「歴史学者の中に、現在や未来について
知ったかぶりのコメントをする人がいるから気をつけよう」
私がこのように考える最大の理由が、
学問(とくにこの場合は歴史)をマスターしたからと言って、
それが必ずしも正しい現状認識や未来予測にはつながらない、
という点にあります。
と言いますのも、私はまだ学問を本格的にやろうとする前
(とくに90年代)から、
世紀末に近づいていたということもあって(苦笑)、
これから世界はどうなるのかという未来予測本を
(怪しいのから真面目なものまで)
けっこう読み漁っていた時期がありました。
ところがどの本も、あとから振り返ってみると
全然予測が当たっておりません。
そのいくつかのケースやその理由をうまくまとめて説明してくれたのが
『専門家の予測はサルにも劣る』(http://goo.gl/3AJ0W2)
という本でした。
そのような問題意識があって、最終的に私がたどりついたのが
地政学関連の本だったわけですが、
たとえば私が専門として研究している古典地政学だって、
未来予測という点に関しては
スパイクマンの中のいくつかは
異様に当たっているものがあったりしておりますが、
そのすべてが当たっているというわけではありませんし、
学問的にも体系化されているとはいいがたい部分があります。
そういう意味で、地政学も「怪しい学問」であり、
戦略論であるために、
多分に「フィクション」の部分が大きいと言えるでしょう。
なにせその怪しさを批判する「批判地政学」
というジャンルがあるくらいですから。
ところが、私がそれよりも問題だと思うのは、
やはり歴史を知っていると自任する人々
(とくに歴史学者、歴史専門家といわれる人々)が行う、
現状分析や未来予測。
なぜなら彼らは「過去」のエクスパートであるだけであって、
「現在」、ましてや「未来」のエクスパートではないのに、
なぜか「現在」と「未来」に対しても
異様に傲慢な態度を見せることがあるからです。
もちろん歴史に詳しいことは極めて重要ですし、
私もそうありたいと思っておりますが、彼らの中には
「そもそも人間という生き物は、現状把握さえ満足にできず、
ましてや未来予測も不可能である」
ということをことを忘れてしまっているような人がおります。
クラウゼヴィッツの言うように、
戦争の現場にいる人々は、誰しもが「戦場の霧」の中、
いわば「五里霧中」です。
いや、これは戦争だけでなく、
われわれ人間の活動のすべてに
多少なりとも当てはまることです。
現代のシーパワー論の世界的な権威である
ジェフリー・ティル(キングス・カレッジ教授)は、
『Maritime Strategy and the Nuclear Age』
(http://goo.gl/AzPa3G)
という本の中で
「現代と将来の分析にとっての歴史の主な有用性というのは、
教訓を導き出す点にあるのではなく、むしろ
必要な物事を要素ごとに区別して考えさせてくれる点にある」
という印象的な言葉を残しておりますが、
これは歴史を使って現状分析したり、
未来を見通そうとする(私自身を含む)
すべての人々に当てはまる警句なのではないでしょうか。
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