“α-Synodos” vol.260(2019/02/15)
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〇はじめに
いつも「αシノドス」をお読みいただきありがとうございます。シノドスの芹沢一也です。「αシノドス」vol.260をお届けします。
最初の記事は、環境倫理学をご専門とする吉永明弘氏にインタビューしました。「環境」や「環境保護」と聞くと、「手つかずの自然を守れ!」といった原理主義的な活動を想起しがちかと思います。しかし、「新人世」という概念の登場からもわかるように、いまや人間の影響を受けていない自然は存在しません。「原生自然」というのはもはや過去のパラダイムなのです。そうしたなか、環境倫理学という学問は何を考えようとしているのか、吉永氏にお話を伺いました。
次いで、「学び直しの5冊」。今回は安全保障をご専門とする藤重博美氏に「「相対的な安全保障観」を鍛えるための読書術」をお書きいただきました。皆さんご存知のように、安全保障というのは日本では、イデオロギー闘争が闘わされる領域となっています。しかし、対外的なリスクから国民のセキュリティを守るというのは国家の重要な役割なのですから、そろそろもっと地に足のついた冷静な議論がなされるべきではないでしょうか。いわばひとつの「普通」の学問として、データ等にもとづいた議論が重ねられるべきです。そのための読書リストとして、ぜひご活用ください。
次は「今月のポジだし」、今回はライターの赤木智弘氏にご提案をいただきました。お題はAIです。AIの進歩によって、多くの雇用が奪われるといわれています。しかし、赤木氏はむしろそのような状況こそが、労働者の福音になるのではないかと説きます。なぜなら、経営者もAIに取って代わられる可能性があるから。AIの経営者に支配される未来。ではなぜ、そのような事態が望ましいのでしょうか? 赤木節をぜひご堪能ください。
お次は、『「当たり前」をひっくり返す』(現代書館)を出版された竹端寛氏にインタビューしました。いまの日本社会で「別の可能性」を想像することはきわめて困難です。それは「当たり前」だとされていることを疑えなくなっているからではないでしょうか? 過去にそうした問いを掲げた三人の先人たちがいました。イタリア人のフランコ・バザーリア、スウェーデン人のベンクト・ニィリエ、そしてブラジル人のパウロ・フレイレです。竹端寛氏に、いまなぜこの三人が重要なのかをお聞きしました。
次に、倫理学をご専門とする伊吹友秀氏に、「エンハンスメントの倫理」についてお書きいただきました。エンハンスメントとは、医学や科学の力を借りて、通常以上の能力を得ようとすること、あるいは治療を超えてそのような技術を利用することをいいます。こうした技術は日進月歩で、文字通り加速度的に進化しています。そこにはどのようなエンハンスメントの例があるのか、またどのような倫理的な問題がありうるのか? 世紀が変わるころから、生命倫理学の文脈で盛んに議論されてきたこの問題について、議論を整理いただきました。
次いで、鈴木崇弘氏による連載「自民党シンクタンク史」。今回は「東京財団退職後」です。毎回思うのですが、鈴木氏によってかなり先駆的にさまざまな実践がなされてきたということです。シノドスはアカデミアと一般社会をつなぐ役割を果たそうとしていますが、そうした観点からも、今回取り上げられた「阪大フロンティア研究機構」は先行事例として非常に興味深いです。日本人は過去の事績を伝統化し、それをリソースとして引き継いでいくというのが苦手です。そうした意味からも、鈴木氏の過去の実践をきちんと文章で残しておくことはとても重要だと思います。
最後の記事は、コミュニティ政策を専門とする加藤壮一郎氏に、現在、デンマークで進められている社会住宅地区再開発についてレポートしていただきました。ル・コルビジェの機能主義を体現したかつての社会住宅は、移民や低所得者が集住する「ゲットー」と化してしまいました。そのような空間をいまリニューアルしようとしているのですが、そこにはル・コルビジェを批判したジェーン・ジェイコブスの思想がみられるといいます。はたして、ジェイコブスが思い描く活気に満ちた生活空間が誕生するのか? 冒頭の吉永氏のインタビューと合わせてぜひお読みください。
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