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【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第8回】

2013/11/28 00:00 投稿

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はじめから よむ (第1回へ)

「あなた、死んでたわよ」

 またも死亡。またしてもドレアさんの声で目が覚める。

 僕はさっきと同じように、酒場のカウンターの前で横たわっていた。

 たかだか五分くらいの間に二回連続で死んだ。「死因は何だ?」「はい、自分が臭いのではないかという被害妄想による精神的ショックです」などと、僕の頭の中の刑事二人が話し合っている様子が浮かんだ。ダメだ。まさかこれほどとは。常々ガラスのメンタルだとは思っていたが、よもやここまで脆いとは。

「おいオマエ! 打たれ弱すぎるぞ! しっかりしろ!」

 師匠気取りのゴブリンが僕を抱き起こし、両肩をぐらぐら揺すってくる。

「いいか。次が三度目だ。三度目の正直だぜ。いってこい!」

 ああ行くよ。行くしかないもんな。

 だけどなヨコリン、いいことを教えてやる。

 三度目の正直という言葉、とても素晴らしい言葉だと思うよ。

 しかしな、この世には……二度あることは三度ある、という言葉もあるんだよ!

 

 マカロンが あらわれた!

 マカロンが はなしかけてきた!

「あの…… なんども たおれて だいじょうぶですか?」

「わたしに なにか ようじが あるんですよね?」

 ゆうしゃは なにをいえばいいのか まよった!

 マカロンの じゅもん!

「やっぱり くさいですよね」

 ゆうしゃに 9のダメージ!

 ゆうしゃは やけになったのか くるったように わらいだした!

 マカロンの じゅもん!

「ちかくによらないで」

 ゆうしゃに 37のダメージ!

 ゆうしゃは しんでしまった!

 

「あなた、死んでたわよ」

 ほらね。

 またドレアさんの声で目を覚ます。僕は酒場のカウンターの前。もういいよこのループ。

 もういいです。本当にもういいです。もう死にたくない。体のふしぶしが痛い。

 何度も死んでるのに体のふしぶしが痛いくらいで済んでることにむしろ感謝すべきなのかもしれないが、なんでこんなに死ななきゃいけないのか。もうね、臭いって言われすぎてさっきは笑えてきちゃったよ。こんな自分がふがいなくて。あと、徹底して匂いの話しかしないあの子にも笑えてきちゃってね。なんなのかね。鼻がいいのかねあの子は。僧侶辞めて臭気判定士にでもなればいいのにね。

 間接的にとはいえ、初対面で三回も卒倒させられた女の子に対して毒づきつつ、僕は四度目の勧誘をするために立ち上がった。一瞬、二階に行こうかと思ったけど、二階に行ったらまたあのヤンキーがいる。呪文だけではなく、殴る蹴るの暴行を加えられるかもしれない。ぞっとする。やっぱりダメだ。女の子からだ。

「オマエ、いい加減に学習しろ」

 近づいてきたヨコリンが、ため息をつきながら言う。

「あのオンナはずっと、私に何か用があるのかって聞いてきてるんだぜ!」

「オマエの用事を、ストレートに言えばいいだけの話だろうが!」

 わかってるよ。そうなんだよ。

 でも呪文を使うのは初めてなんだよ。不慣れなんだよ許してくれよ。

 僕だってがんばってるんだよ。ちくしょう。ちくしょう今度こそ。

「お? オマエ今、ちょっとだけイイ目になったな」

 え?

「ずっと死んでた目が、死にかけの目になったぜ!」

 どっちにしろ瀕死じゃないか!

 実際どんな顔をしているのか自分ではわからないが、ヨコリン曰く死にかけの目で、僕は再び女の子の前に歩み寄る。

 言うべき呪文は先に決めた。これで、勝負を、かける!

 

 マカロンが あらわれた!

 マカロンが はなしかけてきた!

「なんども なんども どうしたんですか?」

「あの…… ほんとに なんの ようですか?」

 

 なんの用かと聞かれたら、ひとつしかない僕の用。

 出来うるかぎりの思いを込めて。いけ、僕の初めての呪文!

 

 ゆうしゃの じゅもん!

「いっしょにきてくれ」

 マカロンの こころにひびいた!

 マカロンに 39のダメージ!

 マカロンは たおれた!

 

「うおおおおおお! ついにやったぜ!」

 僕よりも先にゴブリンが歓喜の声をあげた。耳元で叫ばれたので鼓膜が破れるかと思った。

 倒れた女の子が立ち上がり、こちらを見ている。

 仲間になりたそうかどうかは、わからない。

……勇者様、ですよね?」

 遠慮がちに聞いてくる女の子。僕は無言でこくりと頷く。

「やっぱりそうなんですね! 最初から、なんとなくそうじゃないかと思ってたんですけど」

 途端に女の子の顔がぱあっと明るくなる。

「一緒にきてくれって、言ってもらえて、うれしいです」

「私、マカロンっていいます。これからよろしくお願いしますっ」

 女の子は頬を赤らめながら、僕に向かってぺこりとお辞儀をした。

 

 マカロンを せっとくした!

 

 やった、ついにやったと達成感がこみ上げてくるのと同時に、僕の頭の中にある言葉が浮かび上がってきた。

 

 ゆうしゃは「じつはやさしいんだろ」を おもいついた!

 

 あまりにも突然の事だったので僕はびっくりして、何があるわけでもないのにあたふたと辺りを見回してしまった。ミュージシャンが作曲をしている時「メロディが降ってくる」という言い方をすることがあるが、それとよく似ていた。天から何かを授かったような感じだった。

 そんな僕の様子を見て、ヨコリンが言う。

「何か呪文を思いついたみたいだな!」

「オマエが経験を積むたびに余裕が生まれて、人と話すためのコトバをたくさん閃くぜ!」

 人と話す能力は、成長するのだ。僕は先ほどのマカロンとのやり取りを思い出し、僕でもやればできるのだと、感激に打ちふるえていた。しかも。女の子が。こんな同年代の女の子が僕に「これからよろしくお願いします」って、ほっぺたを赤くしながらお辞儀してくれたんだ。あんなにうれしい事、今までなかったよ。ああ。最高だ。最高の気分だ!

「ずいぶん楽しそうじゃねえか。ああ?」

 背後から、聞き覚えのあるドスのきいた声がした。

 一瞬にして硬直する僕の体。油の切れたゼンマイ仕掛けのロボットみたいにゆっくり振り向くと、そこには、さっき階段で僕に絡んできたヤンキーの姿があった。

「テメエ、まだここにいたのか」

 あわわわわわわわ。うわあ、なんで、なんであなたがここに。だってあなたは二階に。

「ちょうど良かった。さっき逃げやがったからな。オラ、テメェこっち来い」

 いいいいいイヤですぅぅぅ! どうか、どうかご勘弁を、なにとぞお慈悲を。僕はぶるぶると高速で首を振り、ヤンキーを拒絶した。が、逃げられなかった。望まぬ戦闘に突入した。

 

 ポマードが あらわれた!

 ポマードが はなしかけてきた!

「テメェ さっきは なんで にげた?」

「オレに なにか ようが あったんじゃないのか?」

 ゆうしゃは なにをいえばいいのか まよった!

 

 用があるかないかと言われたら、ある。ヤンキーだろうが何だろうが、酒場にいるのだからこのヤンキーも冒険者に違いない。ということは僕が勧誘すべき仲間候補のひとりなのだ。しかし、ああ、ヤンキーを勧誘するなんて今の僕にはハイレベルすぎる!

 

 ゆうしゃは がたがた ふるえている!

 

「なんだ? オレに何か用があるなら、言ってみろよ!」

 ヤンキーがニラミをきかせて言う。あまりの恐怖で、僕は頭が真っ白になった。

 

 ゆうしゃの じゅもん!

「すきだ」

 

「あぁ? 何が『好きだ』だ気持ちワリぃ! テメェふざけんじゃねえぞ!」

 

 じゅもんが ポマードを おこらせた!

 ゆうしゃは ふかく きずついた!

 ゆうしゃに 16のダメージ!

 

 ああああダメだ不愉快な気持ちにさせてしまったヤンキーとはいえ相手を不愉快な気持ちにさせてしまった。痛い。痛い痛い痛い胸が痛い。また死ぬのか。コイツにやられて僕はまた「あなた死んでたわよ」って言われるのか。嫌だ。そういえば僕はてっきりドレアさんが人工呼吸をしてくれたのかもしれないと思っていたけど今思えばヨコリンがやったっていう可能性もあり得る。嫌だ。死んでも嫌だ。いや死んでるけど。ああもうワケがわからない。

「おいオンナ! あの血の気の多そうなヤツは知り合いか?」

 ヨコリンが、マカロンにヤンキーの事を聞いているのが耳に入った。

「はっ、はい。いちおう。顔見知り程度ですけど……

「アイツはどんなヤツなんだ? 見た目通りのヤンキーか?」

「えっと……あ、この前は捨て猫にミルクをあげてたの見ました」

 えっ? 捨て猫にミルク?

「それと、お年寄りがお店に来たら、よく席を譲ってますね」

 お年寄りに席を? こ、こ、こ、コイツが?

「そういえばお年寄りに席を譲ったとき、ついでだって言って、肩を揉んであげてました」

 マカロンが話すヤンキー目撃情報を聞いて、僕は確信した。そうか、さてはお前!

 

 ゆうしゃの じゅもん!

「じつはやさしいんだろ」

 ポマードの こころにひびいた!

 ポマードに 42のダメージ!

 ポマードは たおれた!

 

 いい人だったんですね! すみませんでした。見るからにヤンキーだと思って、思いっきり人を見た目で判断していました。僕の心は荒んでいたようです。申し訳ございませんでした。

「な……テメェ! やっとしゃべったと思ったら、実は優しいんだろ、だと?」

 起き上がりながらヤンキーが言う。いや、そうなんでしょ。捨て猫にミルクあげてたんでしょう。こちらにはね、目撃者がいるんですよ。と、僕の頭の中の刑事がまたしゃべり出す。

「ふざけんじゃねえ! オレはな、硬派の魔法使いだぞ」

 こいつ魔法使いだったのか。魔法使いにもこういう性格の人いるんだ。

「オレは優しくなんてねえ。ただちょっと、困ってる奴がほっとけないだけだ」

 それを世間では優しいと言うのだが。僕はなんだか、あったかい気分になった。

「一応聞くが、お前も困ってるのか?」

 僕は頷く。そして、マカロンが言葉を紡ぐ。

「この方は勇者様なんです。これから魔王討伐に向かわれます」

 それを聞いたヤンキーの表情が、途端に凛々しくなった。

「そうだったのか……それならそうと早く言えよな。オレはポマード。力を貸すぜ」


 ポマードを せっとくした!



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・原作となるアプリはこちら(iPhone、Androidに対応しております)
http://syupro-dx.jp/apps/index.html?app=dobunezumi

コメント

やっと話が進んだか
サクサク進むのかなあ

No.3 133ヶ月前

ゲームより打たれ弱くないか?

No.4 133ヶ月前

マカロンは俺の嫁

No.6 132ヶ月前
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