おくやまです。
中東のガザでは相変わらず、イスラエルとパレスチナによる、
いつ終わるか見当もつかない紛争が続いております。
そして、イスラエル側の狙いが
「ハマスの掘っている<トンネル>を叩き潰せ!」であることは、
国際ニュースなどを日々チェックしている読者の皆さんは
すでによくご存知かと思います。
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▼ガザ戦闘:イスラエル「ハマスのトンネル壊滅まで戦闘」
http://goo.gl/IiEqaG(毎日新聞)
【エルサレム大治朋子】イスラエルのネタニヤフ首相は28日夜、
パレスチナ自治区ガザ地区を拠点とする
イスラム原理主義組織ハマスとの戦闘について演説し
「トンネルの破壊なくして作戦の終了はありえない」と述べ、
ハマスが掘削した攻撃用トンネルの壊滅が最大目標だと改めて強調した。
===
さて、今回はこの「トンネル」という代物について、
皆さんにもちょっと考えて頂きたいな、と思っております。
「はあ、トンネル??」と、皆さん、お感じですね。
ですが、世の中にはモノ好きがいるものでして(笑)、
英語の記事を日常的に読んでいると、
このような「軍事トンネル」の使用の歴史について、
マジメな学者が詳しく解説している記事を発見したりします。
たとえば以下の記事は、スコットランドの歴史学の先生が書いたもの。
▼washingtonpost.com(http://goo.gl/qRwU4w)
The enemy below
: Why Hamas tunnels scare Israel so much
by By Gerard DeGroot
この記事の「キモ」をざっくりと説明しますと、
トンネルというのはローマの時代から第一次世界大戦、
そしてベトナム戦争から今回のガザ侵攻まで、
技術的には原始的でありながらも、その本当の価値は、
ハマスがやっているような兵器や兵力の輸送にあるのではなくて、
むしろ「プロパガンダ」的なところにある。
というものです。
つまり、トンネルは見えないところにつくられるものであるがゆえに
<<極めて大きな心理的効果を持つ>>ということ。
ということなのですが、
これを紹介しただけで終わってしまっては意味がないので(笑)、
ここで更にあの『戦争論』の著者である
カール・フォン・クラウゼヴィッツの格言を引いて、
話を続けたいと思います。
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さて、クラウゼヴィッツの格言の中に
「戦争の文法は変化したが、論理は変化しない」
というものがあります。
皆さん、おそらく、
「んん???<文法>?<論理>?なんですか?それ?」
状態ですね?
これはどういうことか?というと、要するに、
「戦争には時代ごとに様々な形があるが、
それでもそれが戦争であるという本質的な部分は変化しない」
クラウゼヴィッツさんの格言は、
「戦争の文法(=様々な形)は変化したが、
論理(=戦争の本質的な部分)は変化しない」
ということを言っているわけです。
一見しただけでは「え?当たり前のことではないですか?」
とも思えてしまうものですが、
そこは、ナポレオン戦争の時代を生きた
このクラウゼヴィッツという
プロイセンの偉い軍人さんが言うだけのことがあり、
なかなかの含蓄が含まれております。
先程ご紹介した英文の記事のハマスのトンネルですが、
これは技術的には古代から使われているものです。
ということは、地盤の状態などにもよりますが、
基本的にスコップやツルハシという単純な道具で、
時間と人数さえつぎ込めば、あとは人力だけで掘れてしまう、
極めて<<ローテク>>なもの。といえるわけです。
もちろんトンネルだけでは敵を倒すことはできません。
ですが、これがもし相手がこのトンネルの存在を知らなかったとしたら・・・
思いがけないところから敵が出没して作戦行動を行ったり・・・
敵の<怖れ>を引き出すという意味で、
トンネルというのは、その効果が絶大です。
実際、このトンネルを効果的に使ったハマスの「特殊作戦」によって、
2006年の6月にイスラエルは若い兵士を一人誘拐されてまして、
この兵士は5年間パレスチナ側にとらわれの身になった後、
最終的には1000人のパレスチナ人との
「捕虜交換」という形で、無事帰還出来ました
しかし、イスラエル側の立場になって考えてみればすぐ分かるのですが、
「<トンネル>が、なんと!自分たちの兵舎のすぐそばまで掘られていた!?」
となると、その衝撃やいかに。
それはもうリアルに"ビビった"イスラエル軍側は、
今回の攻撃でもわかるように、
どれだけ国際社会から総スカンを喰らおうとも、
ある意味、徹底的に無慈悲に、ハマスのトンネルつぶしを敢行。
トンネルという「兵器」は、それほどまでに
心理的な面におよぼす効果が大きかったのです。
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「戦略」の要諦は、結局のところ、敵と味方の「心理」にあります。
「トンネルをつくる」というそのこと自体で、
相手が「参った、降参だ」というケースは歴史的にも多くはなく、
実際に戦略的な効果を上げたのは、
攻城戦などの限られたケースだけです。
それではなぜこれがいまだに使われているか?
という話になりますが、
それが、今回、私が話してきたように「相手がビビる」からです。
この「相手をビビらせる」というのは、
「戦略」の要素としては、クラウゼヴィッツが指摘するように、
古代から何も変わっておりません。
「そうは言っても、おくやまさん!
アメリカなどは中東などで無人機にミサイルを載せて飛ばし、
次々とテロリストと思しき人物たちを殺害しているではないですか!」
と言いたいですよね?わかります。
確かに、このような話だけを聞きますと、
「やっぱり先進的なテクノロジーを持っているほうが強い」
という感じになります。
しかし、ここでもっともシンプルな大前提に立ち戻って考えてみると、
戦争というのは、あくまでも「人間」という、
それこそ古代から変わらない存在が
主体になって行われるものです。
今回のイスラエルVSハマスの件が
「トンネル」の問題に起因しているように、
テクノロジーの変化というのはたしかに重要なのですが、
時として、それよりも致命的になってくるのは、
むしろ、このローテクによって発生する、
ごくごく人間的な「脅威(=怖れ)」のほうだったりするのです。
相手の心理に訴えかける部分が大きいために、
より「戦争の本質」に近いものだと言えるのです。
クラウゼヴィッツの格言によれば、
「戦争には時代ごとに様々な形があるが、
それでもそれが戦争であるという本質的な部分は変化しない」
です。
私は、このところ、生放送やこのメルマガなどでも繰り返し、
「人間というのはどれほどテクノロジーの発展した時代に生きていても、
所詮は普通に欲望をもった汚れ多き人間である。」
ということをしつこいくらい(笑)言い続けております。
そして、同じく「リアリズムから目を逸らしてはいけない!」
としつこく主張している理由も、まさにここにあります。
「人間」というものがこの世に存在し続ける限り、
「戦争」はもちろん、「戦略」というものも、
その<本質>は変化しないのです。
( おくやま )
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