高値掴みの罠について、前回の「第二回 「儲かりそう」な商品は大抵の場合、そんなに儲からない?」に書きました。
では、実際に、どの程度ヒドい目にあうか、調べてみましょう。といっても、調べたのは私ではなく、金融庁というお役所です。
銀行、保険、証券会社といった金融機関は、金融庁の管轄下にあります。金融庁は、金融市場が円滑に機能し、その受益者である一般国民や企業にとって使いやすく公正に保たれるようにすることに責任を持っています。
ついでに金融市場の振興もできれば、なおよろしい。そういう立場です。私が働いている資産運用業も、同じく金融庁の管轄下にあります。証券会社と資産運用業は、金融商品取引法という法律に規制されています。
さて、金融庁は毎年、「金融モニタリングレポート」を出します。一番最近では、平成26年7月4日に出しています。
その中身をみると、私が申し上げた、売れ筋商品を勧められるままに購入すると、高値掴みであんまり儲からない、ということがはっきりわかるのです。
まず87頁に、こんな表が付いています。
これは、銀行でも売っている投資信託の売れ筋を年ごとにランキングしたベスト5です。本当は、具体的なファンド名があるわけですが、ここでは匿名化して、商品ジャンルだけ載せています。
これをみると、2009年はベスト5のうち、4本までが毎月分配型の外債ファンドです。また、その後は外国REITに投資するもの該上位に来るなど、人気の移り変わりが明らかです。
さて、こんな風に人気商品が変わるということは、以前の人気商品から、それらに買い換えている人がたくさんいるということでもあります。
投資信託(投信)は大抵、購入する時に手数料がかかりますから、投信が沢山売れると、銀行や証券会社には手数料がたくさん入ります。
でも、それなりにたくさん手数料を払っても、投資家が充分もうかっていれば、なんということもありません。より有利なものに乗り換えて、どんどん運用成果がよくなれば、万々歳です。
では、投資家の投資成果がどうなっているのか、金融モニタリングレポートを読み進めてみましょう。
88頁に、こんなグラフが出てきます。
これは、投資家の平均保有期間にもとづいて、それと大体同じくらいの期間(2年間)ごとに、その時点での売れ筋商品に乗り換えていったと仮定した投資収益のシミュレーションです。
この測定期間では、ちょっと儲かったあとに、同じくらいの損をし、その後なんとか盛り返してちょっと損が残ったというような結果になっています。
「分配金受取」と「分配金再投資」の違いも興味深いのですが、それは機を改めてご説明しましょう。
ここでは、投資成果の要因分解が下半分にあるので、それを見てみましょう。紺色のバーがファンド自体の投資成果です。プロがお勧めの、売れ筋の、「良い」ファンドばかり買っているのに、上がったり下がったりしています。
2008年に投資成果が急激に落ち込んでいるのは、「リーマン・ショック」という金融市場が崩壊寸前まで追いつめられた世界的なショックがあったためです。でも、「運用果実」と書いてある部分、要するに投資信託自体の運用成果は、なんとかプラスに持ち直しています。
では、なぜ投資家の損益がマイナスなのか。それは、金融機関に支払った「販売手数料」の項目のマイナス要因によるものです。
前回申し上げた「お客様にも儲かってもらいたい。そしてその対価として手数料をたくさんもらい、自社も儲かって、自分の査定もよくなったらいいな」という営業員の真摯なお勧めの結果がこれだということです。
営業員には別に悪意があった訳でなくても、販売手数料を上回る投資成果をアドバイスするというのは、実は大変に難しいことなのです。