【 はじめから よむ (第1回へ) 】
「世界一の酒場テーマパークを作りたいの!」
一階カウンター前で、なぜかドレアさんは泣きっ面の僕に対して夢を語り始めた。
なんですか酒場テーマパークって。ドレアさんは僕が、酒場が増築されたことに感動して泣いているとでも思ってるんだろうか。やっぱりこの人もなんかおかしい。ネジが二、三本吹っ飛んでる気がする。
「まだまだ増築するわよ!」
するのか。いや、増築はしてくれていいんですよ。いいんですけど、日を改めてというわけにはいきませんでしょうか。無理ですかね。ですよね。
壁はこんな色にして、こういうインテリアを揃えて、配置はこんな感じでと、あれこれ青写真を描くドレアさんに僕なんかが「増築をやめてくれませんか」などと言えるはずもなく、僕は精一杯の作り笑顔をしながらカウンター前を離れた。半泣きだったからきっと般若みたいな顔だったと思う。ダメだ帰ろう。
ゆうしゃは にげだした!
しかし ヨコリンに まわりこまれてしまった!
「逃げられると思ってるのか?」
またもビリジアンの彼、ゲヘゲヘ笑いながら登場。前門のドレア、後門のヨコリンである。
「ニンゲンから逃げてて、魔王になんか勝てるわけないだろ!」
ごもっともである。圧倒的にお前が正しい。でも、もう正しいことを言わないでくれ。正論は正しさゆえに凶悪だ。正しいから反論のしようがないのだ。
僕は、お前の、正しさがこわい!
「ゲヘヘヘヘ! 頼れる仲間を勧誘してくるんだぜ! 上へ行ってこい!」
ゆうしゃは おとなのかいだんを のぼった!
ゆうしゃは レベルが あがった!
ヨコリンに促されるままに、うつろな目で仲間を勧誘している間も、ずっとあの音が聞こえてきていた。酒場が増築されていく、忌まわしきあの音。
四階にいたのはユリウスという男遊び人と、アレゴポという男僧侶。二人とも、そこそこ面倒な人物だった。
ユリウスが あらわれた!
ユリウスが はなしかけてきた!
「このめ このはな このくちびる」
「ああ なんてうつくしいのだ わたしは」
ユリウスは てかがみを みながら うっとりした!
ゆうしゃの じゅもん!
「うつくしすぎるぜ」
ユリウスの こころにひびいた!
ユリウスに 80のダメージ!
ユリウスは たおれた!
ユリウスはとんでもないナルシストだが、顔は中の下といったところだ。僕なんかに中の下なんて言われてユリウスもたまったものじゃないと思いますが僕は下の下の下ですから。ゲゲゲの勇者ですからお許しください。
アレゴポが あらわれた!
アレゴポが はなしかけてきた!
「おとこは がいけん ではない!」
「なかみこそ じゅうようだ!」
アレゴポは はないきを あらくした!
ゆうしゃの じゅもん!
「イケメンをなぐろう」
アレゴポの こころにひびいた!
アレゴポに 87のダメージ!
アレゴポは たおれた!
アレゴポは中身を本気で磨いているのに、コミュニケーションがうまく取れず、中身まで見てもらえない男だった。あんまり中身中身言うからヒンシュクを買ってるのかもしれない。公衆の面前でこれ見よがしに自己啓発本を熟読していたのも、理由のひとつかもしれない。イケメンには悪いが殴らせてほしい。なぜって世の中はイケメンにばかり都合がよく出来ている気がするから。ごめんな! ただの八つ当たりだ!
息も絶え絶えの僕は、この二人を勧誘するのに二時間を要した。そして案の定、その階にいる全ての冒険者を勧誘し終わったと思ったら、タイミングよく五階への階段が現れた。
一体いつ最上階に到達できるのか。終わりなき旅、イン酒場。
泣きそうだった。というか実際ちょっと泣いていた。
とはいえ、嫌々ながら続けてきた交渉の中で、僕のレベルは上がり、新たな呪文を覚え、貧困だったボキャブラリーが徐々に増えてきていた。そしてこれは本当に不思議なことなんだけど、人間っていうのは適応能力がすごいんですね。明らかに嫌々やってたのに、少しずつ、本当に少しずつだけど、人と話すことに慣れてきてる気がした。
もちろん次の階が現れることは死ぬほどイヤだ。けど、次の階があるならあるで、なんとかなるんじゃないか。そんなふうに思えるようになっていた。病は気からという言葉があるが、実際気持ちが上向くと途端に体まで元気になったように感じることがありませんか。ありますよね。僕今そんな感じです。よし、行ける!
ゆうしゃは おとなのかいだんを のぼった!
ゆうしゃは レベルが あがった!
【 第14回を読む 】
・原作となるアプリはこちら(iPhone、Androidに対応しております)
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比喩表現がけっこう上手くて心地好い