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不確実な世界で「確実なこと」とは?|THE STANDARD JOURNAL

2014/04/15 12:01 投稿

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  • 奥山真司
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おくやまです

私のブログをご覧の方は
すでにご存知かと思いますが、
私のブログに米海軍大学教授であるジェームス・ホームズ氏が、
フォーリン・ポリシー誌に、
「中国は日本の南西諸島を奪うかもしれない」
(http://goo.gl/uaSZIL)
という興味深い題名の論文を書いております。

これを要約したものを、私はブログで三本連続で掲載しました。

▼ジェームス・ホームズ:「中国に沖縄取られたら」論(1)
(http://goo.gl/OLvXG8)
▼ジェームス・ホームズ:「中国に沖縄取られたら」論(2)
(http://goo.gl/Xw5Ueq)
▼ジェームス・ホームズ:「中国に沖縄取られたら」論(3)
(http://goo.gl/x9JcX7)

かなりの長さになってしまいますが、
少しでも興味のある方は、ぜひお読み下さい。

さて、今回はこのホームズ論文について、
私が感じたことを以下の3点にまとめてみました。

1.未来は不確実である
2.集団を「コントロール」することの難しさ
3.「最悪のシナリオ」は思考訓練のため

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1,未来は不確実である

ホームズ論文を読んだ方の中には、
「さすに、ちょっとそこまではないだろう・・・」
という感想をお持ちになったかたもいらっしゃると思います。

たとえば、

●北京政府は「尖閣諸島や琉球諸島の南部まで」
 を占領する前に海上自衛隊を迅速に片付ける

というものや、

●琉球諸島の奪取は、中国側にとって「非常に大きなリターンがあり、
西太平洋におけるアメリカの支配状態の終焉の到来
を早めることになるマイナーな作戦」と見られる可能性がある。

さらには

●中国軍が尖閣を占拠したら、
 そこから近くの琉球諸島まで手を伸ばす

というコメントなど、今のわれわれの感覚から見れば
「それはないだろ!」とツッコミが入りそうなことが書いてあります。

しかし、このような「未来」の話というのは、
荒唐無稽なものとして、一概に拒否することはできないのです。

なぜなら、「未来」というのは読んで字の如く、
「いまだに来ていない」こと。
なので、誰もこれから実際に起こることを、
完璧に予測できる者などいないのです。

つまり、われわれには

「実際のところ、現実に何が起こるかわからない」

わけでして、それならば、
<起こりそうもない最悪の状況を想定>しておく
ということだけでも大切ですよね、ということになります。

そして、今回のこのホームズ氏の主張、
もしくは、彼が紹介している
「日本の戦略家」の想定している
「最悪のシナリオ」というのは、
あくまでも想定される「シナリオ」のうちの一つ
でしかないことを忘れてはいけません。

2.集団をコントロールすることの難しさ

今回のホームズ氏のこのような記事を読んでいると
ついつい忘れてしまいがちですが、
「戦略」というのは、
「国家」や「軍隊」のような
集団や組織が実行するものです。

そして集団や組織というのは、当たり前ですが、
バラバラな考えや、各人毎に好き嫌いを持ち、
内部で権力争いを行う"泥臭い"人間同士が
集まって仕事をすることを意味しております。

そうなると、この人間の集団が、
どこまで一つの意志や戦略の指針の下に
まとまって行動してくるのか?という部分も、
実は肝心になってまいります。

例えば、中国との件ならば、
尖閣に侵入してきている「海警」の船に乗り込んでいる、
現場の人間が何をやるかわからない
という怖さがあります。

その一例が、『自滅する中国』(http://goo.gl/KYMPTj)の中で
原著者のルトワックが触れているように、
中国側による外国の艦船に対する一連の「レーダー照射事件」の数々。

この件の詳細については省略しますが、要するに、
現場が勝手に相手を挑発するようなことを日常的にやっているわけです。
ですから、いつこれがアクシデントにつながるかもわからない。

そして、これは中国側だけでなく、日本側にも当てはまります。
いくら規律の高い海保や自衛隊が現場にいたとしても、
何かのキッカケで、突発的な事態が発生したり、
それにに巻き込まれたりすることは
十分に想定出来るのです。

「統一した意志によって集団を統制できる」というのは、
このような件について考える際には
ひとまず<幻想>である、
としておくことが当然なのです。

3,「最悪のシナリオ」は思考訓練のため

ここまでで述べてきました通り、
不確実な未来をコントロールするための戦略というのは、
常に「最悪」を想定するもの。

いわば「想定外」を想定しておくわけですね。

ここで少し脱線しますが、
ホームズは、その最悪の想定の中に、
尖閣に対する「漁民」の上陸や、さらには
フィリピンが南シナ海で漁船を座礁させたような例
というものを想定していないところが、
私としては少々物足りなく感じております。

私は以前から、中国の戦略のアプローチは、
医学用語で言うところの
「ローカス・ミノリス・レジステンティエ」
(locus minoris resistentiae)
つまり、身体の中で抵抗力が落ちている
「抵抗最弱部位」を狙ってくるものである、
と考えております。

そういう意味では、もし仮に、
日本と中国が衝突するような事態となった際には、
人民解放軍が軍事的に正面から侵攻してくるというより、
いわゆる世論戦(=プロパカンダ工作)や、
沖縄内部での独立運動(?)への支援など、
もっと日本側にとって「嫌らしい」ものになるのでは?
などとも考えております。

さて、それはともかく、
このような「最悪」のシナリオを想定することの効用は、
戦略を考える際の訓練になる、というもの。

今回のホームズのシナリオを
正面から殊更深刻にとらえる必要はないわけですが、
それでも「可能性の一つ」として考えに入れておくことは、
大いに意義のあることですし、必要なことなのです。

そして、ここで恒例の読者の皆さんからのツッコミが入りそうです。

「なんだよ、おくやま! 
 戦略論って、確実な答えを教えてくれるものじゃないの?!」

なるほど。

たしかにある程度結果が予測できるような
「ビジネス戦略」のようなものでしたら、
"短期的な答えのようなもの"
は出すことができるかもしれません。

しかし、「何でもあり」の国際政治や紛争の場合は、
逆に「何が起こるのかわからない」
という前提から物事を考えておいたほうが無難、
ということになるのです。

そして、ここで一つ、重要なことに気付くわけです。
そういう不確実な戦略環境の中で、かなり確実性が高いもの。

読者の皆さんは、それは何だ?とお想いでしょう。

それこそが「地理」です。
「地理」というのは、不確実な紛争を考える上では
「変化しづらい要素」として極めて注目に値するものです。

例えば、ホームズが今回の「シナリオ」の中で、
宮古島を要害として指摘したのは、
このような地理をベースにした「地政学」の知識が
現代においても、依然として重要であることの決定的な証拠です。

そういう意味で、地政学は決して時代遅れにならない知識なのです。

( おくやま )



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