「関わった人全員がもれなく不幸になる」という問題を抱えていることに気付いたんです。それで、大学卒業後、性に関するサービスを「関わった人全員がもれなく幸せになる」ものにシフトさせたいと思い、起業を決意しました。

そのためにまず必要だったのは、性サービスの可能性を広げることでした。というのも、それまで風俗というものはすべて、アンダーグラウンドであり娯楽であり、つまりは「エロ」でしかなかったんです。山ほどある風俗店のうちただの1店舗も、「風俗で誰かを楽にしたり、誰かを救ったりする方法」について模索していなかったということです。

そこでまず思いついたのが、射精介助に特化したサービスを提供することでした。

――もともと障害者の方が性風俗を利用することはなかったのでしょうか?

もちろん利用している人も中にはいるんですが、なにかあったときに責任を持てないとの理由から、障害者の利用をNGとする店も多いんです。

でも、そうなると、自力で射精行為ができない障害者は他に助けを求めようがありません。なぜなら、介助者や支援者、施設職員には、障害者の性に対して理解がない人も多いからです。

――実際にサービスを始めてからは、利用者からどんな声が挙がっていますか?

「すっきりした」っていう声が一番多いですねやっぱり。あとは、自分の男性としての機能を確認できてうれしかったっていう声もありました。自尊心を取り戻したとか、自信が持てたとか。

長い人だと4~5年にわたって利用してくださっている人もいますが、より多くの人に気軽に利用してもらえるよう、できるだけ料金はおさえています。利用料は30分で2,800円。ケアが終わったら普通に世間話なんかされる方もいますし、そういった点は訪問介護と全く同じですよね。

「性」とは生活の一部という認識を持つのが大事

――サービスを提供する側を育てていくことにも注力されていますね。

日本初となる「性に関する問題解決のプロフェッショナル」を育成する通信講座「ホワイトハンズ・プログラム」を提供しています。

受講を通して、セックスワーカーとして活動するために必要な知識や技術、セクシャル・リテラシー(性に関する社会現象・問題の理解に必要な基礎知識と能力)を身につけることができるのですが、看護師、介護師、セックスワーカーを中心に、多くの方にご利用いただいています。

――実際に性に関わる現場で働いている方でも学ぶべきことは多いのでしょうか?

性風俗の現場はどこも、衛生管理が甘いんです。つまり、生を要求されることが多いということ。そもそも店が「生OK」としちゃってる場合もありますし、性感染などの問題が起きたとしても、店側は何もしてくれないばかりか警察も何もしてくれないんで、自分で身を守るしかないんです。

とはいえ、無店舗型の店が増えて価格競争も起こっている時代ですし、少しでも多く稼ぐために危険を顧みない人も多いのが実際のところです。

――セックスワーカーが、自分で自分の身を守るためにはどんなすべがありますか?

ソープだとか、生じゃないサービスを提供する店を選ぶことも一つの手ですね。

日本と海外のセックスワークのもっとも大きな違いに「風俗の有無」があるんですが、どういうことかというと、海外ではセックスワークというと売春のみですが、日本では、挿入行為がない風俗店というものも一般的です。

1950年代に売春が法律で禁止された後、挿入行為がないサービスを追求した結果として誕生したのが風俗なんですが、風俗っていうカテゴリーがある日本って、ある意味一番進んでると思います。

――今後、セックスワーカーたちが安心して働けるようになるためには、どういう制度が必要だとお考えですか?

僕自身の目標でもあるんですが、セックスワークに関する新しい法律を作れたらと考えています。風営法とか売春防止法のようなものではなく、性風俗の世界で働く人の権利や健康を守るための法律です。

つまり、風俗に関する規制を掲げるのではなく、「性労働基本法」といえるようなものを作りたいんです。現場で働いている人たちの視点に立ち、どういうルールがあれば安心して働けるかを考えるだけでなく、利用者の視点にも立って、どういうサービスであれば安心して利用できるかも考慮したいですね。

障害者の性問題に関しては、行政の理解も含めて、制度化を実現させたいという目標があります。そのためには、これまでタブー視されがちだった性関連のサービスを「当たり前のもの」とする考え方を普及させることも大切。

事実、「性=当たり前のもの」と捉えていない人って非常に多いように感じるのですが、僕は、「性」って生活の一部だと思うんです。決して非日常的なものじゃないし、特殊なものでもないじゃないですか。それを変に崇めたり蔑んだりするのはおかしな話。誰にとっても日常的なものだし、自然体でつきあっていくべきものだと思うんです。

望まないヴァージンからの卒業をサポート

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――「ヴァージン・アカデミア」の立ち上げや、障害者も参加可能なヌードデッサン会の開催も、そうした思いがあったからなのでしょうか?

「ヴァージン・アカデミー」では、ヴァージンであることを気に病んでいる人から、不当な劣等感を取り除いてもらうために正しい情報を提供しています。その上で、ヴァージンからの卒業を望む人には適切なアドバイスも行います。

といっても精神論臭い話ではなく、出会いが起こるような場に行くことを提案するということ。その行動を起こすことによって、「望まないヴァージンからの卒業」もぐっと早まりますし。


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ヌードデッサン会は、もともと知的障害・発達障害のあるお子さんの性教育の一環としてスタートしたものなんですが、今では、モデル参加を含めて幅広い世代の方にご利用いただいています。

障害の有無を問わず誰でもご参加いただけますので、興味のある方はぜひ一度参加してほしいですね。次回は12月14日に東京都杉並区での開催を予定しています。僕も参加しますので、ホワイトハンズの活動に興味がある方もぜひ遊びにいらしてください。


【坂爪真吾 Profile】
danshinoteisou.jpg東京大学文学部在学中に、歌舞伎町の性風俗産業の研究を行ったことがきっかけとなり、「性産業の社会化」をテーマに起業。2008年、障害者の性の問題を解決するための非営利組織・ホワイトハンズを設立。年齢や性別、障害や病気の有無にかかわらず、すべての人が生涯にわたって「性に関する尊厳と自立」を守ることのできる社会の実現を目指し、日夜奮闘中。著書に、『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館101新書)などがある。

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