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第五回 ほとんどの人が知らない「リスク」の三つの意味

2014/11/02 19:00 投稿

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前回、リスクについて書くと申しました。一般的に使われているリスクと、投資の世界で言うリスクって異なると。

正しくいうと、投資の世界で使われている「リスク」には三種類あって、それぞれ前提なしに使われることがあるので、文脈や、それを言っている人のバックグラウンドを知らないと、違う意味にとってしまうことがあります。

一つ目は「おっかないこと」

投資の世界で使われるリスクの一つ目は、普通に使われているリスクと同じ意味です。おっかないこと、ひどい目に遭いそうなこと。

たとえば株式投資はリスクが高い、と言った時に、「うちの親父が株やって破産してさぁ」「やっぱ株式投資はリスクが高いよね〜」という時のリスクです。しかしながらこれは、一般の投資家が感想程度に使う「リスク」です。

二つ目は、管理できるリスク

二つ目の使われ方は、「株式って、すっごく上がることもあるけど、暴落することもあって、値段の動き方が激しいよね」「債券はそれに比べればリスクが低いよ」という時のリスク。

これは、価格の変動性の大小を比べる時に使うリスクです。また、このような意味で使うリスクの中には、一定の関係性を見いだして回避したり、もっとも極端な場合には、なくしてしまうことが可能なリスクもあるのです。

たとえば、株式に投資していた場合、それと逆の値動きをする資産を買っておけば、株が上がればその資産は同じだけ下がり、株が下がればその資産は同じだけ上がるので、両方を合わせた資産の価値は一定になります。これは、株式指数と同じ値動きをする株式先物を「売り建てる」ことで実現できます。

これは第一の意味の「おっかない」リスクを消滅させることができるということです。でもその代償に、何も儲からなくなってしまいます。これをリスクゼロの状態と言えますが、それではそもそも投資をする甲斐がありません。


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他のリスク回避の方法として、コールオプションという特殊な金融商品を購入する方法もあります。コールオプションを買うと、相場の下落ではダメージを受けず、相場の上昇だけを享受する、といった損益特性を実現できます。これは素晴らしい。

ただし、オプションは購入に費用がかかります。相場が下がる局面では、その商品自体のダメージはないのですが、購入費用の分だけ損します。ですから、相場が相当上がらないと利益が出ません。相場が上がっていった場合には、普通に株を買っていたより、費用の分だけ割り負けている訳です。世の中、上手い話はないですね。


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分散投資によるリスクの軽減

リスクは、別の形で軽減することもできます。それはたとえば、お互い異なった要因で値動きする複数の資産を合わせて持つことです。これを分散投資といいます。

それぞれ50%の確率で上下に同じ幅だけ値段が動く、二つの異なった資産を持っているとしましょう。一つの資産が値下がりしたとき、もう一つの資産はどうなっているかわかりません。上がっていることも、下がっていることもあるでしょう。

両方一遍に下がっているときは、一つの資産を持っているのと同じだけ値下がりします。この確率は25%です。両方一遍に値上がりしている確率も25%。片方が下がっているときに片方が下がっている確率は50%で、資産の値動きはありません。

片方だけ持っている場合にくらべて、なんとなく、総資産の値動きは抑えられそうです。

しかも、それぞれの資産が、長期的には成長する傾向があるものであれば、リスクを抑えて安定的に資産を殖やしてく方法が編み出せそうです。こうした仕組みを利用して、運用を上手くやろうという方法を、金融工学といいます。

このように管理することのできる「リスク」という考え方もあるのです。

でも結局は...世の中何が起こるか判らない

しかし、こうした分析にもかかわらず、金融工学を駆使した専門家がよく破綻しています。たとえば、リスク管理の研究でノーベル経済学賞を取った先生が経営に参加していたヘッジファンドも、リスクに直撃されて破綻しています(ロングタームキャピタルマネジメント(Long-Term Capital Management、LTCM)の破綻。詳しくはググってみると色々出てきますよ)。

これは、1997年のアジア通貨危機から、ロシア危機といった予測不能な経済ショックの直撃を受けたからです。それぐらいプロなら予想しろ、という後講釈は、あんまり生産的な結果をもたらしません。

相場は一寸先は闇。リスクヘッジをしているから大丈夫、とはいかないものだと心得てください。

なお、リスクが怖いから私は投資など致しません、といったところで、リスクが去っていくわけではありません。

たとえば、一所懸命現金を貯め込んでいても、急なインフレが起これば、その現金の購買力は減ってしまいます。株式は一般にインフレヘッジ資産といって、物価が倍になれば株価も倍になる、というような緩い関係があるようにも言われます(そうなるとも限らないリスクもありますが、なんでそう言われるかは、おいおいご説明します)。

でも現金は増えません。そういった時には、株式投資をしない方が、購買力が減ってしまうリスクを抱え込んでいることになります

また、現金の保有も、株式や債券といった有価証券への投資も、不動産投資もバランス良くやっていたところで、全部の資産が一遍に急落するリスクだってあります。実際、リーマン・ショックのときには、分散投資は効き目が薄かったです。

さらには明日、家の壁を破って突っ込んで来たトラックに押しつぶされて死んでしまうかもしれません。そんなリスクは、投資理論などではどうにも回避できません。

これが最も本質的な「リスク」。世の中何が起こるかわからない。これが第三の意味でのリスクなのです。

 

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