〇はじめに
1. 井上智洋「BI導入に向けて――怠惰は一種のハンディキャップである」
2. 浅川雅己「知の巨人たち――マルクス」
3. 大西連「ある人々の日常と語られる言葉のギャップ」
4. 吉永明弘「学びなおしの5冊〈環境学〉」


〇はじめに

この文章を書いている6月29日になんと関東甲信地方で梅雨明けが宣言されました。6月中の梅雨明けは統計を取り始めて以来初とのことです。今年も暑くなるのでしょうね! 熱中症にはくれぐれもご注意ください。

さて、αシノドス247号のご案内です。最初の記事は、先日光文社新書から『AI時代の新・ベーシックインカム論』を出版した井上智洋氏へのインタビューです。BIという社会保障制度についていろいろと伺ったのですが、この制度の導入のカギは「怠惰」への社会的眼差しをどう転換させるかにあるかと思います。貧困というと怠惰と結びつけられ、道徳的な非難の眼差しに、とくにここ日本社会ではさらされる傾向が強いですが、こうした傾向をいかに解除していくか、こうした点も念頭におきながらぜひインタビューを読んでいただければと思います。

先日、ブレイディみかこさん、松尾匡さん、北田暁大さんの『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』を読んでいたら、英国でマルクスTシャツが流行ってるとブレイディさんが発言していました。マルクスのイラストと一緒に「I Told So」という文句がプリントされているそうです。資本主義は放っておくと格差を助長させていくばかりだということが実感されている中で、マルクス・リバイバルが起こっているのでしょう。では、マルクスとはいかなる思想を残した人物なのでしょうか? 今号で取り上げる「知の巨人」はマルクス。浅川雅己氏にご解説いただきました。

ついで、大西連氏に「大西さんが日々、反貧困活動をされている中で感じていることを書いてください」とお願いしました。いただいたエッセイは陳腐な表現になりますが、「人間模様」としか言いようのない情景が目に浮かぶものとなっています。一言で貧困と言っても、そこにいるのはこれまた陳腐ですが千差万別の人間です。「人々の日常は生臭く、愚かで、分別もなく、善悪の概念がないこともある。でも、それが私たちの「生」なのではないか。」こう語る大西氏の文章から、陳腐なイメージを打ち破るリアリティを感じていただければ幸いです。

最近、倫理学という学問が面白いなと感じています。前号で高レベル放射性廃棄物をめぐる世代間倫理についての論考を掲載しましたが、こうした具体的なトピックを通してみると、倫理学がとてもアクチュアリティをもった学問として浮かび上がってきます。今号の「学びなおしの5冊」では環境倫理学者の吉永明弘氏に「環境学」のブックリストをお願いしました。汚染問題・自然問題・アメニティ問題という三つの分野を扱う環境学へのガイドとしてどうぞご活用ください。