シドニアの騎士 第九惑星戦役第7話「鳴動」のストーリー解析を行う。原作未読。→前回
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■評価
★★★ テクニカル

[ニコニコ本編]http://www.nicovideo.jp/watch/1432526184
■総評
第7話は第6話に引き続き、シリアスと癒しの回。ひとまず、サービスシーンが目を引き、ラブコメ放射線射出装置の完成も近い。ストーリーとしては若干強度不足の点もあるが、ストーリーの背景、テーマ、関係性、伏線などはある程度、バランスが取れている。
■基本情報
原作 - 弐瓶勉(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
監督 - 瀬下寛之
シリーズ構成 - 村井さだゆき
脚本 - 村井さだゆき
アニメーション制作 - ポリゴン・ピクチュアズ
→Wikipedia
■登場人物
[主人公たち]
谷風 長道(たにかぜ ながて) - 逢坂良太
科戸瀬 イザナ(しなとせ イザナ) - 豊崎愛生
緑川 纈(みどりかわ ゆはた) - 金元寿子
仄 焔/煉(ほのか えん/れん) - 喜多村英梨
白羽衣 つむぎ(しらうい つむぎ) - 洲崎綾
[シドニア幹部]
小林(こばやし) - 大原さやか
落合(おちあい) - 子安武人
科戸瀬 ユレ(しなとせ ユレ) - 能登麻美子
[岐神開発]
岐神 海苔夫(くなと のりお) - 櫻井孝宏
岐神 海蘊(くなと もずく) - 佐倉綾音
[外生研]
田寛 ヌミ(たひろ ぬみ) - 佐藤利奈
[東亜重工]
丹波 新輔(たんば しんすけ) - 阪脩
佐々木(ささき) - 本田貴子
[寮母]
ヒ山 ララァ(ひやま ララァ) - 新井里美
[衛人操縦士]
サマリ・イッタン - 田中敦子
弦打 攻市(つるうち こういち) - 鳥海浩輔
勢威 一郎(せいい いちろう) - 坪井智浩
■ドライバー分析
第7話のメインドライバーは、
1.暴走した重力子放射線射出装置が消滅する(E-E、E-G)
2.イザナの体が女性に変化したことがはっきりする(P=L、E-G)
である。また、サブドライバーとして
3.サマリが自信を無くし、長道に話を聞いてもらう(E-G-L-F)
4.焔が長道と仲直りしようとするが、タイミングが合わない(G)
5.纈が谷風邸を訪れてほっこりする((E)-G、P-L)
などがある。
第7話は、第6話を延長したようなハイブリッド回。前半は、重力子放射線射出装置の問題、後半はシドニアガールズのサービスシーンが続く。視覚的には面白いが、ストーリーやテーマという点ではやや強度不足の感もある。
背景にあるテーマや関係性に注目してストーリーを振り返ってみよう。
まず、第7話の前半は、第6話のラストで暴走を始めた重力子放射線射出装置の問題解決に充てられる。すなわち、暴走した重力子放射線射出装置を止めることが、ひとまずストーリーの目的といえる。
[制御不能となった重力子放射線射出装置]
ただし、今回のストーリーの目的は、必ずしもそれだけではない。なぜなら、重力子放射線射出装置は、結局自らの手で爆発という結末を迎えるからである。
一般に、問題の解決型のストーリーは、「問題を引き起こすもの(E)」と「解決に導くもの(G)」の組み合わせによって起こる。
そして、問題を引き起こす主体と解決を解決に導く主体が何者であるかは問わない。つまり、問題を引き起こすものと解決するものが同じであったとしても、それは問題解決型のストーリーであることに変わりはない。
[装置は自ら、重力子放射線と共に消えた]
ただし、その場合、ストーリーの強度は下がる傾向にある。なぜなら、問題と解決が共に1つの主体によって支配され、他者の介在が不要になるからである。
今回の場合、重力子放射線射出装置の暴走に対し、ユレが装置の停止に向かったり、衛人隊が攻撃を仕掛けたり、長道たちが現場に向かったりといったシーンが描かれた。しかし、これらの行動が、問題を解決に導いたとは言えない。
[ヘイグス粒子供給源を止めに向かうユレと、問題に対応する纈]
逆に言えば、第7話の前半のストーリーは、「ユレや纈、衛人隊、長道達の行動が、何の成果も挙げられなかった」ということにこそ意味があるストーリーだと言える。
分析的に言えば、第7話のストーリーは問題解決型であると同時に、問題非解決型でもある。つまり、より具体的に言えば、問題が収束したという以上に、「重力子放射線装置の暴走による被害を食い止めることができなかった(E-E)」ということがストーリー上、重要だということだ。
[大きな被害を目の当たりにするユレ]
この後者のストーリーは、より支配的で、その主体は重力子放射線射出装置だけでなく、開発者のユレや、小林らも該当する。
大シュガフ船との戦闘を前提とするなら、為政者としての小林の判断は正しい。しかし、今回の事故で、開発者のユレには少なからず、後悔や迷いがあったはずだ。
おそらく小林は今回の事故を、前者の「問題は無事に収束した(E-G)」という問題解決型のストーリーで捉えているだろう。しかし、ユレは後者の「事故を防ぐことができなかった(E-E)」という問題非解決型のストーリーとして捉えているはずだ。
この防ぐことができなかったというストーリーは、ユレに新しい動機を与えるきっかけとなっている。このストーリーは、ユレが佐々木に電話をかけるという形で続いており、何らかの進展があるようだ。
[ユレから相談を持ちかけられる佐々木]
第1期第9話の「オロシの儀」において、補助脳とリンクした落合(クローン)は、小林に対し「いずれ俺の力を必要とする時が必ず来る」と言っていた。落合が長年研究していた重力子放射線射出装置は、まさに落合の力の1つと言えるだろう。
小林は落合の補助脳から取り出したデータにアクセス権限をかけ、おそらくユレにのみ高い権限を与えて開発を進めさせている。小林は研究から落合を切り離し、技術だけを手に入れたつもりかもしれないが、ストーリー上、落合を排除することは不可能だろう。
[開発の続行を指示する小林]
小林が落合(海苔夫)の躍進をどう見ているかは不明な点もあるが、クローンでない落合本人が、危険な存在であることは変わりない。そういう意味で、小林の決断の先には常に危うさが存在する。
[『フン、まだ駄目か……』とつぶやく落合]
さて、こういったシリアスは展開の一方で、ストーリーの後半は、ラブコメの波動とでも言うべき、サービスシーンの応酬となった。ラブコメ展開は、焔、サマリ、イザナと続き、ストーリーに休息を与えている。
[怒涛のサービスラッシュ]
ラブコメ展開は概ね満足だが、若干、残念なのはストーリーの強度という点では物足りないということ。その原因は、焔やサマリがメインヒロインではないことや、焔に関するストーリーが完結していないことなどにある。
ただ、そこは突っ込んでも仕方ないので、各ヒロインファンへのサービスということで納得しておこう。
ただ、少しだけ後半のストーリーの背景を補足するなら、そこには「戦いの激化に対する不安」というテーマがある。
まず、サマリが長道を頼った原因は、激化する戦闘で自信を無くしたということだった。高い機動力を誇る融合固体のつむぎや、継衛・改に搭乗する長道に比べると、サマリたちの一八式が時代遅れになりつつあることは間違いない。
[東亜重工を視察するサマリら]
そんなサマリが、東亜重工の掌位専用装備を見て、「これでガウナに突っ込むぐらいしか役に立たない」と言われた気がしたとしても無理はない。そんなとき、強い男長道がそばにいたら光合成したくなる気持ちも分かる(弦打ドンマイ!)。遡れば、赤井達が長道を頼ったエピソードにも似ている。
[光合成したくなっちゃったな……]
また、事故の際に最上位権限に阻まれ、何も知らされていなかった纈にも不安はある。纈は司令補として指示を出す必要があり、その結果として今までにも多くの戦死者を出してきた。
サマリも纈も指示を出す立場にあり、戦いの激化は、「自分の指示によって多くの戦死者が出る」という共通の不安であると言えるだろう。(纈はさらに、指示の際、重要な情報にアクセスできないという不安もある。)
谷風邸を訪れたとき、纈が「こんな落ちついた気持ちになったのは久しぶりですよ」と言ったのには、度重なる戦闘や、事故の後処理などがあり、殺伐とした気分になっていたという理由があるだろう。
[谷風邸を訪れたのは、癒しを求めたからかもしれない]
このようなテーマは、ラブコメではなく、安らぎと言った方が良いだろう。長道やイザナ、つむぎの周りには、安らぎの場が広がっており、それがストーリー上、危険な世界の対極に位置しているのは面白い。
このように、第7話は、1つ1つとしては、やや強度に欠けるストーリー展開だが、世界観の奥行きはある程度確保されている。
■補足、入植者の元に現れたガウナ
最後にラストシーンについて。第7話の引きは、入植者の元にガウナが現れるというものだ。非武装主義者たちは、カビザシがガウナを引き寄せるという論を展開し、シドニアを下船した。しかし、それはガウナによって覆された。
[ガウナに襲われたらしき入植者たち]
実際、第1期第10話でユレはカビザシや融合固体、人工カビがガウナを引き寄せていることを明言していた。だから、非武装主義者の主張は決して間違っていない。では、なぜガウナは現れたのだろうか。
そこで思い起こすと、一番最初に地球がガウナに襲われた際、カビやそれに類するものが地球上に存在したとは考えにくいだろう。カビの発見がシドニアにとって大きな転換点であったことを考えれば、その発見前史において、カビが無いにも関わらずガウナの脅威があったことは確かだ。
つまり、カビ類がガウナを引き寄せることは事実だが、カビ類が無いからといってガウナに襲われない理由にはならない。
さらに、シドニアのテーマを前提に考えるなら、ガウナが人間自体に興味を抱いている可能性もあるだろう。これは星白の言っていた「人間とガウナは異質すぎて、対話の方法が分からないだけ」という発言にもつながる。また、星白は「初めて地球に降り立ったガウナは人型だった」とも語っている。
[地球に降り立ったガウナの図(第1期第5話)]
ガウナが山野や星白を模写した理由はいまだに謎だし、ガウナの行動原理は、いまだ持って分からないことばかりだ。融合固体であるつむぎが、長道の体のサイズを興味津々で測ったりする行動には近いものも感じられる。ガウナの謎は、シドニアの最も大きな謎だ。
■おまけ
纈が……、パッドだと!?パッドまで作ってるとは東亜重工恐るべし。ということは、佐々木も?と思ったら、佐々木の胸はしっかり揺れていた。もしかして、纈の胸が揺れるシーンは無いのか……!?
[パッドと司令補の組み合わせの破壊力がやばい]
[そして、完全勝利したイザナ。同棲が効いたのか]
ちなみに、イザナが長道とトランプしないと怒っていたのは、お風呂の声が丸聞こえだったと分かったから。かわいい。
■残された謎
①落合とつむぎはどうやって通信しているのか?
②落合の研究室にいた小さな騎士は何か?
③落合はなぜ100年前、極端な行動に出たのか?
④ガウナとはどういう生物なのか?
⑤カビとは何か?
⑥市ヶ谷総一郎とは誰か?
⑦星白の体には秘密が?
⑧星白が衛人操縦士を目指した理由とは?
⑨有機転換炉には秘密が?
■ストーリー詳細
(岐神開発実験場)
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E 重力子放射線射出装置がヘイグス粒子供給源を取り込み暴走を始める。
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(司令室)
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P 重力子放射線の射出に伴い重力障害が発生し、纈たちが対応に回る。
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(谷風邸)
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P 長道とイザナに待機命令がかかり軍部に向かう。
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(岐神開発実験場)
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E 装置の暴走が進み、小林らが退避する。
G ユレがヘイグス粒子供給源を停止に向かう。
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G 衛人隊が現場に到着する。
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E 衛人隊が攻撃を開始するが、どうにもならない。
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E 重力子放射線射出装置が周囲を巻き込み消滅する。
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E 実験場の一部が消滅している。
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P 長道らが現場に向かい救助にあたる。
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(後日、実験場跡)
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G 小林はユレに重力子放射線射出装置の開発を続けるよう指示する。
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(東亜重工)
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P 長道、サマリ、弦打、勢威、焔、煉らが東亜重工の新兵器を視察する。
P 掌位専用の装備や、人工カビの刀などがある。
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E 長道と焔はまだ仲直りしていないようだ。
E サマリは新装備を見て、ちょっと不安になっている。
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G 佐々木にユレから着信があり、相談をもちかけられる。
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(光合成室)
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G 煉が焔に仲直りを勧める。
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(操縦士待機室)
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G 焔が長道におにぎりを持っていく。
E しかし、そこにサマリも来たので、焔は隠れる。
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G サマリが長道を誘う。
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(居酒屋、ねぎくじら)
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G サマリが長道を誘い居酒屋に行く。
E サマリは自信を無くしているらしく、長道に弱音を吐く。
GL サマリは長道にいつでも話を聞くと言われきゅんと来る。
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L サマリが長道に「光合成したくなっちゃった」と言う。
F しかし、長道は酒を飲んでしまい酔いつぶれて聞いていない。
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(格納庫前)
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P 訓練のため、長道は格納庫へ向かう。
E しかし、そこでイザナが立ち往生している。
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E イザナは操縦士服が壊れてしまったといい、制御プログラムをハックして無理やり操縦服を着ようとする。
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E しかし、原因はイザナの体系変化であり、無理な装着に操縦士服が破れて、長道に裸を見られてしまう。
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(谷風邸)
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E イザナの胸が大きくなり女性化していることを長道が知り、ちょっと気まずくなる。
P そこにつむぎがやってくる。
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P さらに、纈がやってくる。
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P つむぎの存在が纈にばれてしまうが、纈は前から黙認していたという。
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(テラス)
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GL 纈は落ち着いた気分になる。
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G イザナは纈に相談したいことがあると言う。
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(お風呂)
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G イザナはつむぎと纈に体の変化について打ち明ける。
P イザナの胸は大きく成長している。
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P 纈は実は胸パッドで、イザナの方が胸が大きいようだ。
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L つむぎはイザナに「女性化したということは、つがいの男性が見つかったのか?」と聞く。
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L お風呂の声は下の階の長道にも聞こえており、長道は飲みかけのスープを噴出す。
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F つむぎが恥ずかしくなってお風呂を出て行く。
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(リビング)
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P イザナがお風呂から上がり、リビングに下りていくと長道がご飯を食べている。
P そこにお風呂場からの声が聞こえてきて、イザナはさっき話したことが長道に筒抜けであることに気がつく。
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F 恥ずかしくなって、イザナが長道に八つ当たりする。
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(レム恒星系、第七惑星セブン、衛星)
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P 移住者たちが、話している。無事入植が進んでいるらしい。
E しかし、そこに巨大なガウナが現れる。
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(つづく)
→次回
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